July 11, 2018

船団を率いて漁業の可能性を広げる〜萩大島船団丸 / 株式会社GHIBLI 代表の坪内知佳さん(山口県萩市)

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Chika Tsubouchi and the fishermen of Hagi Oshima Sendanmaru. | GHIBLI

萩大島船団丸は山口県萩市の大島で、約60名の漁師から成る船団である。漁獲の一部を魚市場経由ではなく、直接飲食店や個人の顧客に届けるという事業を2011年から率いているのが坪内知佳さん(32)だ。

大島での成功と日本の漁業全体を活性化するという挑戦により、坪内さんは女性にとってのモデル、そして地方での起業の成功例となった。

彼女のキャリアは順風満帆だったわけではない。健康上の理由から、キャビンアテンダントになる夢を諦めざるを得なかった坪内さんは、愛知県名古屋市の大学を中退。そして名古屋から、また故郷の福井からも数百キロメートル離れた萩へと移り、新しい人生を歩む希望を抱きながら、そこに住んでいた当時の恋人と結婚した。

ところが、男の子を出産した数年後に離婚。仕事がない状態で、幼子を食べさせていかなければならなくなった坪内さんだが、英語力、パソコンのスキル、そして企画力を生かし、生活を立て直していたときに出会ったのが、地元の船団の船団長の長岡秀洋さんだった。

出会って1ヵ月後、長岡さんはやぶから棒に、地元の漁業の復興に力を貸してほしいと坪内さんに頼み込んだ。漁業について何の知識も経験もなかった坪内さんだが、漁師たちが持つ未来への危機感には共感できるものがあり、何か新しいことが始まりそうだという希望も相まって、彼女は Yes の返事をした。

お互いに協力することを決めてから間もなく、農林水産省が、いわゆる六次産業化と、農産物、水産物の地産地消の推進を目的とした法令に基づく支援プログラムをスタートさせた。

萩大島船団丸は、地元の漁協との衝突を乗り越え、この支援プログラムの認定第1号事業となった。消費者に直売するという方法は、自身の存在意義をおびやかすものと捉えた漁協は、当初この計画を認めなかった。

これに対し、坪内さんは、アジやサバなどの主要な魚はこれまでどおり漁協を経由させ、残りの魚を直売用として使うことを提案した。

「漁協の収入に影響が出ないよう、直売している魚の分も漁協には手数料を支払っています」と坪内さんは話す。そうすることで漁協との良好な関係が維持できるのならば、直売することで得られる高い利幅からみれば、小さな投資だ。

また、天候不良で漁に出られない日や漁獲量が少なかったときに漁協から魚を買えば、萩大島船団丸は顧客からの注文をキャンセルせずに済むのだ。

だが、坪内さんの計画はここで終わらなかった。漁師の生活の安定を図るため、漁師たちと共に新規事業をスタートさせるべく、新しい会社を設立したのだ。

「漁業は季節労働。漁師の多くは副業をしなければ生活が成り立たなかったんです」と坪内さんは言う。

この新会社、株式会社 GHIBLI では、日本中の船団や漁師たちに向けてコンサルティングを行っている。萩大島船団丸のビジネスモデルはすでに北海道や高知の漁港で実践されている。坪内さんだけでなく、萩大島船団丸の漁師自身がコンサルタントでもあるのだ。

GHIBLI では旅行業にも取り組んでいる。萩大島船団丸の漁師と2時間昼食を取り、交流できるイベントには400名もの応募があったため、今度は宿泊もできるプランを計画中だ。

さらにこの会社の重要な事業の一つが、真珠を使ったジュエリーである。一般的な漁業関連の事業から少しずれているように思えるが、坪内さんはそうではないのだと言う。

「実際のところは環境ビジネスなんです。真珠も海産物なんですよ」と坪内さんは説明する。そして、「きれいな海水がきれいな真珠を作るんです。海の環境保全に対する人々の意識を高められればという思いで、魚以外の自然の産物として、新たな切り口を用意しているところです」と話す。

この会社のジュエリー事業はある意味、国内版のフェアトレードだ。大きさや形がほんのわずかに規格から外れているというだけで大手のジュエリー会社が買い上げなかった真珠を、適正な価格で買うことは、三重県や愛媛県の真珠生産者の支援につながっている。

社名の GHIBLI は、サハラ砂漠から海に向かって吹きおろす熱い風のことを指す。日本の漁業に変化をもたらすために、ありとあらゆる方向に向かって進む坪内さんや熱意あふれる漁師たちにぴったりの名前だ。

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