January 17, 2025
王子ホールディングス、森を育て、森を活かす最適解への挑戦
Translator: Tomoko Kaichi
日本を代表する製紙会社の王子ホールディングス(HD)株式会社は、国内外に合計63万5000ヘクタールの広大な森林を保有・管理する。木材や紙、木質由来の材料、バイオマス発電の原料となる森林資源は、持続可能な資源として注目を集めるが、その持続性はそれをいかに活用し管理していくかにかかっている。100年にわたり植林活動を続けてきた王子HDは、森林資源を活かすことを事業の中核に据え、健全な森林の維持と、それに関わる人々の社会的および経済的福利の増進のため、世界各地でさまざまな取り組みを実施する。森林の多面的な価値を的確に評価し、その最大化を図ることにも努めている。
王子HDは海外23カ国に生産拠点を有し、多彩な製品をグローバルに展開する。森林を育て、持続可能な森林資源を生み出す植林事業には、海外だけで従業員1万3000人が従事する。
王子の森活性化推進部マネージャーの山本宏美氏によると、王子HDが所有する森林の多くは、社会サービスやインフラがしばしば限られた遠隔地にある。そのため同社では現地の状況に応じ、「主に東南アジア諸国のこれら地域のコミュニティにおいて、健康診断(などの医療活動支援)を提供してきた。これまでにベトナムで3000人、インドネシアで5500人がこれを利用した」という。
教育分野では、国内外で環境教育プログラムを展開する。日本では2004年以降、小学生を対象に、同社の森でさまざまな体験を通じて学んでもらう夏季プログラムを提供する。 「ニュージーランドでは2008年から学校で環境教育プログラムを行っており、これまでに1万人以上の生徒が参加した。ブラジルでの同様の試みには過去3年間で4,300人の参加があった」(山本氏)。
王子HDはほかにも社会貢献活動として、農家や養蜂家など地元の事業主やインフラをサポートしている。
海外のステークホルダーと連携し、森林の価値を定量化する試みにも着手。その一例が英国のスタートアップ、Pivotal(ピボタル)との提携だ。Pivotalはドローンやカメラ、音声センサー、環境DNA、AIなどを活用し、生物多様性を包括的に分析する。「このような生物多様性の評価は日本初の試みだ。欧州では、『ネイチャーテック』と呼ばれるこの種の技術が広がりつつある。この領域で提携先を探す中で、候補に挙がったのがPivotalだった」と山本氏は振り返る。
提携の目的の一つは、日本の自然を分析し、その結果を世界に発信することだ。山本氏は、自然は一様ではないと認識することの重要さを指摘。自然資源を保全して育むために最適なアプローチは場所によって異なり、その土地の気候や地形、歴史などに影響を受けるという。
「欧州では、森林の保全にあたり、森林の過剰利用からの回復を進める戦略が求められる。森林の利用が不十分な地域が多い日本では、森林資源を適切に利用して森林を管理する必要がある」(山本氏)
日本の森林面積の約60%は自然林だが、そのすべてが原生林というわけではない。竹や木材を建築材や燃料として使用するなど、人の介入によって適切に維持されてきた「里山」として知られる森林もある。しかし、その多くもいまは放置されている。スギやヒノキを植えた人工林(植林地)も、その一部が木材生産の減少を受けて手つかずとなっている。こういった状況は資源の無駄というだけでなく、放置された森林は日照不足や生物多様性の損失により土壌が劣化しやすいことから、地域社会にとって潜在的なリスクとなる。
木の伐採は、ある場所では自然を害す行為かもしれないが、別の場所では自然を守るための手段となり得る。山本氏は、日本の森林の状態を科学的かつ定量的に分析し、日本の自然保全に最も効果的な方法を見極める必要があると強調。「自然(の価値)を定量評価することと、その結果を自然の保全や再生に役立てる取り組みは一体化して推進される必要がある。近い将来、森林、土壌、水、大気、生物資源などの自然資本に経済価値をみとめる会計制度が実現すれば、こういった取り組みは自然資本クレジットを創出する等、当社の資産価値を高めることにつながるだろう」と期待した。
一方で山本氏は、自然破壊が危機的速度で起きている現状を踏まえ、自然資本会計へのシフトは猶予を許さないと警告する。変化を加速させ、森林の恩恵を促進し、さらには国際会議での森林関連産業の存在感を高めるため、王子HDは2023年9月、世界の志を同じくする企業とともに「持続可能な森林に関する国際連合(International Sustainable Forestry Coalition)」を設立。「森林と林産物を最大限に活用することで、自然にプラスの影響を与え、持続可能な循環型バイオエコノミー社会を構築できるよう支援する」という使命の達成に向け、加盟企業と協力している。この活動は、王子HDが掲げるパーパス(存在意義)「森林を健全に育て、その森林資源を活かした製品を創造し、社会に届けることで、希望あふれる地球の未来の実現に向け、時代を動かしていく」に一致するものでもある。
王子HDは、持続可能社会の実現に向けた日本の取り組みを発信する企業グループ「Sustainable Japan Network」の会員です。ネットワークへの参加や活動詳細はウェブサイト(https://sustainable.japantimes.com/sjnetwork-jp)をご覧ください。