December 16, 2021
【Craft Inn手[té]】地域文化を伝えるために誕生した、九州の手仕事を体感できる宿。
福岡県八女市。福岡空港から車で1時間ほどの人口わずか6万人という小さな街だが、久留米絣、提灯、和紙、竹細工、陶器など、九州最大の伝統工芸集積地との異名をもつクラフトの聖地のような場所だ。
そこに今年2021年10月、手仕事を体感・体験できる宿として「Craft Inn手[té]」がオープンした。宿は八女の中心街に残る2つの古民家を改修したもので、藍・竹・和紙をテーマにした3つの部屋があり、それぞれ地元・九州のつくり手が土地の素材と技法を活かして制作したオリジナルの家具や調度品にあふれている。手仕事の技や魅力を、空間や食事を通じて体感できる宿なのだ。
だが、この宿泊施設の特筆すべき点はそれだけではない。実際に手仕事の現場を訪れ作品が生まれる過程を見学したり、職人と共にものづくりができる「クラフト体験ツアー」を用意しているのだ。一体この宿はどういう思いを持ってつくられたものなのか? 宿を運営する会社「UNAラボラトリーズ」共同代表で、「うなぎの寝床」代表取締役の白水高広に話しを聞いた。
「この会社は、2012年創業の「うなぎの寝床」という元は伝統工芸品をプロデュース・販売する会社と、2013年にできた「リ・パブリック」というイノベーション創発に特化したシンクタンクの合弁で、2019年の設立です。出版・旅行・宿という3つの事業を行い、モノ・コトの情報発信とその情報の受け手がこの地域に訪れた際の体験を提供する“地域文化商社”というコンセプトの会社なのです」。
九州の佐賀県出身で、元は福岡でデザインの仕事をしていた白水は、2009年、八女のある福岡県築後地方の“商業・工業・農業”と“デザイナー・建築家などのクリエイター”をつなぎ地域を活性化させる厚生労働省の事業に2年半関わった。それをきっかけにこの地域との接点が生まれたという。また、妻の実家が八女で久留米絣の工場を営んでいることもあり、この街の伝統工芸と深く関わるようになった。しかしこの地域のものづくりを知っていく中で、良いものが生み出されるのにも関わらず、ここ地元ではそれを見たり買ったりできないという矛盾に気づく。そこで生まれたのがクラフトのお店でありメーカーである「うなぎの寝床」だった。
自らの事業を8年続け、伝統工芸に根差した商品を売り買いする中で、手仕事の良さや魅力はそれだけでは伝わらない、「体験」も重要だという問題意識を持つにいたったという。そこで伝統工芸を県外にPRする仕事を一緒に行っていた「リ・パブリック」代表取締役・田村大と、現在は日英併記の雑誌「TRAVEL UNA」編集長の田村あやと設立した会社が「UNAラボラトリーズ」というわけだ。
“地域文化商社”としての本格的な事業をスタートさせた矢先、コロナ禍が直撃した。外国人観光客の訪日が止まり、日本人の国内旅行さえも低迷する日が続いた。しかし、この自粛期間を準備期間とすることで、日英併記の雑誌を編集・出版し、旅行会社を立ち上げツアーをつくり、旅行者が滞在するための宿を開業させた。ここから経済の循環が生まれれば、伝統産業も地域の人材も活性化する。九州地方のクラフト文化への扉は今、大きく開かれようとしている。まずは八女を訪れ、「Craft Inn 手 [té]」に滞在することからクラフトを体感する第一歩を始めたい。