日本の伝統的工芸品を知る。

September 22, 2022

ライター:寺尾妙子

[ 岩手県 ]南部鉄器
岩手県でつくられる「南部鉄器」。写真のような鉄瓶に人気があるが、フライパンや鍋など、日常的に使う調理器具もつくられている。
PHOTO: THE ASSOCIATION FOR THE PROMOTION OF TRADITIONAL CRAFT INDUSTRIES

伝統的工芸品とは?

1974年制定の「日本の伝統工芸品産業の振興に関する法律」に基づき、経済産業大臣の指定を受けた工芸品を指す。2022年3月時点で、237品目ある。指定の条件には、「主に日常生活で使用され、製造過程の主要部分が手工業により、伝統的な技術・技法で作られるもの」「伝統的に使用されてきた原材料が主として用いられること」。「一定の地域で少なくない人々がその製造を行うか、その製造に従事していること」などが挙げられる。ちなみにここでいう「伝統的」とは約100年以上の継続を意味している。

日本は工芸大国である。北は北海道の木彫りの熊から南は沖縄の琉球絣まで、全国47都道府県すべてに、土地の風土や歴史背景に基づく伝統的工芸品が、国によって指定されている。その国から指定された伝統的工芸品には、染織、陶磁器、漆器、木工品・竹細工、金工品などのジャンルがあり、その数は237に上る(2022年3月現在)。ただ、日本でいう「工芸」は、英語でいうところの「Craft」と完全には一致しない部分もある。いわゆる「Art」の概念も「工芸」には含まれるのだ。その点を含め、日本の工芸品について説明をしたい。

いわゆるCraftと同一のものとして語られる工芸品は、先に上げた各地の伝統的工芸品がある。それは茶碗や鍋、着物、家具などの生活用具であり、材料や技巧、意匠によって美しさを備えたものとされている。

[ 秋田県 ]大館曲げわっぱ
「大館曲げわっぱ」は、秋田県大館市の工芸品。天然の杉材を曲げてつくられる。写真は弁当箱だが、近年ではこの技術を使い、コップや照明器具なども製造されている。
PHOTO: THE ASSOCIATION FOR THE PROMOTION OF TRADITIONAL CRAFT INDUSTRIES

[ 沖縄県 ]壺屋焼
「壺屋焼」は、17世紀に始まったとされる陶器で、沖縄県の那覇市壺屋地区や読谷村などでつくられている。写真のものは酒を入れる酒器である。
PHOTO: THE ASSOCIATION FOR THE PROMOTION OF TRADITIONAL CRAFT INDUSTRIES

人間国宝とは?

日本で1950年に制定された「文化財保護法」により、文部科学大臣が指定した、重要無形文化財の保持者として認定された個人を指す通称。重要無形文化財のカテゴリーは大きく分けて2つある。ひとつは、伝統的な演劇、音楽などの「芸能の技術」の保持者。もうひとつが、伝統的な「工芸の技術」の保持者である。存命の人間国宝は、2022年現在116人までの定員制となっている。また、工芸は陶芸、染色、漆芸、金工人形、木竹工、和紙、諸工芸などの分野に分けられる。

一方、日本には「美術工芸品」という言葉がある。日本の文化財保護法という法律では、有形文化財とされる絵画、彫刻、工芸品、書籍などが当てはまる。つまり、海外では広くArtに分類される絵画や彫刻のほか、書籍をはじめとする学術資料まで「美術工芸品」と規定され、ひとつの分野にまとめられている。日本では美術と工芸を分ける西洋的な美術観をもたないので、工芸=Craftとはならないのだ。

また、国宝「舟橋蒔絵硯箱」は工芸品であると同時に美術品であり、作者である本阿弥光悦は江戸時代を代表するアーティストとして日本では認識されている。このように日本では芸術としての伝統工芸が歴史的に存在し、そうした芸術としての工芸が昨今、注目を浴びている。

日本の工芸に関わる展覧会を企画し、現在、練馬区立美術館館長を務める秋元雄史に工芸の現状について話を聞いた。秋元はかつて、<金沢21世紀美術館>館長を10年間務め、2012年にはアート要素を多分に含む工芸作品を集めた『工芸未来派』展を同館にて開催した。

日本の美意識をポップに表現した桑田卓郎の作品。金沢21世紀美術館 「工芸未来派」展での梅華皮志野垸群展示風景。
写真提供:金沢21世紀美術館

茶人、工芸作家、建築家が手がけたベルリン・フンボルトフォーラムのアジア美術館内の茶室。
写真提供/ベルリン フンボルトフォーラム王宮内 ゆらぎの茶室 「忘機庵」 浦 淳(建築家/浦建築研究所)、奈良宗久(茶道裏千家今日庵業躰)、中村卓夫(陶芸家)、三代 西村松逸(漆芸家)、坂井直樹(金属造形作家)

「1980〜90年代にも工芸的な素材や技術を用いて表現するアーティストがクローズアップされましたが、2000年代にはその傾向がいったん、落ち着きます。その後また、現代アート的コンセプトで作品をつくる工芸作家が増え始めていたので、『工芸未来派』展で工芸を再定義したんです。そこでは“使える/使えない”という、それまで工芸とアートの境目とされていた基準が取り払われ、工芸的アプローチによるオブジェやインスタレーションもたくさん出品されました。私は工芸とは形あるモノではなく、“無形の技術”だと捉えています」

実際、そうした考え方をもとに、日本では伝統工芸の技術を身につけた人物が重要無形文化財の保持者(通称、人間国宝)として認定されている。彼らは自身の作品をつくるとともに、文化財に指定された工芸品の修復やそれに携わる人材の育成にも携わる。

そんな工芸の力が海外でも活用されている。2020年には『工芸未来派』展でも注目を浴びた陶芸家、桑田卓郎の作品を組み込んだバッグやドレスが、ラグジュアリーブランド<ロエベ>のコレクションに花を添えた。また、2021年7月にはベルリンに再建された王宮<Museum für Asiatische Kunst>に金沢の工芸作家3名を含むユニットによる、工芸を取り入れた建築手法により茶室がつくられた。そう、日本の伝統的工芸はアート、デザイン、建築などを含め、高度な表現を可能にする技そのものと言っていい。技の結晶たる伝統的工芸品に、ぜひ触れてほしい。

PHOTO: KOUTAROU WASHIZAKI

秋元雄史(あきもと ゆうじ)

1955年東京生まれ。美術評論家。<ベネッセアートサイト直島>や<地中美術館>のプロジェクトに携わったあと、<金沢21世紀美術館>館長、<東京藝術大学大学美術館>館長、同大学教授などを歴任し、現在は東京藝術大学名誉教授、<練馬区立美術館>館長。練馬区文化振興協会常務理事、<金沢21世紀美術館>特任館長、国立台南芸術大学栄誉教授を務める。

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