August 30, 2024
「異文化は共鳴するのか?」―現代から考える文化交流のあり方。
白壁の蔵屋敷、墨色のなまこ壁、風にそよぐ柳並木――。JR倉敷駅から徒歩10分ほどで辿り着く美観地区には倉敷川沿いに、趣ある街並みが続いている。
倉敷は、瀬戸内海に面した紡績業で栄えた町。その発展を支えた大原家は、同時に文化的土壌も熱心に育んだ。大原美術館は、この大原家によって1930年に開館した私立美術館で、エル・グレコやモネなどの西洋美術を日本で最初に常設展示したことでも知られている。当初は大原家の援助により画家・児島虎次郎が作品収集を行っていたが、次第にコレクションも拡充し、現在は約3,000件の所蔵となっている。
長い歴史をもつ大原美術館では、昨年2023年、三浦篤を新館長に迎え、今回の意欲的な展覧会『異文化は共鳴するのか? 大原コクレクションでひらく近代の扉』を開幕した。すでに優れた常設展で知られる大原美術館だが、今回の展覧会タイトルは「異文化は共鳴するか?」と、タイトルに「?」を付け、来館者に問いを投げかけている。なぜ疑問形となるタイトルを付けた企画展を開催するにいたったのか。そこには「発信」と「交流」のキーワードに託された、新館長の思いがある。
展覧会「異文化は共鳴するのか?」
大原美術館のコレクションの中核である近代美術作品を中心に、日本近代が異文化に対しどのように反応してきたか再検討する展覧会。コレクションの基盤を築いた児島虎次郎の足跡や、実際に東西の作品を並べ共鳴関係を探る試み、そして過去と現代の芸術の支援による作品を通じて、美術館が伴走した近代美術の変遷をたどる。
●大原美術館本館 岡山県倉敷市中央1-1-15
会期:2024年4月23日〜9月23日。月曜休館(祝日及び7月下旬〜8月を除く)。
開館時間:9:00〜17:00(最終入館16:30)
入館料:2,000円。
https://project.ohara.or.jp/specialexhibition
コレクションに定評があるということは、同時に「ずっと同じ展示」というイメージを誘う。定期的に展示替えをしても、人々の記憶に作品が強く残り続け、そのイメージが先行してしまうのだろう。本展には、そうした過去の記憶を払拭し、新たなイメージを「発信」する役割が期待されている。世界的にはルーヴル美術館など、コレクション展示を主とする美術館が存在する一方で、日本国内の美術館は会期の短い特別展のアピールに注力し、コレクションはほぼそこで言及されることがない。そうした中、本展では、美術館や来館者をひたすら消費に向かわせる従来の特別展の構造とは違う、自らの強みを活かした大原美術館の挑戦をみることができる。
展覧会は4章構成で、児島虎次郎の足跡や作家支援の歴史など大原コレクションに様々な角度から光を当てているが、「異文化の共鳴」に対する最も直接的なアプローチは、第2章にみられる。ここでは「他文化」や「裸体」、「労働」といった8つのテーマを設け、テーマごとに日本と西洋の作品を混ぜ合わせて展示している。双方向的な文化交流の例として、日本では印象派の、フランスでは浮世絵の受容があったことは、広く知られるところだ。もちろん、そういった知識を踏まえて見るとより理解は深まるが、実際に同じテーマの作品を美術館の中で見てみると、鑑賞体験がより豊かなものになっていることに気づくだろう。例えば、ルノワールと満谷国四郎の裸体像をみてみよう。満谷はルノワールに感化された作家の一人だが、出品作はさらに作風が転換した晩年作なため、二人が共鳴を経て、また別の音色を奏でているというわけだ。目の前の作品たちが、共鳴しているのか否か、また聞こえる音はどのような響きなのか。ぜひ会場で確かめてみてほしい。
大原美術館にとって、本展は始まりだ。今後、美術館を基点にさらなる「交流」が展開していくだろう。作品、そして訪れる人々が互いに交わることで、今この時代にも新たな共鳴が生まれ得る。その音は、次第に美術館を超え、倉敷を超えて、やがては大きな響き合いとなるに違いない。近い将来、どのような音が奏でられるのか、耳を澄ませていたい。
大原美術館
1930年(昭和5年)に設立された美術館。実業家・大原孫三郎の支援の下、画家・児島虎次郎がヨーロッパで収集した作品をコレクションの中核に据えた、日本で最初の西洋美術作品中心の私立美術館。日本近現代美術、アジア、エジプト美術も加えられ、現在は約3,000件を所蔵している。同時に現代作家の支援や、教育普及活動、コンサートの開催などにも盛んに取り組み、多彩な活動を展開している。