May 26, 2023

【鯨本あつこ】離島には、日本社会が抱える課題解決のヒントがある。

By TERUKO IKE

鯨本あつこ
1982年生まれ。大分県日田市出身。2010年「株式会社離島経済新聞社」を立ち上げ代表取締役を務める。2014年「NPO法人離島経済新聞社」代表理事就任。現在、有人離島専門ウェブメディア『ritokei』及び、フリーペーパー『季刊ritokei』の統括編集長も務める。

https://ritokei.org/
PHOTO: KOUTAROU WASHIZAKI

日本は国土を海で囲まれた島国である。本州、北海道、四国、九州、沖縄本島の5島を除くと、14,120の島嶼によって構成されている。そのうち人の住む島(有人島)は現在、416ある(国土地理院調べ)。島民が10名にも満たない小さな島から、人口約13万人越える兵庫県の淡路島まで。また橋で他の地域とつながってる島から、周囲を海に囲まれたまったくの離れ小島まで、一口に有人島と言っても規模も形態も様々だ。だが共通点と呼べるものもある。島は海により隔離された空間であるがゆえに、そこで独自の文化や生活様式、コミュニティが生まれ、長い時間をかけ保たれ育まれてきたのである。その独自性をもった島の文化は、日本が高度成長期を迎える1950年代半ば頃より、島嶼部から都市部への人口の流出がはじまったことにより、少子化・高齢化が特に進み、失われたり維持することが困難になってしまったものも多い。

そんな有人離島地域が持つ文化や魅力を未来につなげていこうと活動するNPO法人がある。それが「離島経済新聞社」だ。NPOなのに新聞社とは一体どういう団体だろう? と疑問が湧くかもしれない。そもそもこの「離島経済新聞社」は、島が持つ価値と、島が直面する課題に触れた創立メンバーが、有人離島専門メディアを立ち上げ、株式会社として活動を開始したのが始まりだ。2014年には会社をNPO法人化、これにより、メディアを通じ島の様子を社会に「伝える」活動に加え、島に暮らしたい、島で働きたいと言った人と島を「つなぐ」活動、島の行政や企業と連携し地域振興や人材育成事業など「育む」活動という、3つの活動を展開するようになった。

日本は国土自体が「島」の集合体であるが、離島はある意味、日本全体を縮小した“部分”であると言える。“部分”の集合体が“全体”でであるならば、その“部分”で行われている課題解決への取り組みや成功例から、少子化・高齢化に悩む日本“全体“の解決策やヒントが何か学べるのではないだろうか。そのような考えから、このNPO法人の創業者のひとりで、代表理事・統括編集長を務める、鯨本あつこに話を聞いた。

「離島に特化したメディアを立ち上げた当時、私は経済誌でフリーの編集者として3年ほど仕事をしていました。元々は大分県にある人口6万人ほどの田舎町の出身ですが、東京に出てきて、世界規模で展開される大きな経済の中心を体験しました。都会生活には便利さもありましたが、違和感も感じていました。例えばコンビニエンスストアに行けば、商品棚に様々な種類の水が売られている。どれも水なのにいちいち選択させられることが面倒に感じ、たくさんの種類から選び買えることが豊かさなのか? 本当の豊かさとは何だろう? と感じていました」。

2010年に創刊したフリーペーパー「ritokei」。現在、日本の有人離島177島、1200か所に設置されている。
PHOTO: KOUTAROU WASHIZAKI

そんな時、鯨本が訪れたのが瀬戸内海に浮かぶ大崎上島(広島県)だった。この島に移住した友人を訪ねてのことだったが、農家を営む男性の「この島は、宝島なんだ」という言葉にはっとさせられた。それまで経済誌に関わる中で追いかけていた大きな数字とは別の、島独自の小さくて美しい営みが展開されているのを知ったのだ。

例えば、朝玄関の扉を開けたら、たくさんのタケノコが置いてあり、それは近所に住む人がお裾分けとして持ってきてくれたものだったり、といった具合だ。このことから“島の宝を未来につなぐ”というミッションが生まれ、観光ではない島の情報を発信するメディアが誕生した。

「約400の有人離島には、数えきれないほどの宝があります。それは高度経済成長と引き換えに日本社会が失ってきた「人と人が支え合う地域コミュニティ」や「多様な文化」「豊かな自然」といったものです。沖永良部島(鹿児島県)に移住した東北大学名誉教授で伊奈製陶(現LIXIL)の取締役(CTO/最高技術責任者)を務めた石田秀輝さんによると、日本の文化を創り上げてきた暮らし方の価値には44の要素があると言います。例を挙げると、お金を介さないやりとり、行事を守る、食の基本は自給自足、などです。これは石田さんをはじめとした研究者が1960年代に40代を過ごした600名を超える人(2013年調査当時で90歳前後)に聞き取り調査をして明らかにしたもので、このうち30の要素が沖永良部島には残っているそうです。そうした要素にも持続可能な未来をつくるヒントがあると考えています」。

豊かな自然の中で、暮らせることが離島での生活の魅力だ。
PHOTO: KAYO YABUSHITA

最後に、10年以上に渡り離島地域を見てきた鯨本に、日本の未来のヒントが隠されている島について聞いてみると、そのうちのひとつとして伊豆諸島にある利島(東京都)の名前があがった。

「利島は人口300人台の島ですが、半世紀に渡り人口が変化していません。理由は、島に足りないものは人的資源を含め、島の外から柔軟に受け入れ、外と連携しながらやってきたから。高度成長期を経て島の人口が1/10になった島もある一方、利島のように人口をキープできている島も複数あります。そうした島は、変化に対して柔軟で、地域外の人と連携し、生活をアップデートしながらも古き良き島の価値を残しています。最近ではITの活用も進んでいますが、島の本質的な価値を守りながら、新たなノウハウやテクノロジーを柔軟に活用し、社会変化に適応できる島の例には、島国の未来を明るくするヒントも隠れているのです」。

鹿児島県にある沖永良部島での、海岸清掃の様子。
PHOTO: NELSON MIZUSHIMA

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