January 17, 2025

【H.U.グループホールディングス】強みを活かす構造改革を推進、高齢化社会を見据えヘルスケア事業にも注力

Hiroko Nakata
Contributing writer

Shigekazu Takeuchi, CEO of H.U. Group | Haruo Motohashi

2016年に竹内成和氏がみらかホールディングス(現H.U.グループホールディングス)のトップに就任した時、硬直的な縦割り組織に戸惑ったという。なぜなら、竹内氏は全く分野が異なり柔軟性が求められるエンターテインメント産業の出身だったからだ。

H.U.グループホールディングスは、臨床検査および臨床検査薬を中心とした事業において75年の歴史がある企業で、その業界は規制が多いことで知られている。

「ギャップがとても大きかったことは事実です。やはり色々な意味で硬直的で遅れていると感じました。私がここに招聘されたのも、それを変えるためだったと思います」と代表執行役会長兼社長兼グループCEOの竹内氏は経営共創基盤の木村尚敬パートナーとのインタビューの中で述べた。

竹内氏が最大の課題と位置付けたのは、2005年に2社の統合により設立されたみらかホールディングスがそのシナジーを発揮していないということだった。2社とは、1950年に医薬品製造・販売会社の富士臓器製薬として設立された富士レビオと、1970年に臨床検査の受託企業として設立されたエスアールエル(旧 東京スぺシアルレファレンスラボラトリー)である。

2社は必要なものを共有しておらず、社内メールのドメインも統一されていないなど社内ネットワークも統合されていなかった。例えば、富士レビオは臨床検査薬(IVD)の分野で世界をリードしているが、臨床検査で日本トップのシェアを誇っているエスアールエルが、富士レビオの検査試薬や機器を使用することはほとんどなかったと竹内氏は言う。

縦割り組織を起因とする効率性の低さは今後の成長の障害になりうると竹内氏には感じられた。すでに竹内氏は、音楽やアニメなど幅広いエンターテインメントの分野でのリーダーシップや改革の推進で評価を得ており、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントの会長も務めた経験があった。

Takeuchi speaks to Kimura at the H.U. Group’s office in Akasaka. | Haruo Motohashi

「なぜ同じ会社でシナジーを取らないのか疑問を感じました。やはり縦割り組織では色々な意味で会社の一体感が醸成されにくいのです」

このような課題を解決するために、竹内氏は構造改革を進めた。だが、長年の慣例に慣れていた社員からは反対の声もあったという。

改革を始めるにあたり、2017年を「第二の創業」と位置付けた。そして、2020年7月には社名を「みらかホールディングス」から”Healthcare for You”を意味する「H.U.グループホールディングス」に変えた。「グループの一体化戦略を大きく打ち出すことによって、一歩前に進もうと思ったのです」

例えば、竹内氏が進める改革のなかに「焼畑改革」と呼ぶものがある。多くの日本の伝統的な企業が導入している「カイゼン」(現状から徐々に改善していくこと)ではなく、一から作り直すという意味だ。例えば、次期中期経営計画の作成において、過去の決算に基づき数値目標を積み上げていくというやり方を見直すことに決めた。「中期経営計画は数字から作るなと指示しました。5年の間に何をどう変え、それを変えたことによって5年後、会社はどのような数字を残せるのかを示すのが、私が考える中期経営計画です」と竹内氏は話す。

さらに、高齢化社会が進行するなかでヘルスケア分野のビジネスチャンスを拡大するための手段を講じた。これまでH.U.グループは大規模病院での特殊検査に強みがあった。その分野に加え、より多くの人々のヘルスケアに貢献するために、一般の方でも使える検査キットの開発や販売にも力をいれるようになった。

「一般の人たちが病気にならないためにどうするかということにもっと注力していかないといけない」と竹内氏。人生百年時代と言われて久しいが、百年の人生のうち、寝たきりで何十年も過ごせばいいわけではないと、健康寿命の大切さを語った。

事業のさらなる強化のために、東京都あきる野市に、巨大な臨床検査ラボラトリーを備えた122,000平方メートルの施設「H.U. Bioness Complex」を建設した。検査ラボには24時間稼働の全自動化ライン、医療施設から運搬された検体を運ぶロボットなどがある。これまで八王子市にあったラボと比較すると、検査効率が改善したという。八王子ラボは、複数フロアの複数の建物で構成されており、フロア間・建物間で検体を運ぶのは非効率だったという。

Haruo Motohashi

さらに、新しいラボは働くスタッフ同士の交流を促すように設計されている。検査ラボはR&D(研究開発)棟やカフェがある厚生棟などの施設と回廊を通じてつながっており、各施設を細胞体にたとえ神経回路(シナプス)をモチーフにした回廊の設計になっている。また、回廊は大きな中庭を囲む作りになっている。「働いている人たちは、一日中検査に向き合っているわけです。昼の時間や3時などに気持ちを解放してあげる必要があると思いました」と竹内氏。

他にも竹内氏が力を入れたのは研修や教育を通じて個々人の潜在能力を最大化することだ。2022年に竹内氏は「H.U.ビジネスカレッジ」を設立し、ロジカルシンキング、マーケティング、マネジメント戦略、会計や法務のような幅広い分野での知識を学べるようにした。

若い社員のモチベーションを高めるために、社内の他部署のポストに応募できる人事制度も導入した。

今後、遺伝子治療がさらに進化し、従来の臨床検査が不要になるような医療業界の変化に対応していくためには、社員一人ひとりの能力を高め、人的資本をさらに強化していくことが必要不可欠だ。竹内氏は、新しいラボが2025年3月期に本格稼働し、施設の減価償却が終了した後の数年間が重要な時期だと認識している。

「この変化に我々がどう柔軟に対応していけるか。組織や人という、まさに内部のソフトを充実させていくのが次の課題だと思っています」と竹内氏は述べた。


Naonori Kimura
Industrial Growth Platform Inc. (IGPI) Partner

個の力を高めヘルスケアにおける社会課題解決にチャレンジしていく

「会社の力とは、個人の力の総和である」と、竹内社長は力強く語る。社長就任からの8年間の中で、会社の風土改革から人事制度改革に至るまで経営トップとして自らが旗振り役として推進してきた当事者だからこその重みを感じた。

規制業界であり、かつ人命を預かるが故にオペレーショナルエクセレンスの追求を求められてきた社員のマインドセット変革は苦難の連続であったと想像に難くないが、H.U. Bioness Complex設立の事例の様に、未来を見据えたビジョンの具現化と実現に向けた大胆な改革を、「10年スパンで取り組む」覚悟で地道に取り組んできたことで真に会社のカルチャーとして根付き始めているようだ。「焼畑改革」や「HaPpy WorK(=WaKu waku)」など、興味深い言葉が多く並ぶが、単にキャッチーなだけでなく、中身が伴う形で社員に浸透しているのはその証左であろう。

コロナ特需とその反動を経てようやく平常化が見えてきたこれからがむしろこれまでの改革の真価が問われる時期だと、竹内社長は気を引き締める。

臨床検査・検査薬を軸とした命を守るインフラとしての医療領域を超え、ヘルスケア領域へと事業領域を広げていくことで、「超高齢化社会の到来」「膨張する医療費」といった日本の社会課題の解決に必要不可欠な企業へと更に進化を続けていくだろう。

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