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アートと建築を次世代に継承する文化拠点へ。

April 28, 2022

ライター:塚田有那

庭部分に解体間際だった彫刻家・志水晴児の彫刻作品が移設された、清春芸術村に隣接するレストラン「素透撫(stove)」。12:00〜15:00、18:00〜21:30、月火休(祝日を除く)。
http://www.stove-kiyoharu.com/ | PHOTO: KOUTAROU WASHIZAKI

Hiromi Yoshii

清春芸術村理事長。1999年、六本木に「hiromiyoshii roppongi」を開廊。2016年、アート&サイエンスギャラリー〈AXIOM〉を設立。山梨県北杜市のアートプロジェクトHOKUTO ART PROGRAM総合ディレクター。近著『<問い>から始めるアート思考』(光文社新書)。

都心部の再開発に伴い、いま日本国内の至るところで名建築やパブリックアート作品が解体の危機にさらされている。歴史ある文化・芸術を次世代に継承するべく、父の代から二代にわたって文化保全に取り組んでいるのが、日本の現代美術を牽引するひとり、吉井仁実だ。

始まりはいまから時を遡ること50年前の1981年、山梨県北杜市の小学校跡地に<清春芸術村>が誕生した。東京・銀座とパリで画廊を経営していた吉井仁実の父である吉井長三は、日本の近代文学や近代美術の潮流を築いた一派「白樺派」との交流から、彼らの夢であった「芸術家のための村」の建設に注力していく。

清春芸術村

複数の美術館や茶室などが点在する文化芸術施設。JR新宿駅より2時間。長坂駅からタクシーで5分。
●山梨県北杜市長坂町中丸2072 TEL: 0551-32-4865
開館時間:10:00〜17:00
年末年始・月曜休
入場料: 一般1500円、大高生 1000円
https://www.kiyoharu-art.com/

春には桜が美しい<清春芸術村>。奥に見えるのはギュスターブ・エッフェル設計パリのアトリエを再現した「ラ・リューシュ」。 | COURTESY: KIYOHARU ART COLONY

はじめはアーティストが創作に没頭できるアトリエ兼住居として、若き日のシャガールやモディリアーニが滞在し、1900年のパリ万国博覧会のパビリオンとなった「ラ・リューシュ」の再現建築を設置。エッフェル塔の建築で知られるギュスターブ・エッフェルによる設計図面を買い取り、パリの建築を完璧に再現した。

その後、1983年には建築家・谷口吉生設計による「清春白樺美術館」が完成。ロダンや梅原龍三郎、岸田劉生、バーナード・リーチといった近代美術の礎を築いた作家たちの作品を展示していく。1986年には同じく谷口吉生の設計で宗教画家ジョルジュ・ルオーを記念した「ルオー礼拝堂」を建設。2006年には建築史家・藤森照信の設計のもと、台風によって倒れた樹齢80年のヒノキを用いてつくられた茶室「茶室 徹」、2011年には安藤忠雄設計による「光の美術館」などを続々と敷地内に建設していった。

<清春芸術村>には新規の建築ばかりでなく、古い建物を移築したものも混在する。その中には日本の洋画を確立したと言われる画家・梅原龍三郎のアトリエを東京・新宿から移築した「梅原龍三郎アトリエ」(1951年竣工/設計:吉田五十八)がある。梅原本人の提案により、アーティストが制作した雰囲気をそのまま残したアトリエを寄付してもらったのだという。

杉本博司+榊田倫之による建築事務所「新素材研究所」が改修した「素透撫(stove)」。 | COURTESY:NEW MATERIAL RESEARCH LABORATORY & STOVE

また<清春芸術村>に隣接するレストラン「素透撫(stove)」は、文人画家・小林勇の旧宅であり、文豪・幸田露伴に「冬青庵」と命名された、1941年につくられた美しい日本家屋を鎌倉から移築し、現代美術作家の杉本博司、建築家の榊田倫之による建築事務所「新素材研究所」が改修を手がけたものだ。日本の古美術にも深く精通する杉本の審美眼により、古き時代の質感や構造を残しながらも、どこか緊張感をもった新鮮な空気が吹き抜けるような空間が完成した。

こうして新旧の建物を混在させながら、文化をサスティナブルに継承していく拠点を築いていった<清春芸術村>だが、昨年ここに新たな作品が加わった。日本の近代建築の巨匠・丹下健三が東京・築地に設計した旧電通本社ビル(1967年竣工)が解体されることになり、その際、ビルのエントランス部分にコミッション・ワークとして設置されていた彫刻家・志水晴児の彫刻作品も人知れず撤去・廃棄されることになっていた。その彫刻家の遺族である長女の志水りえ氏がこの事実をSNSで間接的に知り、どうにか保存できないかと奔走するなかで、吉井のもとに「清春芸術村で引き取ってはどうか」という相談が舞い込んできたのだ。

「相談を受けて、すぐ翌日に車を飛ばして解体工事中のビルへ向かいました。志水さんの作品は迫力があり、これを壊してはいけないと直感したんです」。

その吉井の決意から事態は一気に動き出す。彫刻の移築にあたって、すでに進行中の巨大なビルの解体工事を半日ストップさせるだけでも莫大な労力がかかる。遺族の必死の交渉により、なんとか作品移設のための時間を確保した。その後、吉井が杉本博司と榊田倫之に移設の相談をしたところ、どんな名建築もすぐに壊してしまう日本の状況に憂いていた杉本・榊田は二つ返事で快諾。結果として「新素材研究所」がリノベーションを手がけた清春芸術村の「素透撫」の前の庭に彫刻が設置されることとなった。

「いま、似たような状況が日本各地で起きています。今回のようなアート作品の移設は、さまざまな奇跡が重なって実現した非常に珍しいケースです。アート作品に限らず、建築物も移築するより新築で建物を建てたほうが手間も費用もかかりません。ですが、これからの持続可能な社会を目指すうえで、何でも壊してつくるのではなく、古き文化を残し次世代へ継いでいくことはとても重要だと思いますし、続けていかなければならない」。

そう語る吉井は、日本国内のパブリックアートや建築などの文化財を救出するプロジェクトを検討し始めているという。

「パブリックアートや建築などの歴史ある文化を残すことが、これからのサスティナブルな社会の象徴になれると考えています。ただしそこでは、古い文化を愛でるだけではなく、今回の杉本さんや榊田さんのように、現代の空間とつなげるプレイヤーの存在も重要です。歴史ある文化に現代の芸術家や建築家が命を吹き込み、また新たな文化へとつながっていく。そうした循環が生まれることを願っています」。

画家・梅原龍三郎のアトリエを東京・新宿から移築した「梅原龍三郎アトリエ」(設計:吉田五十八)。使用していたイーゼルやパレット、絵具箱のほか、製作途中の絵画なども展示されている。 | PHOTOS: KOUTAROU WASHIZAKI

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