March 24, 2023

【霧島酒造】サツマイモリサイクルで脱炭素に貢献

By OSAMU INOUE / Renews

© KIRISHIMA SHUZO CO., LTD.

Kirishima Shuzo’s strong points

1.「焼酎粕」から、1日約3万4000ノルマル立方メートルものバイオガスを製造

2.ボイラー燃焼のエネルギーへリサイクルしているほか、バイオガス発電にも活用

3.2030年度までに工場・事務所からのCO2排出量を「実質ゼロ」にすると宣言

4.他社からも食品クズを引き受け、自社リサイクルプラントのバイオガスを増産へ


食品クズや下水など、有機物を含む廃棄物や排水から「バイオガス」を作る取り組みは珍しくない。しかし、膨大なサツマイモの「粕」を原料とし、酒造りに必要なエネルギーへとリサイクルさせているとなると、珍しい。

今回紹介する企業の取り組みは、おそらく世界的に見ても特殊かつ大規模であり、評価されるべきだろう。

創業107年目の霧島酒造は、10年連続で「焼酎」売り上げ日本一を堅持する老舗の焼酎酒蔵。焼酎は、米・麦・芋などを原料とした日本の蒸留酒であり、日本の醸造酒である「Sake」と並び日本人に愛されているポピュラーな酒類である。

霧島酒造の焼酎は、サツマイモを単式蒸留器で蒸留して作る「本格焼酎」。サツマイモの名産地、南九州の宮崎県都城市に本拠を構える。

1日に生産する焼酎の量は1.8リットルの「一升瓶」換算で約20万本。年間では5000万本にも及ぶ。その原料であるサツマイモの使用量は、1日あたり約400トン。単独企業としては世界トップクラスだろう。当然、造り終えたあとに残る粕も大量になる。

蒸され、砕かれたサツマイモを発酵させ、蒸留。蒸気に含まれたアルコール分や旨味が焼酎として抽出され、水や酵母などを含んだ「焼酎粕」が残る。その量1日850トン。ほかに、さつまいもの切れ端など芋クズが1日に15トンも出る。

このほぼすべてが、数十億円の投資をかけて築いた「焼酎粕リサイクルプラント」によってリサイクルされている。


約2万2000世帯分のエネルギー

「サツマイモリサイクル」の取り組みは、2015年9月の国連サミットで採択された「SDGs」という言葉が生まれる10年前、2005年から本格的に始まった。

メタン菌で発酵させればメタンを主成分とするバイオガスが発生する。だが、一般的なメタン菌は高温に弱い。蒸留後に残る焼酎粕の温度は高温であり、焼酎粕のリサイクルを実現するにはこの課題をクリアする必要があった。

そこで、霧島酒造は大手建設会社の鹿島建設と共同研究に取り組む。55℃付近で活性化し、60〜70℃でも死滅しない特殊なメタン菌を、鹿島建設がフランスの海底火山で発見したことで前進。2005年、この特殊なメタン菌を用いたリサイクルプラントの建設に着手し、翌2006年12月にリサイクルプラントが完成した。

その規模は段階的に拡大し、今では計24基のメタン発酵槽が、1日約3万4000N㎥(標準状態での気体の体積=ノルマルリューベ)ものバイオガスを発生させている。そのエネルギー量は、一般家庭の消費電力に換算すると1日約22万kwh、約2万2000世帯分に相当する。

発生したメタンガスは、ガスボイラーに送られ、主に焼酎製造のための熱源として活用されている。例えば、2011年に建った本社の増設工場では、年間に使用する総燃料の65%がバイオガスで補われているという。

さらに、焼酎工場が稼働していない夜間などに発生するメタンガスを有効利用するため、2014年からはバイオガスでエンジンを回して発電する「サツマイモ発電」にも着手した。

それまで、発生するバイオガスの44%しか活用できていなかったが、これにより、ほぼ100%のガスを消費することに成功。年間850万kwhを発電し、大半を電力会社に売電している。

バイオガス発電による電力の一部はリサイクルプラントでも活用しているほか、2021年からは社用車として稼働する電気自動車(EV)の動力源にもなっている。「e-imo(イーモ)」と呼ばれるEVは4台だが、いずれ、130台ほどある社用車のすべてをEVに切り替えていく方針だ。

こうしたサツマイモリサイクルは、霧島酒造全体のエネルギー調達コストを押し下げているほか、温室効果ガス(GHG)の削減にも寄与している。

日本が排出するGHGのうち約9割が二酸化炭素(CO2)であり、霧島酒造に限ればほぼ100%がCO2。2021年度、霧島酒造は全体で、2013年度に比べて約9000トン、率にして33%のCO2を削減した。

