October 21, 2022
【アルビオン】ステークホルダーとの共存共栄が企業活動の基盤。商品力には絶対的自信
「高級品」の概念がまだなかった20世紀半ば、アルビオンは「世界一の高級化粧品メーカーになる」という夢を掲げて誕生した。本物志向のものづくりに徹し、日本を中心に根強いファンを持つ。原料調達から製造、流通、接客、社会貢献にいたるまで、従業員や取引先、消費者、地域社会などステークホルダーとの共存共栄の考え方をあらゆる企業活動の中核に組み込むのが、アルビオン流だ。
「原価基準はあえて作らない。お客様の肌で効果を実感していただけるなら、どんなに高額な原料でも使う」
代表取締役社長の小林章一氏は、「日本で唯一の高級品に特化した化粧品会社」としてのこだわりを、こう表す。商品力を高めるため、原料の自社開発にも乗り出した。世界自然遺産の白神山地のふもとに位置する約12万平米の自社農園で50~60種類の植物を無農薬栽培し、これまでに10種類の原料化に成功。独自のエキス抽出技術も実用化し、植物バイオテクノロジー研究にも力を入れる。
創業時からの共存共栄への関心を「SDGs(持続可能な開発目標)」への取り組みとして体系化した。化粧品容器のプラスチック使用量を減らす天然由来の素材を用いたプラスチック素材の開発、使用済み容器の回収と再資源化、生産工場の二酸化炭素排出量削減などはその例だ。従業員が働きやすい環境づくりにも注力し、子育てしながら働く選択肢を増やそうと事業所内保育所を銀座と福岡で委託運営する。執行役員以上においては4割を女性が務めるなど、人事面ではジェンダーにとらわれない人物本位の評価を行い、全社的にプラス効果を感じているという。
固有植物が豊富なスリランカに自社研究所を持ち、現地の大学と植物やその含有成分の共同研究を行うなど、研究成果の地元社会への還元も優先課題の1つ。マダガスカルでは子どもたちにリュックと文房具を届ける活動を2013年から続けており、16年には創業60周年記念行事として小中学校に校舎を寄贈した。現地に工場を作り雇用創出に寄与したいとの思いも抱く。
原料栽培から製造、販売まで一貫して手掛ける商品には「絶対的自信」を持つ。あえて固定費を抱え込む戦略は短期的に利益率を圧迫するが、長期的にはサステナビリティ経営につながり競争優位の源泉になると期待する。高級品販売から適正な利益を得て将来に投資する。小林氏が大事にする「アルビオンらしさ」がこの好循環を支えている。
Naonori Kimura
Industrial Growth platform, Inc. (IGPI) Partner
知行合一:同社は創業以来、環境との共生、サプライヤーや社員との共創が企業理 念として埋め込まれており、意識せずに長年にわたりサステナビリティ経営が実践さ れている企業です。小林社長の「うちだけ良ければという考えだと長続きしない」(注) という言葉を、それは当たり前だろと思う方も多いと思います。しかしながら事業を行 う上で多くの利害関係がぶつかる中、自益だけに固執せずマルチステークホルダー 観点から最適解を導き出すことは簡単ではないのですが、それらを企業のDNAとし て実践されている同社は、本当に素晴らしいと思います。