April 28, 2022
【ヘルジアン・ウッド】霊峰・立山を望む、田園の中のハーブ園へ。
奈良時代の歌人・大伴家持(718-785)は赴任した越中(現在の富山県)の立山に魅了され、万葉集でこう詠んだ。
『立山に 降り置ける雪を 常夏に 見れども飽かず 神からならし』(万葉集 巻17-4001)
夏でも雪が解けない立山は見飽きない。神の山に違いない、という意味だ。
いにしえより霊峰とされた立山を望む富山の田園風景。この古代より愛された日本の原風景の中に「世界一美しい村」を目指した健康をテーマとする複合施設を作ろうとするプロジェクトが進んでいる。手がけるのは富山の製薬会社、前田薬品工業の代表取締役社長を務める前田大介氏。かつて激務の中で体調を崩し、訪れたアロマサロンで心身共に救われたということでハーブは薬の原点だと気づき、事業としてハーブ栽培とアロマ製品の製造・販売を手がけることになった。日本に数多くある製薬会社の中で、自らハーブを育て、アロマオイルを抽出している唯一の会社だ。そこには、治療のためのモノづくりだけでなく、健康寿命延伸のコンテンツ創造を目指し、持続可能な社会をめざす中で多くの人に健康を享受してもらいたいという、氏の願いが込められている。
その拠点として、2020年3月にオープンしたのが<ヘルジアンウッド>だ。長年、人々が自然とともに生活してきた美しい風景をもつ約7haの敷地は、前田氏が200もの候補地の中から自らの足で見出し、地主を説得し譲ってもらったもの。そこには現在約3haのハーブ園が拡がり、地元の食材とハーブを活かした料理を提供するレストラン「The Kitchen」、そして「スパ」施設が人々を出迎えている。また、サウナ付きの貸切の宿泊施設もこの春にオープンする。日本の文化と美意識の源泉となった水田=農の風景と、海の幸をもたらす富山湾、そして霊峰立山が見せる時々刻々と変化する風景、ハーブの香り、四季折々の料理、この場で取れたアロマによるスパ・トリートメント・・・五感を通じ、じっくり時間をかけて楽しむなかで、日常から解放され心身ともに癒される贅沢な場となっている。
水田の中にたたずむ、「アロマ工房」「イベント広場」「レストラン」の建築も見所だ。設計は世界的な建築家・隈研吾によるもの。隈が実現させたのは、現代建築でありながら、かつてこの地域に見られた散居村のように、田園風景と調和し分散して配置された建築群である。伝統的な形態を採用しながら、イベント広場「The Field」では稲穂のさざ波のような木材の造形が大屋根の鉄骨構造を支え、レストラン棟では藁を断熱材として利用するなど、木材や藁といった自然素材の挑戦的な活用を随所に織り込んでいる。それは、ハーブという古くからある自然の恵み、薬草の効能を、いかに現代社会の中で活かすか、という試みと重なる。
2023年には隈研吾の設計で一棟貸しの宿泊施設も完成する予定というが、これで<ヘルジアンウッド>が完成するわけではない。「将来的には、ここを訪れた人がこの地に魅かれ定住してもらいたい。廃校になった小学校もあるので、子供たちのためにこの風景の中で学ぶ場を作りたい」と、過疎に向き合う地元の未来を活性化しようとする前田氏の22世紀に向けた村づくりへの想いは広がる。かつて、大伴家持が魅了された立山をいただく富山の風景を「・・・噂だけでも名だけでも聞いて羨ましがるよう(訳)」(万葉集 巻17 4000 抜粋)と語ったように、近い将来、世界一健やかで美しい村は羨望の場となるに違いない。
ヘルジアン・ウッド
2020年3月開業の「アロマ工房」「レストラン」「半屋外イベントスペース」を備えたハーブ園。
今年2022年初夏に、1棟貸しの「サウナホテル」が開業予定。
●富山県中新川郡立山町日中上野57-1
Tel:076-482-2536(The Kitchen)
営業時間 11:30 – 15:00(ラストオーダー14:00)ティータイム13:00 – 17:00(ラストオーダー16:00)
水曜休、年末年始・冬期休業あり。
https://healthian-wood.jp/