ただし、霧島酒造にとってはまだ道半ば。「KIRISHIMA SATSUMAIMO CYCLE」と名付けられたサステナビリティ戦略のビジョンの実現へ向け、すでに動き出している。

「黒霧島」を始めとする霧島酒造を代表する焼酎。

他社から食品クズを受け入れガス増産

「2030年度までに工場と事務所からのCO2排出量を実質ゼロにする」。霧島酒造は2021年11月、そう宣言した。

その対象は、製造などで事業所から直接排出されるScope1、もしくは電力調達で排出される間接的なScope2で、原材料調達や製品の輸送、消費者の使用や廃棄といったサプライチェーンで発生するScope3は対象外。だが、そうだとしても、「2030年」という目標は、世界的に見ても意欲的である。

霧島酒造の江夏拓三代表取締役専務は、この目標を達成するためには、現在の取り組みだけでは足りないと話す。「さつまいも由来のエネルギー、当社からのバイオガスだけでは、焼酎製造にかかわるぜんぶを賄うことはできない」。

サステナビリティ戦略を担うグリーンエネルギー本部の東森義和課長はこう補足する。「当社由来の焼酎粕のバイオガスを全量使い、さらなる自助努力を積んでも、2030年に50%しかCO2を削減できません。そこに限界がある」。

そこで、霧島酒造はリサイクルプラントに投入する原料を、他社から調達してバイオガスを増産する策に打って出た。

自社由来の焼酎粕だけで足りないなら他社から引き取れば良い――。

霧島酒造は産業廃棄物処分業許可証を取得し、2022年4月より、同じ都城市内の老舗焼酎酒蔵2社から焼酎粕を引き取り、バイオガスの原料に足している。

そして、さらなるインパクトを求め、2022年には大手低温物流のニチレイロジグループからも食品クズを引き受けることにした。

ニチレイロジグループは、霧島酒造向けのサツマイモを鹿児島県曽於市の物流センターで引き受け、洗浄・選別・カット・冷凍・保管などの業務を受託している。この加工段階で1カ月30トンの芋クズが出ていた。

収穫時期の3カ月で90トンに及ぶ芋クズは、これまで鹿児島県内の産業廃棄物処理業者を通じて廃棄処分されていたが、霧島酒造は2022年9月から引き受け、バイオガスの原料に足すことにした。そのために、「県外産業廃棄物」の搬入承認を取得している。

現在、霧島酒造がニチレイロジグループから得ている食品クズは自社向けのものだけだが、今後は、ニチレイロジグループの鹿児島曽於物流センター全体の食品クズも引き受けていく方針。ニチレイロジグループの関係者によると、現実的な量として、「月に300トンくらいまでは増やせる」という。

バイオガスを発生させているバイオリアクター

太陽光エネルギーなどの活用で実質ゼロへ

サステナビリティ戦略を担うグリーンエネルギー本部の東森義和課長

将来は、サツマイモ由来のエネルギーに加えて、「いちごのヘタ」由来のエネルギー、あるいは、人参由来のエネルギーなどが加わり、霧島酒造のバイオガスプラントがより、にぎやかになっていくかもしれない。

だが、そうだとしても、「2030年度までに工場と事務所からのCO2排出量を実質ゼロ」という目標には足りない。膨大な量の焼酎を造るために、少なくとも2030年までは一定量の都市ガスを燃焼し続けることになる。

そこで霧島酒造は、自然エネルギーを活用することで、出してしまったCO2の分を回収し、最終的に実質ゼロまで持っていこうと画策している。江夏専務が期待をかけているのが、太陽光エネルギーだ。

「太陽光発電は大きな候補。南向きの綺麗に陽が当たる工場がいっぱいある。どれだけ発電できそうか、計算しているところ。それ以外にも選択肢がある」

すでに、本社増設工場には太陽光パネルを設置しており、1時間あたり最大100kWの発電が可能。発電した電気は工場の一部で利用している。

蒸留工程などで出る「温排水」にも可能性が残る。ボイラーの給水や工場設備・備品の洗浄水、暖房設備などに再利用されているが、すべての排水や熱を利用できているわけではない。

グリーンエネルギー本部の東森課長は、「温排水を使った発電や、排蒸気を使った発電もある。価格とどれだけ環境価値があるのか見極めながら、前向きに検討を進めている」とする。

