September 27, 2021

映像は語る:「自然は原資元本。人間は、それに手を付けず、利息だけで生きていかなければならない」

ライター:住吉智恵 , TRANSLATOR: ELEANOR GOLDSMITH

ダンサーでもある監督の吉開菜央が自ら演じる「赤いやつ」が自然と人間の境界を彷徨う。
©NAO YOSHIGAI

サステイナビリティに着目した映像作品といえば、これまでは環境活動家の視点に迫るドキュメンタリーが主流だった。しかし近年、未来をになう若い世代の映像作家には、自身の問題意識と、目の前に迫る気候変動などの環境問題が必然的に結びつき、創作活動を行っている作家が目立つ。彼らは、極めて個人的な視点と身体性を通した体験によって、自然と人間の関係に向き合う作品に取り組む。

例えば、映画『Shari』は、北海道・知床半島の斜里町の厳しい自然を舞台に、ダンサーでもある吉開菜央が監督・出演し、写真家の石川直樹が撮影を手がけた。地球温暖化の影響で生態系が変化し、地元の漁業は魚が採れず大きな痛手を受け、空腹で冬眠できない熊が餌を求めて町に降りてくる。かつて野生動物の生息地を奪って造られた町で、動物と人間の共生区域の線引きができなくなり、人が生きるために他の生き物の命をも奪わなければならない。作品は、そんな厳しい現実を映し出す。

映画の中で土地の人が語る言葉が耳に残る。「自然は原資。元本には手をつけないで、利息で食べて生きていこう」と。その「正論」にはいま私たちが目指すサステイナブルな社会の本質がある。

地球の原資である自然の一部として生まれ、他の生物と影響しあい共存してきた人間は、いつしか自然を我が物のように独占・消費・破壊・放棄した結果、いま頃になってその報いに気づいた。若い映像作家たちを突き動かすのは、その全てのツケが自分と、自身の子どもたちの世代に回ってくるという危機感だ。

時には自然と人間の境界に身体ごと没入し、また時には自然を擬人化する表現を駆使して、彼らは説得力溢れる切実な体験を観客と共有しようとしている。


1 Shari (2021)
監督:吉開菜央

写真家・石川直樹が知床の魅力を発掘・発信することを目的に、地元の写真愛好家たちと始動したプロジェクト「写真ゼロ番地知床」が、Nao Yoshigaiを知床へ招いて誕生した作品。Yoshigaiは、カンヌ国際映画祭正式招待作品『Grand Bouquet』など、ダンサーでもある自身の身体表現を追求する映像作品で注目される作家だ。自然・獣・人間が共存する知床半島の斜里町で、人と獣の間の「赤いやつ」に扮した吉開が、気候変動の影響を受け、変化が起きつつある北の地をさまよい歩く。自然の風景や音と、自身の語りを織り交ぜ、ドキュメンタリーとフィクションをコラージュする。2021年10/23より全国順次ロードショー。
https://shari-movie.com/

©NAO YOSHIGAI


2 「カナルタ 螺旋状の夢」(2020)
監督:太田光海

映像人類学者である太田監督は、アマゾン熱帯雨林の先住民でかつて首狩り族として恐れられたシュアール族の村に1年以上住み込み、彼らの日常を追う。口噛み酒を飲み交わしながら森に分け入り、食料から建材までほぼ全ての生活の糧を得る家族。彼らは現代社会と生命の源である森との狭間で試練に立ち向かい、覚醒植物がもたらす「ヴィジョン」や自ら発見した薬草によって柔軟に力強く世界を捉えながら生きる。森林破壊など激変する現代のアマゾンに今なお息づく自然との共生ありきの生き様を突きつけられる映像体験だ。2021年10/2より全国順次公開。

©AKIMI OTA


3 「リフレーミング」(2021)
監督:山城知佳子

沖縄出身の現代美術家Chikako Yamashiroは沖縄が抱える問題に当事者として肉薄する作品を発表し続ける。最新作ではカルスト地形で知られるAwa,Nago-cityを舞台に、米軍基地建設により脅かされる海と山とを繋ぎ、古代より珊瑚や植物など自然と共生してきた沖縄人のアイデンティティを現代の風景に重ね合わせる寓話を紡ぎだした。ダンサーや俳優により擬人化された土地の風景を主役に、自然の一部である自他の身体性を通して、そのグルーヴ感で観る者を駆り立てる、全く新しい映像体験を実現した。2021年10/10まで東京都写真美術館にて同名の個展で上映された。

ⒸChikako Yamashiro / Courtesy of Yumiko Chiba Associates

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