January 28, 2022

【SDGインパクトジャパン】持続可能な未来の創造へ。収益も社会課題解決も同時に追うファンドを設立

株式会社SDGインパクトジャパン
共同CEO 小木曽麻里(こぎそ・まり)

インパクト投資、社会起業家支援などサステナブルファイナンスの専門家。世界銀行グループ多国間投資保証機関の東京代表やファーストリテーリンググループのダイバーシティ担当部長・人権委員会事務局長を経て現職。W20日本デリゲート、国際協力機構海外投融資委員会有識者委員、国連やEUによる国際協調活動WE Empowerのアドバイザーなどを歴任。 | JUN MIYASHITA

サステナブルファイナンスに特化した投資とコンサルティングを手がける、アジアではまだめずらしい企業が日本で誕生した。この分野で10年以上の経験を持ち、2017年にはジェンダー格差是正に取り組む日本初の投資ファンドを立ち上げた小木曽麻里氏が共同CEOを務めるSDGインパクトジャパンだ。「SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)に配慮した経営は収益につながるということが、いろいろな面で明確になってきた。(資金調達と事業機会両面で)日本企業の伸びしろはまだまだある」と期待する。

Kogiso served as Tokyo representative of the World Bank group’s Multilateral Investment Guarantee Agency, delegate for W20 and adviser to WE Empower. | JUN MIYASHITA

小木曽氏は世界銀行や財団などでサステナブルファイナンス、特にインパクト投資に関わってきた。インパクト投資とは、環境保護、経済の脱炭素化、貧困国への食糧供給など、社会課題の解決(インパクト)に取り組む企業への資金供給のこと。「これまでのESG投資は最終的に収益を生むことが目標だった。しかし、この2、3年で欧州を中心に収益とインパクトを同時に目指す考え方が生まれ、それができる時代になってきた。10年前とは全く違う」と現状を分析。サステナブルファイナンスに特化した起業にこだわった理由を、「収益だけが目標ではない、新しいビジネスモデルを作りたいという思いがあった」と明かす。

SDGインパクトジャパンは昨年1月の創業からの1年でサステナブルテクノロジーに投資するベンチャーファンドの設立を推進し、現在はESGインパクトファンドの準備を進めている。従来のファンドとの違いは「インパクト自体を目的とする」ことだ。欧州で昨年3月に資産運用会社への適用が始まった、投資先の非財務情報の開示を求める「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)」は、その第9条でインパクトを目的とした投資を定義しており、新設するファンドはそれに準拠した日本初のファンドとなる。事業活動にともなう二酸化炭素(CO2)排出量を減らす、児童労働や強制労働を排除するなど、具体的な目標を定め、ファンドとして投資先の進捗を定期的に評価して公表する。小木曽氏は「目標達成に向け、ファンド自体も努力が求められる」と覚悟を語る。

A snapshot of assets in sustainable investments across the globe in 2016, 2018 and 2020, in billions of dollars. | SDG Impact Japan

インパクト投資が注目されてきた背景には、主に気候変動への差し迫った危機感から国際的なルール作りが進んでいることに加え、「消費者、特にミレニアル世代以降の意識や行動が変わり、(それに応えようと)企業が本気で取り組み始めた」(小木曽氏)ことがある。「モノのコモディティ化が進み、共感や人との結びつき、ウェルビーイング(心身の健康や幸福感)へと人々の価値観が移るなかで、社会課題解決への要請が高まってきた」という。

今後は収益とインパクトの両方を目指す投資が「普通になっていく」とみる。SDGインパクトジャパンとしての短期的な目標は、「日本にまだあまり供給がないインパクトを目標にした商品、インパクトファンドを作ること」。そして長期的には「選挙で投票によって意思表示するのと同じように、個人がインパクトを意識し、自分が重視するインパクトに投資できるように(ファンドの)選択肢を増やすこと」と青写真を描く。

海外パートナーと協力し、日本と海外のスタートアップと投資家をつなぐ「カタリスト的な役割」も目指す。設立されたベンチャーファンド経由で海外のインパクトファンドを日本の投資家に紹介するとともに「社会課題に取り組む日本のインパクトスタートアップを海外投資家に紹介し、海外から資金を呼び込みたい」と話す。

日本のスタートアップの世界展開も支援する。環境問題など世界と認識を共有する分野以外にも、人口の大都市集中と地方の過疎化、社会の高齢化、人口減少など、日本の社会課題の多くは将来の世界の課題でもあり、日本企業の知見が世界の課題解決にも役立つ可能性は高いと考えるからだ。

「医療でも社会システムの分野でも、これからはグローバルレベルでさまざまなコラボレーションが生まれていく時代」と小木曽氏。「海外では最初から世界市場を視野に入れるスタートアップが増えている。日本企業も早い時点で世界市場にどう関わるか、食い込んでいくかを検討し、初めからアジア市場すべてを対象にするくらいの視点を持つことが大事ではないか」という。

海外投資家への情報発信も一段と求められる。例えば小木曽氏が力を入れる組織のダイバーシティ(多様性)確保やジェンダー格差解消といった分野では、日本企業は女性が活躍しにくいなど対応の遅れを指摘されることが多い。育休や産休制度を整えても、日本独特の社会規範や「無意識の偏見」が活用の壁となる。ジェンダー問題に限らず、欧米主導の基準では評価が難しい事情を日本企業は丁寧に説明し、理解してもらう必要があると考える。

そもそもインパクト投資に関心を持ったきっかけは、世界銀行に籍を置き貧困問題など社会課題に向き合うなかで「資金が回ってこないせいで、(関係者の)技術も知恵も熱意もあるのに実現しないプロジェクトが多いことに気づいた」ことだった。収益もインパクトも追うSDGインパクトジャパンの挑戦は投資家の共感を得ることができるのか、その機は熟したとみる。

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