May 27, 2022
【大分県】半島の自然とデジタルが融合する美術館
大分県は、アートによる地域活性が根付いた土地のひとつだ。世界有数の温泉地である別府市を拠点にアートNPO「BEPPU PROJECT」が2005年から活動を開始し、「混浴温泉世界」(2009年〜)「ベップ・アート・マンス」(2010年〜)など数々の芸術祭を実施してきた。
Art Museum of Nature and Human Non-Homogeneity
The museum was built in the Nagasakibana Resort campsite in 2020. It encourages us to rethink the fundamental relationship between humans and nature.
● 4060 Mime, Bungotakada-shi,Oita Prefecture, Nagasakibana Resort campsite
Tel: 0978-23-1860
Open hours: 10 a.m. – 5 p.m. (March – October) / 10 a.m. – 4 p.m. (November – February) / Closed on Thursday (March – October) / Tuesday, Wednesday, Thursday (November – February)
Admission: ¥700 (kids: ¥300)
http://nature-and-human.art
同じく大分県の国東半島では、「国東半島芸術祭」(2012〜2014年)を皮切りに、地域内に6つのアートスポットを設置し、自然豊かな土地を巡りながらアートにも触れ合えるという新たな観光体験を創出している。特に国東半島の最北端にある長崎鼻リゾートキャンプ場にはオノ・ヨーコやチェ・ジョンファなど世界的に著名なアーティストの作品が設置され、花とアートの名所として知られるようになった。こうした芸術祭が長らく地域に根付いたことをきっかけに、長崎鼻リゾートキャンプ場内に「不均質な自然と人の美術館」が2020年に誕生した。この一風変わった名前の美術館は、あらためて私たち人間と自然との根源的な関係とは何かを考えさせてくれる。常設作品の制作を手がけた<anno lab(あのラボ)>の藤岡定に話を聞いた。
「美術館の建設予定地に滞在したとき、まず自然の美しさに圧倒されました。長崎鼻は北端に飛び出した半島なので、朝日も夕日も同じ場所から水平線に見えるし、海も森も近い。美術館が提示したテーマはデジタルアートだったのですが、ただデジタル作品を設置するだけでは、絶対にこの自然には勝てないと思ったんです」。
そこから、自然を異なる視点から見るレンズのような、アート作品を通して自然の美しさを再確認できるものをつくれないかと藤岡たちは考え、自然とデジタルが美しく融合する作品が誕生した。
館内は3つの部屋で構成される。部屋に入ると、鑑賞者の位置が精緻にセンサーで検出され、屋根にある288個の小窓が自動開閉し、ピンポイントで鑑賞者の元に太陽の光が射し込む「太陽と月の部屋」。高速で水の球を発生させる特殊な噴水を用いて、落下する水滴に正確にプロジェクションマッピングを行うことで、まるで水滴が空中でアニメーションをしているように見える「海の部屋」。円筒状の空間に、作家による手描きのアニメーションを、「ライフ・ゲーム」と呼ばれるアルゴリズムをもとに生成して投影する「森の部屋」。いずれも、美術館周辺の環境情報を解析して演出に反映されるため、訪れるたびに変化するインタラクティブな作品になっている。
今年2022年には、館外に「石」をメディアとして扱うアート作品「石の部屋」がスタート。来場者はGPSと連動して振動する石を持ってエリア内を散策し、特定の場所に立つと、その場所に紐付いたエピソードの音声が流れる。「国東半島は巨石信仰など石の文化が強く根付いた土地であり、古来の記録メディアである石を通して土地の記憶を辿る作品をつくりたいと思いました。音声は、現地の方たちとワークショップを繰り返して作成しています」。
よくあるアート作品をその土地に置いただけのような風景は、国東半島にはない。「地域に根付いた美術館にするためには、その土地の文化と歴史を深く理解し、作品に紐付けることができれば、アートの魅力、そして自然の美しさがより伝わる美術館になるはずです」。地域の文化と歴史、そして自然を継承することこそ、アートと人が担う役割なのかもしれない。