January 28, 2022

宇宙の「食」から、地球と人の未来を描くSpace Foodsphereの実践。

ライター:塚田有那

宇宙環境におけるバイオ食糧リアクター、高効率の植物工場、多品種の作物生産を可能にする拡張生態系などのイメージ図。月面探査中の単独行動などでも、ローバー内にさまざまな食用の装置を設置し、他のメンバーと通信しながら食事をするような提案をしている。 | © 2020 YUSKE MURAKAMI/SPACE FOODSPHERE

人類が宇宙に移住する日はそう遠くないのかもしれない。現在NASAが進めるアルテミス計画では、1960〜70年代に行われたアポロ計画依頼初めて、2025年までに有人月面探査を行うことが発表されている。なおかつ、その計画では新たな宇宙ステーション「Gateway」の設立をはじめ、2040年代を目標に月面1000人の長期滞在が示唆されている。この計画には日本も参画していて月面などにおける長期滞在に向け、2020年には内閣府主導の宇宙開発利用加速化戦略プログラム(通称:スターダストプログラム)に新規予算70億円が計上された。このプログラムには、建設、通信、エネルギー、食の4部門が設定され、その中の農林水産省が管轄する食部門の受託事業者に決定したのが、地球と宇宙の食の課題解決を目指す一般社団法人Space Foodsphere(SFS)だ。

SFSの設立は2020年4月。宇宙環境での食糧生産や食生活を視野に開発・研究を進め、それを地球での資源循環型の食糧生産や供給に活かすプログラムを提案している。SFS代表理事の小正瑞希は、食というフィールドを通してこれまで宇宙事業には関わってこなかった企業や機関も多く関わり始めていると言う。

小正瑞希 一般社団法人SPACE FOODSPHERE代表理事。リアルテックホールディングス株式会社 グロースマネージャー。2019年にJAXAやシグマクシスら50以上の企業と共に世界初の宇宙食料マーケット共創プログラムSpace Food Xを創設し、現在に至る。 | PHOTO: KOUTAROU WASHIZAKI

「これまで宇宙開発というと重工業がメインでしたが、私たちの団体は食品メーカーをはじめ、生態系や資源再生技術、建築、輸送業など、さまざまなステークホルダーと連携しています」。

宇宙環境における食糧生産において、究極の課題となるのが資源循環だ。少ない資源を利活用し、また地球上では廃棄されがちな食料ゴミや人間の排泄物をいかに循環させるかが肝となる。たとえば植物生産では、完全自動化された収穫や搬送を可能にするだけでなく、微生物のコントロールなどによって農業用水の再生や廃棄物処理を行える植物工場を構想している。またタンパク源の補給のためには、細胞培養肉やサプリメントにもなる藻類の生産を可能とするバイオ食料リアクターの計画が進められている。こうした技術が実用可能になれば、地球上の食料問題の解決にも貢献できると小正は語る。

現在は宇宙ステーション内のフードレシピを料理人らと開発。少品種の野菜からでも、どれだけ多様な味や食感をつくることができるかを工夫している。 | © SPACE FOODSPHERE

「今後、食料不足が深刻な問題になっていきますが、地球上のフードロスがゼロになればあらゆる食問題は解決するとも言われています。つまり、食の分配最適化が最も重要なのです。今、考え方のパラダイムシフトが必要だと思っています。今後は新たな生産方法を開発するのみならず、資源循環と分配という視点を地球にもう一度取り戻し、技術だけはなく新たなカルチャーをつくるという視野が重要だと考えています」。

さらにSFSでは、宇宙環境での食生活をライフスタイルや文化的側面からも考慮するプログラムも進めている。「これまではさまざまなトレーニングを重ねた宇宙飛行士だけが宇宙へ行く時代でしたが、今後は宇宙旅行者をはじめ、研究者や宇宙開発関連の事業者も滞在するようになります。そのとき、実際の宇宙は夢にあふれた世界ではなく、命がけの閉鎖環境です。そうしたなかで人々が生き抜いていくためにも、また多様な食体験や文化のありかたを提案しています」。

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