February 22, 2024
Z世代・ミレニアル世代の声を代弁する社会起業家。
日本の没落が止まらない。日本のGDPは世界4位だが、IMFが2023年10月に発表した一人当たりのGDPとなると日本は世界34位で、G7の中で最下位だ。1990年代初頭のバブル経済崩壊以降の“失われた30年”はまだ現在進行形で、特に近年の円安は、日本で暮らす外国人や訪日客にとってはありがたいかもしれない。しかし多くの日本人にとっては賃金が上がらないなかで物価上昇だけが続き、特に若い世代にとって、将来の生活の不安材料になっている。
Windows95など90年代に普及したコンピュータにより、ここ20年間で社会の仕組みや産業構造、ライフスタイルは、世界中で加速度的に変化している。この中で日本が出遅れている要因のひとつは、日本でイノベーションが生まれなかったからだろう。では、なぜイノベーションが生まれなかったかというと、日本人が意識改革できず、古い考え方や過去の成功体験にとらわれているからともいえる。少子化・高齢化が世界でもっとも進む日本では、有権者に占める高齢者の割合は年々増え、投票率も高い。ゆえに“シルバー民主主義”と言われる構造が常態化し、政策や制度が高齢者優先になりがちで、改革や変革は後回しになる傾向がある。
そのような中で若年層の声を国へ届けるべく活動する人物がいる。それが石山アンジュだ。総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省など、様々な省庁での研究会や検討会の委員としての公職を務め、政府と民間のパイプ役として規制緩和や政策推進の仕事をしている。その彼女が提唱するのが「シェアリング・エコノミー」を通じた、新しい社会のあり方だ。シェアリングエコノミーのサービスには、空間をシェアする「民泊」や、移動をシェアする「ライドシェア」「カーシェア」、お金をシェアする「クラウンドファンディング」などがあるが、従来のBtoCやBtoBのビジネスではなく、CtoC(消費者同士がつながる)という新しい仕組み、という側面をもっている。
「イノベーションや新しい事業を起業家が行おうとすると、新たなビジネスモデルに対して、法制化や規制緩和が必要なケースが多くあります。業間団体や民間の委員として、提言活動などを通じて、政策や法律に対し働きかけを行っています。2018年にはPublic Meets Innovationという社団法人を立ち上げ、次世代のルールメーカーを育成するスクール事業や、若い世代の意見を提言するシンクタンク事業を、主にZ世代・ミレニアル世代と言われる40歳以下に特化して行っています」。
彼女が行っている政府の仕事のひとつに、デジタル庁の「シェアリングエコノミー伝道師」という活動がある。
「これは政府の中でシェアリングシティという構想がありまして、特に日本の地方都市においての地域課題を、シェアリングエコノミーとITを活用することによって課題解決していこうという取り組みです。例えば、空き家などの遊休資産を活用して民泊を行う仕組みをつくり、その地域の関係人口を増やしたり、自治体の公用車としてEV車導入を働きかけ、住民に対しそのEV車のカーシェアを行うということなどです。EV車に関して言えば、特に地方都市では普及が遅れている傾向にありますが、カーシェアを通じ電気自動車を住民の方に使ってもらうことで普及を促すといったことになります」。
世界経済フォーラムが毎年発表しているジェンダーギャップ指数で日本は、146各国中125位と2006年の発表以来過去最低のランクとなった。特に政治と経済の分野での女性活躍が弱い。
「この背景には日本人の家族観が大きく影響していると思います。例えば「サザエさん」(1969年からテレビ放映されている、日本では誰もが知るアニメーション。3世代で暮らす家族が主人公で、男性は会社勤め、女性は専業主婦として描かれている)に見られる、女性は家にいて夫を支えるものという家族モデルが、現在では実態は変わっているのに、高度成長期を支えた豊かな日本の象徴として今も社会の共通認識になっている部分があると思います。私自身、シェアハウスを運営してそこに住み血縁関係によらない家族=「拡張家族」というものを実践したり、私のシンクタンクでは100人の若者からヒアリングを行い、夫婦別姓や同性婚を含め、家族に関しどういう制度があるべきか、「家族のイノベーション」についても提言しています」。
日本社会での世代間ギャップを埋める努力は、今必要とされている。彼女の今後の作業に注目したい。
石山アンジュ
1989年生まれ。一般社団法人Public Meets Innovation代表。一般社団法人シェアリングエコノミー協会代表理事。デジタル庁の「シェアリングエコノミー伝道師」や、「世界経済フォーラムGlobal Future Council Japan」のメンバーなど、シェア(共有)という概念を切り口に、社会活動家として日本政府に対し様々な働きかけを行っている。