March 12, 2021
ガラスやプラスチックの代替素材を木から作る王子ホールディングス
140年の歴史を持つ王子ホールディングスは、日本のパルプ・製紙業界を常に牽引してきた。環境を守りながら製品の原料を確保していくため、日本や海外での植林活動までもがその事業の一環となっている。
近年、王子ホールディングスは、森林資源を無駄なく、より持続可能に活用しながら、世界に新しい価値を提供するため、製造業から医療まで様々な分野に役立つ素材をパルプから生成するという新しい技術を生み出している。
そういった素材のひとつが、ナノメートルスケールまでパルプを精製することで作られるセルロース・ナノファイバー(CNF)だ。アウロ・ヴィスコ(AUROVISCO)と命名されたこの素材の開発には、リン酸化反応と呼ばれる化学反応を用いた特殊な技術が使われており、これにより高い透明度と静止状態では高粘度で圧力がかかるとサラサラになるチキソ性が得られた。この素材は、国内外の100社以上にすでに供給されている。
アウロ・ヴィスコは、タケ・サイト株式会社の生コンクリート用先行剤ルブリにも使われている。コンクリートを送り出すパイプが詰まらないように、パイプの内側をコーティングするために用いられるのが先行剤だが、これまでは一般的にモルタルが使われてきた。しかし、モルタルの場合、コンクリートミキサー車1台からコンクリートを取り出すまでに約1トンもの量が必要なため、廃棄物の量も増えてしまう。「モルタルの代わりにルブリを使えば、廃棄物を最小限に抑えることができます」とジャパンタイムズによる取材の中で、専務グループ経営委員、イノベーション推進本部長の横山勝氏は述べた。
CNFはポリカーボネートと混合することもでき、これは自動車の窓ガラスの代替素材として期待されている。ポリカーボネートは軽く、透明で、衝撃に強いが、たわみやすく、ガラスに比べると熱に弱い。CNFの高い弾性と熱的寸法安定性により、これらの短所を補うことができる。「この複合素材には、ガラスの代替素材として大きな可能性があります。また、重さはガラスの半分ほどしかないのです」と横山氏は言い、車は軽ければ軽いほどエネルギー消費も抑えられるとした。
工業分野での活用に加え、王子ホールディングスでは日光ケミカルズ株式会社とも共同開発を行い、べたつかずに増粘効果と保湿効果が得られるというCNFの特徴を活かして、化粧品への活用を進めている。
また、セルロースは、バイオマスプラスチックの生成にも活用可能だ。「食料難を避けるため、さとうきびやとうもろこしなどの食用の材料とバイオマスプラスチックに使われる素材とがバッティングしないようにすることが重要です」と横山氏は言う。王子ホールディングスが使用しているのは、自社の植林地で育った木から採れるセルロースで、植林技術により伐採された森林はまた再生される。
所有している森林面積が日本で第一位の企業として、化石燃料を原料として作られたプラスチックからセルロース由来のプラスチックに変えていくことで二酸化炭素の排出削減に貢献していくと横山氏は言う。「従来のプラスチックと混合するというのが、当社のバイオマスプラスチックの実用化の第一段階になります」と横山氏は述べ、将来的にはナフサを使わないプラスチックに完全に移行することが可能になると展望する。
木材は約50%がセルロース、約20%がヘミセルロースでできているが、王子ホールディングスでは、このヘミセルロースを化粧品に使われる保湿剤成分である加水分解キシランの生成に活用している。また、ヘミセルロースから硫酸化ヘミセルロースを作り、この硫酸化ヘミセルロースの血液凝固を抑制したり、関節や膀胱の炎症を抑えたりするという効果を活かして医療の分野での活用を進める予定だ。抗凝固治療では主にヘパリンが使用されているが、これは豚由来の成分であるため、ムスリムにとっては理想的な治療法とは言えない。「我々の技術を使って、ムスリムを含むすべての人を根本的に救いたいと考えています」と横山氏。
王子ホールディングスの硫酸化ヘミセルロースは植物由来であるだけではなく、持続可能な成分だ。「森林管理協議会(FSC)に認定された植林地で育った広葉樹を使用しているからです」と横山氏は言う。
硫酸化ヘミセルロースを活用した、木由来の医薬品の開発、製造、マーケティングを加速させるため、2020年4月には王子ファーマ株式会社が設立された。この新会社の代表取締役でもある横山氏は、イノベーションの力を最大化して医療業界を含む多様な業界や市場に向けて、新しい価値や利益を生み出していくことを目指している。