July 26, 2024

「Destination Restaurants 2024」トークイベント報告:地方のシェフが繋がった4年間。

ライター:寺尾妙子

ジャパンタイムズが主催する「Destination Restaurants 2024」の授賞式が5月28日、麻布台ヒルズの『Hills House Sky Room Cafe & Bar』で開催された。賞の選出基準は、東京23区と政令都市を除く場所にあり、食を通じて街おこしの起点となるような店であること。4回目を迎える今年は、特にその名にふさわしい1店「The Destination Restaurant of the year 2024」の北海道『ELEZO ESPRIT』をはじめ全10店のシェフが集結した。授賞式後には辻芳樹が司会進行を務め、本田直之、浜田岳文のアワードの審査員3氏による座談会も行われた。テーマは「Destination Restaurants 4年間を振り返る〜シェフが繋がる、地域が繋がる」。来場した過去3回の受賞シェフたちも交え、活発な意見交換がされた。

初回2021年の選考では候補となる店がまだまだ少なかったが、地方の可能性に気づき始めた料理人が各地域でレストランをオープンする傾向が加速し、辻曰く「来年に向けて、すでに100軒以上の候補店が上がっている」と語る。この状況は都市に集中するインバウンドの視点を地方にも向けるためにも非常に喜ばしい傾向と言っていい。実際、受賞店のシェフたちからは、店が知られるようになるにつれ、海外からの旅行客が増加。およそ、来店客の3割を占めるという話が多く聞かれた。「地方のレストランでの食事を通じて、その地域の歴史やライフスタイルに触れられるのがいい」と本田が語るような体験を、インバウンド客も味わいたいのだ。

授賞式後に、審査員を務める3人によるトークショーも行われた。来場した過去の受賞シェフも交えながら、地方に根ざして料理を作るシェフ同士の連携、また今後の課題について意見交換がなされた。左/本田直之。中央/辻芳樹。右/浜田岳文。
PHOTOS: TAKAO OTA

では、地域で輝く店を作るにはどうしたらいいのか? 浜田は語る。「その土地にある食材をそのまま使うのは当たり前。今、地方で注目される店では、シェフ自らがクリエイターとして自ら食材作りに関わるケースも増えているほか、生産者に働きかけて新たな食材を作ってもらうことも多い」と生産者との距離の近さを生かして、料理以前の素材から“創る”意識の必要性を説いた。確かに今年の受賞店はジビエや飼育した家禽を食肉に仕上げ、料理として出す『ELEZO ESPRIT』やほとんどの野菜やハーブを自家畑で育てている大分『JIMGU』(『ENOWA YUFUIN』のレストラン)など、より深く食材にコミットするレストランが目立った。

また、今回の授賞式では受賞したシェフ以外に、今年元日の令和6年能登半島地震で、自らも被災しながら炊き出しを行ったシェフたちも来場した。震災によって大きなダメージを受けた石川県能登地方は半年過ぎた現在も復興はままならず、店の営業再開の目処も立たない人がほとんどだ。能登地方のシェフを代表して「Destination Restaurants 2022」受賞者、石川県輪島市『ラトリエ ドゥ ノト』オーナーシェフ、池端隼也が思いを述べた。「街の人からたくさんの感謝の言葉をもらい、料理人になって本当によかったと思えた。これからさらに精神的なケアが必要になるが、食を通じてできることがあるはず」。また、今年の受賞者、七尾市『一本杉 川嶋』主人、川嶋亨も「1分の発災ですべてなくなったが、これまでやってきたことはなくなっていない。悔しいこともたくさんあるが、料理人をはじめ、かけがえのない仲間がいる」と涙ながらに語り、会場からはたくさんの応援の声が上がった。ジャパンタイムズからは3年間分の「Destination Restaurants」の記事に2024年度のリストを加え出版した書籍の売り上げの一部を能登に寄付。池端が代表して受け取った。さらに能登復興支援のため、コラボレーション・イベントを行った受賞シェフたちもいるなど、「Destination Restaurants」からの繋がりが少しずつ形にもなっている。被災地を筆頭に、地方創生の課題は山積みだが、食で解決できることはたくさんあるはずだ。

授賞式には今年の受賞シェフのほか、2021年からの過去の受賞シェフたちに加え、能登で被災した4名のシェフも参加した。「Destination Restaurants」を通じて、普段顔を合わせることのない、地方のシェフ同志の交流が生まれている。

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