May 27, 2022
ART FESTIVAL in JAPAN 2022
周囲を雄大な山々に囲まれた丘陵地帯、海に浮かぶ小さな島々、または都市部の美術館から廃ビルに至るまで、日本ではそれらすべてが芸術祭の舞台となる。現在、日本国内で開催される芸術祭は大小含めて100件以上あると言われ、毎年各地域でそれぞれの土地の特色を活かした芸術祭が開催されている。2020〜2021年はコロナ禍の煽りを受けて延期や中止を余儀なくされる芸術祭も多かったが、その分今年は大型の芸術祭が重なり、Withコロナの時代において新たな展望を指し示すものも増えている。今回はその一部を紹介する。
新潟県の広大な里山を舞台に開催される「大地の芸術祭 越後妻有2022」は、日本における地域芸術祭の草分け的存在だ。2000年、総合ディレクターの北川フラムらが始動したこの芸術祭は、自然あふれる土地に世界各国から招いた現代アーティストたちの作品を展示するという異例の試みを成功させ、アートによる地域活性のロールモデルを築いた。開催エリアの越後妻有は、過疎高齢化の進む豪雪地帯であり、農業を中心とした自然と関わる文化がいま色濃く残る地域だ。鑑賞者は広大なエリア内に点在するアート作品を自ら車や自転車でめぐると同時に、美しい里山の風景を楽しむことができる。なんとそのエリア面積は東京23区の約1.2倍もあり、世界で最も移動距離が長い芸術祭といえるだろう。作品会場となるのは廃校になった学校跡地や空き家などで、会場運営の要を担うのは地域内外から集まった幅広い世代のボランティアたちだ。2018年には約54万人の来場者数を記録し、その経済波及効果はもちろんのこと、雇用や交流人口の拡大ももたらしている。日本全国で過疎化していく地域社会において、アートが新たな観光資源や地域コミュニティの育成に貢献できることを示した好例である。
続いて瀬戸内海の12の島と2つの港で開催される「瀬戸内国際芸術祭2022」も、美しい海と離島の暮らしや文化に触れられる芸術祭として、国内外で爆発的な人気を誇っている。総合ディレクターは同じく北川フラムだ。特に瀬戸内の島々には、公益財団法人福武財団が長い年月をかけて投資を行い、安藤忠雄や西沢立衛など国際的な建築家を招いて建設された世界有数の美術館やホテルが点在している。こうした一企業の文化投資と、香川県をはじめ各都市の自治体、地元企業らが連携して取り組む芸術祭とが相乗効果を生み、移動手段が船しかない小さな島々が世界的に注目されるようになった。今回で5回目の開催となるが、現在では人口150人ほどだった女木島には60人ほどの移住者が増え、産業廃棄物の不法投棄が問題となっていた豊島では、地産地消の食文化を重点的に発信したことで、いまでは観光客に人気のレストランなどが生まれるなど、芸術祭を起点としたさまざまな地域活性が進んでいる。
こうした芸術祭の成功事例から、日本各地では自然豊かな場所を会場とする芸術祭が2010年代以降から一気に増加し、その数は年々増え続けている。一方、国際的な文化交流を目指した都市型の芸術祭も忘れてはならない。ヴェネチア・ビエンナーレやドクメンタなど、世界中から人が訪れる国際芸術祭を目指して、2001年には横浜トリエンナーレが誕生。その後、2005年開催の「あいち万博(愛・地球博)」のレガシーを引き継ぐかたちで2010年に始まったのが「あいちトリエンナーレ」だ。今年は「国際芸術祭あいち2022」と名称も一新し、より国際性を高めるために海外から9人のキュレトリアル・アドバイザーを招いたことでも話題を呼んでいる。
こうした世界的にもユニークな「芸術祭カルチャー」が生まれた日本だが、真の課題はここからだろう。数々の芸術祭が乱立するなか、各自がどれだけ地域固有のオリジナリティを見出し、また資金や運営面において継続性を持ちえるのだろうか。また一時的な観光客数の増加のみに頼らず、いかにサスティナブルな経済循環や人口流入を生み出せるかも鍵となるはずだ。芸術祭の実施者たちはそうした多くの課題と向き合いながらも、アートを軸としたさまざまな地域活性に取り組んでいる。
この夏、日本各地の芸術祭をめぐりながら、サスティナビリティへの新たなヒントを学ぶ旅へ出てみるのはいかがだろうか?
