May 24, 2024
食を通じ、得難い体験ができる、それがこのリストの醍醐味だ。
「Destination Restaurants」はジャパンタイムズが主催する日本発信のレストランセレクション。“日本人が選ぶ、世界の人々のための、日本のファインダイニング・リスト”として2021年に発足。第4回目となる「Destination Restaurants 2024」は第1回から引き続き、辻芳樹、本田直之、浜田岳文の3氏が選考にあたり、日本各地に点在する魅力的な10店を選出した。選考対象となるのは「東京23区と政令市を除く」場所にある、あらゆるジャンルのレストラン。「東京は世界一ミシュランの星付きレストランの数が多い都市」と言われている。だがこのリストでは、①「日本の風土の実像は都市よりも地方にある」と考えること。②「地方で埋もれがちな才能の発掘を目指す」こと。③「既存のセレクションとの差別化を図る」こと。以上3点から、あえてエリアを地方に限定している。
2023年の訪日客の旅行消費額は計5兆2923億円と過去最高。同年の訪日客数は2506万人でコロナ禍前の2019年の8割まで回復した。消費の目的別では宿泊費に多くをかけるなど、体験を重んじる傾向が強まっている。日本の地方にあるファインダイニングは、まさに体験を求める旅行者にとって最高の機会を与える場になるだろう。例えば、「The Destination Restaurant of the year 2024」に選ばれた北海道『ELEZO ESPRIT』での体験は、美味しい食事を食べ慣れた海外からのツーリストにとっても、得難いものとなりそうだ。同店は料理人の主導で肉の生産から加工、調理まで一貫したシステムの中で料理を提供することによって「食べるとは命をいただくこと」という本質に改めて気付かせてくれる一軒だからだ。そうした体験を通じて、旅人が日本の風土や伝統、文化、そして人の心に触れていく――。それが「Destination Restaurants」の醍醐味といえるだろう。
Destination Restaurantsとは?
日本で最も歴史のある英字新聞ジャパンタイムズが、日本各地に点在する、ここを訪れるためだけでも来日する価値のあるレストランを、毎年発表するレストランガイド。
本物を知り尽くした日本人からなるセレクション・コミッティーにより、毎年10店が選ばれる。2021年よりスタート。選考対象となるのは、東京23区と政令都市を除く場所にある、あらゆるジャンルのレストラン。
Destination Restaurants 2024
A: エレゾ エスプリ
北海道十勝開拓の地・豊頃町大津に2022年10月に開業したオーベルジュ。料理人起点の、畜産から屠畜、解体、枝肉熟成、シャルキュトリ加工ができるラボを備え、オーナーシェフ、佐々木章太のもと、独自の食肉文化を追求している。
B: ヴェンティノーヴェ
日本百名山にも数えられる霊山、武尊山がある群馬県利根郡川場村はオーナーシェフ、竹内悠介の故郷でもある。東京でも人気を博していたレストランを閉め、2022年、地元に出店。トスカーナ郊外の名店で学んだ、解体から調理の技術を駆使した肉料理が名物だ。
C: カエンネ
八ヶ岳山麓、蓼科高原に位置するイタリアン。オーナーシェフ、臼井憲幸はイタリアではレストランのほか、生ハム工房でも修業。近隣に設立した工房で作る生ハムがスペシャリテだ。ほか、摘みたてのハーブが香る薪火焼きの料理や手打ちパスタでゲストをもてなす。
D: 馳走 西健一
オーナーシェフ、西健一は『サスエ前田魚店』の魚の質に衝撃を受け、その鮮度を生かしたフレンチを作るべく、2022年に広島県から静岡県焼津市に移住し、店を開いた。もともとスペシャリテであった「鮮魚のパイ包み」も含め、さらに料理を進化させている。
E: 新多久
慶応3年(1867年)創業。5代目、山貝真介が先に家に戻り、弟の亮太は2006 年に『新多久』が全焼したのを機に合流。以来、兄弟で店を盛り立てている。村上市の名産である鮭はもちろん、魚介や肉、野菜、米、酒など、村上市産の食材を多く用いている。
F: 海老亭別館
明治44年(1911年)に創業した料亭の四代目主人、村 健太郎は徳島・東京の日本料理『青柳』で修業後、2018年に店を閉め、東京の日本料理店数店で研修、2022年10月に移転リニューアル。富山を中心とする食材を使った料理にワインを合わせて提供する。
G: 一本杉 川嶋
元日に起きた令和六年能登半島地震で被災。登録有形文化財にもなっている築93年の旧万年筆店を利用した店舗も使えず、現在は休業中である。大将、川嶋亨は被災後、炊き出しを行なってきたが、現在は店の再開に向けて日々、奮闘している。
H: 私房菜 きた川
松阪市郊外の古民家で1日1組限定で“お腹にやさしい中国料理”を提供している。オーナーシェフ、北川佳寛は伊勢海老や松阪牛をはじめとする地元食材を用いながら、仕込みから仕上げまで、すべてひとりで行なう。現在、1年先まで予約で席が埋まる人気店である。
I: エノワ
オーベルジュ『ENOWA YUFUIN内のレストラン』。NY『ブルーヒル・アット・ストーンバーンズ』で経験を積んだエグゼクティブシェフ、タシ・ジャムツォが開業3年前から畑作りなど、準備のため大分・湯布院に移住。チベット出身の彼が当地で作る料理が注目される。
I: モヴェズ エルブ
オーナーシェフ、小島圭史は長年、出張料理でファンを得ていたが、2021年に沖縄本島にレストランをオープン。おまかせコースでは一部の調味料を除き、すべて沖縄県産食材を使用。生産者とコミュニケーションをとりながら、沖縄食材のポテンシャルを引き出している。