October 11, 2024

【セブン&アイ・ホールディングス】構造改革を進めコンビニ事業の海外成長を目指す

Hiroko Nakata Contributing writer

Junro Ito, vice president and chief sustainability officer at Seven & I Holdings | Hiromichi Matono

創業百年以上の歴史を持つ企業の多くは生き残りのための変革を経験している。セブン&アイ・ホールディングスも例外ではない。

セブン・イレブンやイトーヨーカ堂を傘下に持つセブン&アイの創業ルーツは、100年以上前の洋品店にある。戦後の高度経済成長期の中で、セブン&アイはイトーヨーカ堂を拡大し、セブン・イレブンを日本で開業した。同時に、幅広く小売業の事業ポートフォリオを成長させた。現在、セブン&アイは構造改革を断行し、国内外での成長戦略として、その経営資源を最大の強みであるコンビニエンスストア事業に注力させている。

「私達は『変化への対応』ということをスローガンとして掲げてきました。お客様のニーズの変化をどれだけ早く捉えて対応するかということが勝負なのです」とセブン&アイの伊藤順朗副社長は経営共創基盤の木村尚敬パートナーとのインタビューの中で述べた。

セブン&アイは現在、国内に22,800店舗、海外に85,800店舗があり、2024年2月期にはグループで約17兆7900億円の売り上げを計上している。

その長い歴史の中で、セブン&アイは何度となく変化を経験してきた。

Ito thinks that “what’s important is how fast we can catch and respond to customer needs.” | Hiromichi Matono

創業の歴史は1920年にさかのぼる。創業者の吉川敏雄氏は、のちにイトーヨーカ堂となる洋品店「羊華堂」を台東区浅草に開業。吉川氏は、イトーヨーカ堂創業者である伊藤雅俊名誉会長の叔父であり、伊藤氏は伊藤副社長の実父である。

初めは、羊華堂は小さな衣料品店だった。ターニングポイントとなったのは、後のセブン・イレブンの日本での開業であり、イトーヨーカ堂による食料品も扱う総合スーパーへの成長である。

それらのターニングポイントは、1960年代の米国への視察旅行から始まった。当時、ヨーカ堂(現在のイトーヨーカ堂)や、ダイエー、ジャスコ(現在のイオン)、西友、ユニーなどの小売業者は米国に視察のために訪れ、大都市の豊かさと大規模なスーパーマーケットチェーンに驚いたという。

「父親の当時の目標は百貨店でした。しかし、アメリカの豊かさやチェーンストアを見て、これからはチェーンストアの時代だということを感じたそうです」と伊藤氏は話す。1961年から伊藤氏の父はヨーカ堂の取り扱い品目を拡大し、生鮮食品も始めた。

こうした視察旅行は、日本でのセブン・イレブンの開業にも道を開いた。当時イトーヨーカ堂の幹部であり、後に社長になる鈴木敏文氏は、現地でコンビニエンスストアの将来性を見込み、当時の米国セブン・イレブンの親会社であるサウスランド・コープとの契約を取り付けた。1973年には日本で第一号店を開業し、その後国内に数を広げていった。1991年にサウスランドが破綻申請をした際には、子会社であるセブン・イレブン・ジャパンはイトーヨーカ堂と共に70%の株式を取得して救済し、その後完全子会社化を成し遂げた。

1973年は、セブン&アイにとって経営の多角化の時代でもあった。米国のデニーズと技術協力の契約を結び、日本での第一号店を開業した。その後、デニーズの商標権を取得し、国内で独自のメニューを展開した。

セブン&アイはいろいろな意味で先駆者でもあった。2001年には、当時のアイワイ・バンク銀行(現在のセブン銀行)を開業した。国内での金融の自由化に伴って認可されたインターネット銀行だった。

