March 12, 2021
「廃棄物をブドウに変え、イルカと歴史を観光につなげるむつ市」(むつ市)
本州の北端に位置する青森県のむつ市は、地方の街が、住民、特に若い世代のふるさとに対する誇りを醸成するため、訪れる人にはより高い関心を持ってもらうためにどう文化資源や自然資源が活用できるかの好事例に富んでいる。「成功の秘訣は、様々な活動の主体が民間であることで、これにより活動自体が持続可能であることです」とむつ市長の宮下宗一郎氏はジャパンタイムズによる取材の中で語った。
むつ市は、本州の端から斧の形に突き出たような形をした下北半島の大部分を占めている。特徴的で価値ある自然資源と景観が評価され、日本ジオパークネットワークに認定されたジオパークは全国で43ヶ所あるが、下北半島はこの半島自体が下北ジオパークに認定されている。
ジオパーク関連の活動は数々ある中でも、宮下氏は資源の循環に貢献している2つのプロジェクトについて言及した。ひとつは、ホタテ養殖に使われる籠の中に蓄積される残渣を効果的に利用している事例だ。むつ市の主要産業のひとつであるホタテ養殖では、これまでは処分費用をかけて残渣を焼却していたが、今は別の目的でこれを利用している。「2年前から、この残渣は堆肥化され、ブドウ農園や地域の畑で肥料として使われています」と宮下氏。
もうひとつは、かつてイノシシの飼育に使われていた場所を畜産農場として再利用している事例で、農場から出る堆肥は地元の蕎麦畑で使われている。
むつ市は観光客を魅了する自然資源にも恵まれており、そのひとつが毎年5月から6月にかけて陸奥湾で見られるカマイルカの群れだ。イルカウォッチングに使われる船には、イルカの生態についての詳しい情報がまとめられたガイドブックが設置されている。「このガイドブックは、むつ市で2番目に小さく、生徒数が10数名の小学校の子供達が作ったんです。2017年の全生徒が製作に参加しました。ふるさとのことを知り、誇りを持てるようになる貴重な機会になりました」と宮下氏。ガイドブックには、イルカと鯨、オスとメスの違いや、餌の取り方などの説明が掲載されている。
陸奥湾は研究者にとっても理想的な調査環境で、湾の入り口が狭くなっていることで中の波や穏やかな上、船が出港してから10分ほどでイルカの群れが観察でき、その数は時には何百にもなるという。海岸沿いの道路からでも見られるほど、岸近くまで来ることもある。
むつ市には、歴史的、文化的な魅力も多く、福島県会津若松市とは、150年にわたり特別なつながりを持ち続けている。これは、1868年から69年にかけて起こった戊辰戦争で新政府軍と戦った会津若松の武士が故郷を追われ、首都からより遠く離れたむつの地に斗南藩という新しい藩を作ったことに始まった。
「人に注目していきたいと思っています。この地域からどんな人材が出て、歴史の中でどんな活躍をしたかを着目することで、歴史の理解に新たな視点がもたらされるのでは」と宮下氏は述べ、斗南藩の貧しい家庭に生まれ、その後陸軍大将となった柴五郎の生涯に焦点を当てた朗読会を企画していると語った。
柴は、1990年に北京で起こった外国の大使館やキリスト教徒を標的とした中国の秘密結社による襲撃、義和団事件の最中に、北京中の各国大使館との調整役を果たし、安全確保に貢献した。「彼は、日本という国は国際協調の中でしか成り立たないという考えを持っていました。もし彼が、陸軍の中でも最も影響力のある立場を与えられていたなら、第二次世界大戦に日本が参加することはなかったのかもしれません」と宮下氏は述べ、こういったイベントは、歴史を学ぶだけでなく、歴史を考える良い機会になると語った。6月19日に開催されるこの催しでは、俳優の大和田伸也氏による「北の慟哭」という歴史書の朗読が披露される。
今年、むつ市ではジャパンタイムズSatoyama推進コンソーシアムとの共催で、里山と里海に関連するテーマを扱う2日間のイベント、実践者交流会が開催される。三重県志摩市で開催された前回の同様のイベントには、行政からも民間からも、持続可能性や地方活性化などに携わる参加者が集まった。「この催しを通して、参加者ひとりひとりのアイデアが溶け出して大きく力強いアイデアになっていくことを願っています」と宮下氏は述べた。