2022 art festivals in Japan
YAMAGATA
みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2022
9月3日 – 9月25日
https://www.tuad.ac.jp/yb2022_outline/
東北芸術工科大学が主催する芸術祭。第5回となる今回は、現代にはびこる「分断、分離、隔離」の状況に対して、芸術やデザインを架け橋に「心がつながる場」を創出することを目的とする。アート、食、健康、環境など、領域横断的なプロジェクトが多数集まることが特徴。主催者の研究・教育機関としての知見を活かした民俗学的アプローチや現代美術的思考から新たな地域の可能性を考える展示が集まる。
MIYAGI
Reborn-Art Festival 2021-22
8月20日 – 10月2日
https://www.reborn-art-fes.jp/
東日本大震災の被災地である宮城県石巻市と女川町を主な舞台とした、アートと音楽と食を融合する総合芸術祭。震災から10年を超えた今回は、「利他と流動性」をテーマに、コロナ禍や戦争といった不確実な時代を深く問いかける装置としてのアートが展開される。また、漁業、農業が盛んな地域におけるサスティナブルな食のありかたを模索し、石巻周辺の料理人による食プロジェクトも多数展開される。
NIIGATA
越後妻有 大地の芸術祭 2022
ECHIGO TSUMARI ART FIELD
4月29日 – 11月13日
https://www.echigo-tsumari.jp/en/
過疎高齢化の進む日本有数の豪雪地、新潟県の越後妻有地域を舞台に行われる国際芸術祭。約7ヶ月間もの会期中、雄大な自然の中に約200点の作品が点在し、作品を通じて「里山をめぐる旅」を演出している。会期外にも廃校になった旧小学校を会場とした食事や宿泊体験ができるイベントを実施。アートを媒介として地域に内在するさまざまな価値を掘り起こし、地域再生の道筋を築くことを目指している。
AICHI
国際芸術祭あいち2022
Aichi Triennale 2022
7月30日 – 10月10日
https://aichitriennale.jp/
愛知県内のまちなかを会場に、現代美術、パフォーミングアーツ、ラーニング・プログラムなど、ジャンル横断的に最先端の芸術を発信する国内最大規模の国際芸術祭のひとつ。名古屋市内では現代美術やパフォーミングアーツが多数発表されるが、ほかにも綿織物の伝統を持ち、現在もウール生産が盛んな一宮市、焼き物の産地として有名な常滑市、歴史的建造物が立ち並ぶ名古屋市内の有松地区など、地域の伝統文化を現代につなぐプロジェクトも展開する。
SHIGA
BIWAKOビエンナーレ2022
10月8日 – 11月27日
https://energyfield.org/biwakobiennale/
滋賀県近江八幡市の旧市街地にある伝統的な建造物を会場に開催される芸術祭。江戸・明治期(400〜100年前)より残る空き家、元造り酒屋や元醤油蔵など、地域固有の文化を残した貴重な建物の保存を目的としながら、失われつつある文化を未来へとする継承ための新たな方法をアートとともに見出している。“日本人の持つ美意識の回復”というコンセプトのもと、海外作家も多数招き、地域の人々との交流を促進している。
KAGAWA, OKAYAMA
瀬戸内国際芸術祭 2022
8月5日 – 9月4日 / 9月20日 – 11月6日
https://setouchi-artfest.jp/
近代以降、世界のグローバル化・効率化・均質化の流れとともに島の固有性の消失や人口減少、高齢化が進み、活力が低下していた瀬戸内の島々を舞台に、「海の復権」をテーマに掲げて開催される芸術祭。瀬戸内の持つ美しい景観を活かしたサイトスペシフィックなアートや建徳物を楽しめるとともに、海に囲まれた島の人びとの固有の民俗・文化や暮らしぶりを知ることができる。
OKAYAMA
岡山芸術交流2022
9月30日 – 11月27日
https://www.okayamaartsummit.jp/
岡山市で3年ごとに開催される国際現代美術展で、今回はアルゼンチン生まれのアーティスト、リクリット・ティラヴァーニャを芸術監督に迎え、12ヶ国・24組のアーティストが参加予定。毎回海外の芸術監督を招聘し、世界最高クオリティーのアーティストを集めること岡山に眠る既存資産を掘り起こすことを目的としている。
YAMAGUCHI
UBEビエンナーレ
10月2日 – 11月27日
https://ubebiennale.com/
1961年に宇部市ではじまった市民運動「まちを彫刻で飾る運動」の一環として開催された、日本初の大規模な野外彫刻展「第1回宇部市野外彫刻展」を発端とする、60年の歴史を持つ芸術祭。ビエンナーレを通して屋外の彫刻の新作が増えることで、地域の未来を育み、次世代への継承を目指している。展示作品の公募のほか、アーティスト・イン・レジデンス事業も行い、アーティスト支援やパブリック・アートと市民の関わりについて検証を続けている。
FUKUOKA
第1回宮若国際芸術トリエンナーレ トライアート”
7月30日 –2024年 5月1日
https://www.trial-net.co.jp/TRAiART/
リモートワークを推進する官民連携事業「ムスブ宮若プロジェクト」を行う福岡県宮若市を舞台に、働き方や暮らし方が大きく変容しつつある時代におけるビジョンや人、場所、文化などの関係性をアートを通じて発信する。廃校になった学校3校が商業施設や研究施設へとリニューアルし、5組の招聘アーティストや地元の学生たちが生み出した作品が出展される。