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東北復興のフェスティバルから生まれたビオトープ

May 27, 2022

ライター:高橋ミレイ

ビオトープとは野外に生態系のミニチュアをつくり、循環を促すことで、多様な生物が共生できる場所のこと。長年かけて破壊されてきた自然生態系を回復させるため、小野寺たちはビオトープづくりに励んでいる。 | PHOTOS: ©︎ Reborn-Art Fesitval

「地球はあらゆる因果がつながる生態系の塊の集まりなんです」。そう語る猟師の小野寺望は、宮城県石巻市牡鹿半島にて、個体数が増えすぎたことで駆除を余儀なくされるニホンジカを解体し、食肉として加工する鹿肉解体処理施設「FERMENTO(フェルメント)」を2017年から運営している。この施設が誕生するきっかけとなったのが、東北被災地の復興を目指す芸術祭、Reborn-Art Festival(以下、RAF)だった。

小野寺は東京都内でシェフとしてキャリアを積んだ後、故郷の宮城県に戻り、自ら狩猟を行うようになった。「この土地には山、海や川といった様々な自然と、四季折々のおいしい食べ物があります。自分の大切な人たちに料理で最高のおもてなしをするためには、食材を自ら採取することから始めようと考えました」。

牡鹿半島の鹿肉は、ソーセージやハンバーグなどのシャルキュトリーセットとして自宅で楽しむこともできる。
https://antlercrafts.jp/

転機となったのが、2011年の東日本大震災である。震災直後、日本全国から駆けつけたシェフが被災地で炊き出しをするというNPO法人の活動に参加し、小野寺も食肉加工した鹿肉を無償で提供していた。それらの活動を通して知り合ったのが、後にRAFを立ち上げる音楽プロデューサーの小林武史であり、小林らが復興を目指して立ち上げた芸術祭の企画の一部に小野寺氏も携わるようになった。

前身となった「Reborn-Art Festival × ap bank fes 2016」では、小野寺はパートナーの目黒浩敬と共に、被災地の炊き出しで出会った日本各地のシェフたちを再び集め、彼らが地元食材を活かした食事を提供するイベント「Reborn-Art DINING」を実現する。そして2017年、本格始動したRAFの開催初日に合わせて、鹿肉解体処理施設「FERMENTO」をオープンさせた。

この芸術祭の一環として、小野寺と写真家の志賀理恵子らによる「ビオトープ」構築のプロジェクトが始まったのは2019年のことだった。ビオトープは野外に生態系のミニチュアをつくり、その循環を体感することのできる場所のことを指す。東日本大震災から8年経っても津波による塩害の影響は強く、またそれ以上に、長年かけて破壊されてきた自然生態系を回復させるには大きな壁があった。同年の大型台風で甚大な被害を受けたとき、小野寺はそれを痛感したという。「結局すべての面で人災でした。林業用地として人工的につくられた針葉樹林はもともと十分な保水力がありません。そうした造成林が大雨によって倒壊することで、土石流の原因の一つになってしまった。また三陸沿岸に流れ込む沢水や下水を狭い土管3本だけで排水しようとしたのも被害の拡大の原因になりました」

環境の変化によって個体数が増え、日本全国で害獣の問題となっているニホンジカ。捨てられるだけだった鹿を解体し、食肉加工して送り出す鹿肉解体処理施設「FERMENTO」。

台風の被害により、FERMENTO周辺の荒れ地となった環境を整備するべく、小野寺と志賀らのグループは調整池とビオトープをつくり始めた。自身も宮城県に暮らす写真家の志賀は、元々は芸術祭のアートプロジェクトのひとつとして小野寺を紹介されたが、彼の自然への意識や環境についての話を聞くうちに、まず取り組んだのがこのビオトープづくりだったという。

自然災害それ自体は避けられなくとも、生態系を蘇らせることで被害を最小限にすることはできる。「人に訴えかけるものとして、水辺の存在はとてもわかりやすいものです。ビオトープのなかに様々な生物が棲みつき、食物連鎖や繁殖による世代交代が起きることで、ひとつの生態系が循環の上に成り立つ様子を観察できます」。

今後のFERMENTOとビオトープの将来的な展望として、小野寺は子ども向けの環境教育の場となることを目指しているという。小さな生物や出来事のつながりが生態系を成り立たせることを体感することで、より規模の大きい環境問題に対する想像力を培うことにもつながるはずだ。芸術祭から誕生した施設が、地域の自然を守り、次世代へのバトンを渡していく。彼らの挑戦は、これからも続いていくだろう。

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