Hiromichi Matono

2000年を迎えると、セブン&アイでは第二の多角の波が始まり、数々の企業の買収を行った。しかし、現在実行中である事業改革の下で、多くの企業は去年までに売却された。百貨店のそごう・西武、高級品専門店のバーニーズ・ジャパン、スポーツ用品のオシュマン、インテリアのフランフランなどである。

「残念ながら、私どもの本来の強みをあまり補強することにはならなかった。本当の強みであるコンビニエンスストアにもう一度特化してやっていこうということです」と伊藤氏は話す。

2021年には米国コンビニチェーンのスピードウェイを買収し、海外でのコンビニ事業のさらなる拡大を遂げている。その結果、2024年2月期における連結EBITDA約1.05兆円のうちコンビニ事業の占める割合は90%以上になった。このうち半分以上は海外からの収益だった。

さらに2025年2月期には、セブン&アイは1.1兆円のEBITDAを見込んでいる。

最近の変革の例として、セブン&アイは「シナジー3.0」を掲げている。海外の店舗との間で、グループ内のプライベート・ブランド、サプライチェーン、食品製造のインフラを共有しようというグループ食品戦略だ。昨年、千葉県内にグループ初の共通インフラであるセントラルキッチンを稼働した。

この変革は「シナジー1.0」から始まり、セブン・イレブン店舗向けのプライベート・ブランド「セブン・プレミアム」の開発を行った。次にくる「シナジー2.0」では、最適な商品やサービスのグループ内での共有を進めている。

国境を越えたシナジーを推し進めるためには、グローバリゼーションとローカリゼーションのバランスも必要だ。「製造インフラや美味しさへのこだわりといった考え方は、(中略)共通するものだと考えています。ただ、求められているものは当然のことながら、本当の地元のものに合わせたものです。そのバランスが大切なのです」と伊藤氏は話す。

セブン&アイ・ホールディングスは10月10日、コンビニエンスストア事業に注力する新たな計画を発表した。食品スーパーや外食、専門店などグループ企業を束ねる中間持ち株会社を設立し、セブン&アイの社名を「セブン―イレブン・コーポレーション(仮)」へ変更するという。


Naonori Kimura
Industrial Growth Platform Inc. (IGPI) Partner

信頼を礎として、人々の豊かな生活を実現していく

セブン&アイ・ホールディングスは、人々の生活に寄り添い、社会の発展とともに成長を遂げてきた代表的企業の一つだ。高度経済成長期から今日に至るまでの人々の日常生活の変遷は、イトーヨーカドーやセブン-イレブンを抜きに語ることは出来ない。

セブン-イレブンを日本一、ひいては世界一のコンビニチェーンたらしめている商品企画・製造から店舗運営までの一貫したビジネスモデルは、デイリーメーカーや加盟店オーナーといった資本関係を持たない多くのステークホルダーとの緻密な連携が必須であり、根底となる「トラスト」の重要性を力強く語る伊藤氏の姿が印象的であった。

また、今日の日本のセブン-イレブンの店舗運営は、海外の方の戦力化なしに成立し得ず、彼らとの強固なトラストも不可欠だ。「祖国でセブン-イレブンのオーナーになる」という彼らの夢が現実になるとき、それは企業としての成長戦略の実現でもあると同時に、社会インフラとしてその国の生活を豊かにするという希望にも繋がる。

多様性あふれる世界において地域社会に不可欠なインフラとしてのコンビニエンスストアをグローバル展開しつつ、各国の社会・文化に根差した戦略的なローカライゼーションを推進する原動力は、各地域に様々な形でのトラストを確立できる力であり、地域固有および世界共通の課題・ニーズに応えていく強い組織能力があってこそである。

Subscribe to our newsletter

You can unsubscribe at any time.

PREMIUM MEMBERSHIPS

1-month plan or Annual plan 20% off!

Premium membership allows members to Advance registration for seminars and events.
And Unlimited access to Japanese versions of articles.

CHOOSE YOUR PLAN

Subscribe to our newsletter