March 26, 2024

むつ市、環境配慮型温室でトマトを栽培

Maiko Muraoka Contributing writer
Translator: Tomoko Kaichi

バイオマス燃料でハウス内を温め、排ガスのCO2を栽培に活用する | むつ市

本州の北端に位置する青森県むつ市で4月、二酸化炭素(CO2)排出量を実質ゼロにする「ゼロカーボン」を超え、排出量以上のCO2を吸収する「カーボンマイナス」を目指す画期的手法を採用した大規模トマト栽培が始まる。広大な耕作放棄地に工場を建設し、100人分の雇用創出も見込んでいる。

新施設はフェンロー型と呼ばれるタイプの温室で、温度や湿度、大気中のCO2濃度などを自動制御する。トマトは水耕栽培され、水や肥料も自動で供給する。

むつ市の山本知也市長は、ほかにもこの施設の特徴を「ハウス内の温度を一定水準に保つため、木質チップを燃やして熱を出すバイオマスボイラーを設置した。青森県は総面積の約8割を森林が占めており、化石燃料の代わりに地元の天然資源を活用する」と説明する。ボイラーの排ガスは浄化してCO2を分離し、ハウスで育つトマトの光合成に利用する。こうしてトマト栽培に使うCO2量は年間最大4500トンに上ると見積もられている。

老木を伐採して苗木を植えることも、CO2の吸収を促す効果的な方法だ。「若い木は古い木よりもCO2を吸収する。そのためトマト栽培で得た利益の一部を森林再生に充てる」(山本市長)と決め、20ヘクタールの森林に毎年約4万本の木を植える計画だ。

ハウス内にはLED照明も設置する。日射量はトマトの生長に欠かせない要素のひとつであり、地域の日照不足を補うという。収穫したトマトを自動で運ぶ無人搬送車も活用し、作業員の配置の最適化を図る。工場は3.5ヘクタールの敷地で年間1500トンの生産を見込んでおり、これは従来の栽培方法の10倍に相当する。

このプロジェクトは北海道の農業法人、寅福が2022年3月、むつ市に打診したことから始まった。新型コロナウイルス禍の最中にストッキング大手がむつ市で操業する基幹工場の閉鎖に追い込まれ、約500人が失業したという報道がきっかけだったという。

むつ市の山本知也市長

2014年に創業し、北海道の温室と農場で野菜や果物の栽培を手掛ける寅福は2020年、むつ市のものと同じフェンロー型温室を建設していた。山本市長は同社との提携の経緯を「(当時の)宮下宗一郎市長と会談した寅福の社長が、反応と意思決定が速い本市に可能性を見いだし、ここから未来の農業を始めたいと考えてくれた」と振り返る。2022年11月、寅福、むつ市、青森県は大規模トマト工場の立地協定を結び、翌年4月に着工した。

プロジェクト実現の裏には国際協調もあった。2023年1月、当時の宮下市長を含むむつ市の代表団が施設園芸のパイオニア、オランダのウェストラント市を訪問し、環境配慮型施設園芸と農業技術の開発推進に向けて協力する友好交流協定を結んだ。

それ以降、同年7月にウェストラント市の幹部がむつ市を視察し、10月には千葉県で開催された日蘭園芸セミナーに先立ちオランダの園芸関係者と意見交換を実施、むつ市の職員がセミナーに出席するなど、両市は互いに農業への取り組みを学んできた。

山本市長は、両国にとって利益となる関係づくりが重要だと強調する。「オランダから知識や技術を学ぶだけでなく、私たちからもお返しをしたい。例えばフェンロー温室へのバイオマスボイラーの設置と、排出される二酸化炭素のトマトの生育促進への活用は新しい試みであり、オランダと何か共有できることがあればいいと願っている」。

むつ市には工場建設地以外にも多くの耕作放棄地がある。農家の減少は人口の高齢化が主な理由だが、おそらく厳しい気候がそれに拍車をかけていると、山本市長は話す。夏場に「山背(やませ)」と呼ばれる冷たく湿った風がふくこの土地の気候は、米や野菜の栽培には適さない。

それでも山本市長は「厳しい環境下でも、先進技術によって農業の生産性を高めることはできる」と意気込む。「このプロジェクトでそれを実証したい。そのためにスマート農業を推進する条例を制定し、植物工場の整備に対する助成制度をつくった」。多様な作物を生産し、革新的で持続可能な農業が集積する「フードバレー」になる未来を、むつ市は描いている。


むつ市は、ジャパンタイムズと共同で持続可能社会の実現に向けた日本の取り組みを発信する企業グループ「Sustainable Japan Network」の会員です。ネットワークへの参加や活動詳細はウェブサイト(https://sustainable.japantimes.com/sjnetwork-jp)をご覧ください。

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