そして、先述したように、現在の目標はScope1、2に限定されるが、霧島酒造はこの先、Scope3も含めたサプライチェーン全体でのCO2削減も見据えている。


「さつまいもは天恵、焼酎粕は宝」

霧島酒造のサプライチェーン排出量全体の8割以上が、さつまいもの収穫や輸送などの原材料調達や、焼酎の輸送・使用・廃棄などを含むScope3だと見られる。

霧島酒造は現在、このScope3の正確な算定を進めているところだ。近い将来、サプライチェーン全体での新たな削減目標が宣言されるだろう。

霧島酒造のサステナビリティへの取り組みは、こうしたエネルギーリサイクルやGHG削減による「気候変動対策」にとどまらない。

2023年1月、霧島酒造はアクションプラン「霧島環境アクション2030」を策定したと発表。その中で、気候変動に並ぶもう一つの柱として「自然環境保全」も謳っている。

すでに2010年には、宮崎県が進める「企業の森林づくり事業」に参加し、ケヤキやクヌギなど広葉樹の植林活動を始めている。こうした地域の森林保全活動を含め、森林の多面的機能の維持をさらに推進していくとしている。

自然から得た豊かな恵みを受け、発展してきたからこそ、霧島酒造は自然への感謝の気持ちを忘れない。「さつまいもは天恵、焼酎粕は宝」という江夏専務の言葉がそれを物語る。

地方にいながら先端をゆく霧島酒造のサステナビリティへの取り組み。霧島酒造は日本のサステナビリティのリーダーとして、今後も進化を続けていくだろう。

バイオガス発電の電力で走る電気自動車「e-imo」

サツマイモからできた焼酎粕は宝物

江夏拓三
霧島酒造 代表取締役専務

PHOTOS: KEIKO HORINOUCHI

酒屋は100年を通過しないと「老舗」と言ってもらえません。創業から107年目を迎え、ようやく老舗企業になることができたと、胸を撫でおろしているところです。

サツマイモというのは本当に素晴らしいものです。人類が生き延びたのは、サツマイモのおかげと言っても過言ではありません。種芋さえあれば、亜熱帯でもどこでも植えられる。人類が飢えになったとき、いつもサツマイモが人類を助けてきました。

我々は、それを加工して、もっと付加価値の高い「焼酎」にしています。

サツマイモの国内生産量は年間約70万トン。霧島酒造はそのうち、7分の1にあたる年間約10万トンを1社だけで使っています。企業としての使用量は、おそらく世界的に見ても当社がトップクラスでしょう。サツマイモという自然からの恵みのおかげで、私たちの商売は成り立っているのです。

その恵みを、無下に捨てることはできません。

焼酎を蒸留し終えたあとの「焼酎粕」と言えども、しっかりとまた自然に循環させなければならない。「宝物」として有効に活用すべき。このことを、私は1977年に父親が社長を務める霧島酒造に入社してから、ずっと考えてきました。

焼酎粕の一部は肥料として土壌還元されていましたが、大半は廃棄されてきました。肥料としては窒素成分が多く、そのままでは使いにくいためです。乳牛の飼料にしようとしたこともありますが、さまざまなしがらみがあり、上手くいきませんでした。

あれこれと知恵を絞り続け、ようやく辿り着いたのが、焼酎粕をメタン菌で発酵させ、バイオガスを発生させる焼酎粕のリサイクルです。

当社が出す焼酎粕はふんだんにエネルギーを持っています。有機物の量を示すいわゆる「BOD(生物化学的酸素要求量)」という指標では、5万ppmもあります。それを有効活用するためには、巨大な装置を含めて、いろいろなことをやらないといけません。

大手建設会社の鹿島建設さんとの共同開発ということで、実験から着手しました。それが上手くいき、規模を拡大しながら、今に至ります。

ただし、これだけでは足りません。霧島酒造は今、2030年度に工場・事務所のCO2排出量「実質ゼロ」を目指し、サツマイモ由来のエネルギーに加えて、再生可能エネルギーの調達も含め、検討しているところです。

当社のグリーンエネルギー部に、世界の先端企業が目指している「2030年」までに、「やるようにしてください」と言っている。おそらくできるのではないかと思います。

当社だけで、エネルギー量に換算すると年間943テラジュールという、ものすごいエネルギーを消費しています。これは一般家庭7万3000世帯分に相当します。やっぱり、会社として、そのエネルギーに対する責任も持たないといけない。そう思います。

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