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北海道の大自然の中に身を投じ、アイヌ文化を探求する。

November 29, 2021

ライター:和泉俊史

Rieko Kawabe
書家・美術家。1995年「Nihon Miyabigoto Club」設立。日本文化を学び、感性を磨くための会員制の稽古場を東京・京都で主宰する。また神道の神職としての資格も持ち、日本文化の研究を通じ、精神性を重視した制作活動を続ける。2021年春、北海道・弟子屈に「Tamatebako Aynu」及び「古代アイヌ文化研究所」を開設。アイヌ文化を探求している。
PHOTO: KOUTAROU WASHIZAKI

コンドミニアム<Muse Niseco>の壁に描かれた、アイヌ古代文字をモチーフにした川邊りえこの作品。
写真提供/日本雅藝倶楽部

中標津空港・女満別空港・釧路空港と3つの空港にアクセス可能な中間地点にある自然豊かな土地。そんな北海道・弟子屈(Teshikaga)の地に、東京・京都で会員制の文化サロン「Nihon Miyabigoto Club」を主宰し、第一線で活躍する経営者などに日本の伝統文化を教え伝える活動をしている書家・美術家の川邊りえこは、親しい知人7名を募り新たな拠点をつくった。その名も「Tamatebako Aynu」。今年2021年春に完成した、7つのゲストハウスと皆が集える大きなリビングのような応接スペースを備えたシェアハウスのような施設だ。

ダイニングキッチンのスペース。窓からは庭に舞い降りる丹頂鶴の姿を眺められる。
撮影/鷲崎浩太郎

建物は「D型」と呼ばれるカマボコ型の倉庫・工場に使用する既成の工業用躯体を使用。敷地は1万坪で、すぐ前を釧路川が流れ、敷地には2つの水源があり、清らかな湧水がコンコンと大地から染み出し大きな池となっている。またこの土地には温泉の源泉もあり、露天風呂を楽しむだけでなく、床暖房にも温泉を活用している。敷地内には日本の特別天然記念物である丹頂鶴が飛来する。「今朝も丹頂鶴が2羽、すぐ建物の前に来ていたんですよ。ここは都会に比べ、自然の生き物と人間との距離が近い場所なんです。私はこの場所にとても癒されています」。

彼女がここに新たな拠点を構えた理由は、大きく言って2つある。ひとつは、首都圏で大災害があった場合の避難所として利用するためだ。仮に東京で巨大地震が起こりインフラが破壊されればその普及には相当な時間を擁し、その間経済活動はおろか、日常生活の維持も難しくなる。そんなもしもの時を想定して北海道で水源がある土地を探していたそうだが、導かれるようにこの土地に出会ったという。

そしてもうひとつの理由が、「古代アイヌ文化研究所」と言う名の、私的な、アイヌ文化研究のための施設を北海道の地につくることだった。現在、この施設内にはアイヌ文化関連のライブラリーを設け、ここに滞在中はアイヌ文化についての研究を個人的に行っているという。

D型と呼ばれる倉庫などに使用する既存の工業部材を、居住空間として美しく仕上げた。2棟建つ建物のひとつはゲストルームで、7つの部屋が設けられている。
撮影/鷲崎浩太郎

書家・美術家として活動する彼女の作品の中には、古代アイヌ文字をモチーフにしたものがある。古代アイヌ文字は19世紀後半に北海道で発見された文字で、「日本人類学会The Anthropological Society of Nippon」会員により収集されたアイヌ民具の中にあった土器や自然石などに、文字のようなものが記されていることがわかり、当時の学会誌や新聞等で報告・報道されたものである。詳細については今もよくわかっていないが、川邊はこれに興味を持ち作品を制作した。そのいくつかは、ニセコにあるホテルやコンドミニアムなどに飾られている。

「私のライフワークに、日本文化に対する研究があります。特に、日本が天皇制を軸とした中央集権国家をつくる前、645年の“大化の改新”以前の古代史や文化に興味があります。その研究の過程で、アイヌの古代文字のことを知り、アイヌの文化そのものにも興味を持ちました。この北海道の土地に身を置くようになって、アイヌの人たちが大切にしていたものが肌で感じられます。私にとってはまだ未踏の、アイヌ文化に対し研究・発信をしていきたいと考えています」。

川邊りえこがこの土地を気に入ったのは敷地内に2つの水源があったから。湧水は池となり、清らかな水をたたえている。
撮影/鷲崎浩太郎

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