September 29, 2023

食文化の伝統継承と発展のために

BY EMI MAEDA

From left: Photographer Hiroshi Ohashi, Shizuo Tsuji Gastronomy Award winner Yukie Mutsuda, Special Technical Award winner Eiji Taniguchi, and the head of the board of directors at the Tsuji Culinary Institute Group, Yoshiki Tsuji
PHOTO: TSUJI CULINARY INSTITUTE GROUP

学校法人辻料理学館は、2024年4月、東京都小金井市に「辻調理師専門学校 東京」を新たに開校する。この新しい校舎の開校に向けて、昨年度隣接する国立大学法人東京学芸大学と連携協定が締結された。両校は「食と環境」をテーマに掲げ、長年にわたる豊富な知識と経験を集結し、時代を見据えた教育研究を展開する。より充実した教育環境で学ぶ学生たちが、食の世界でキャリアを築くための確かなステップアップが期待される。

その辻調理師専門学校 東京で8月21日、公益財団法人辻静雄食文化財団による第14回辻静雄食文化賞贈賞式が開催された。本賞には陸田幸枝氏の著書「古くて新しい 日本の伝統食品」(柴田書店)、専門技術者賞には「Cuisine régionale L’évo」オーナーシェフの谷口英司氏が選出され、同財団より表彰を受けた。

「古くて新しい 日本の伝統食品」と題された本賞受賞作品は、日本各地の多様な風土と結びついて継承されてきた101種類にも及ぶ伝統食品と、それらの加工技術について網羅的に紹介している。伝統食品の百科事典とも呼べる作品となっている。

かつて人々は、旬の食材を長く美味しく安心して食べるために知恵を絞った。食材を干す・漬ける・醸すなどの自然の力を活用し、時間をかけて食品を作り上げてきた。伝統食品の技法は、自然の摂理に従って丹念に育まれ、磨き上げられてきたのだ。陸田氏は、「昔ながらの製法を守る人がいて、その真価を理解する人がいてこそ、未来へ橋渡しできる。その役割を、料理人が担えると思います。この本を何十年後かに読んだ人が、「昔の人はすごいね」と言ってくれたら、著者としてこんなに嬉しいことはありません。」と受賞のコメントを述べた。

辻芳樹氏(公益財団法人辻静雄食文化財団 代表理事/辻調理師専門学校 校長)は、香りや味、あるいは感触までを読む人に体感させる陸田氏の文章と、一瞬の光や鮮やかな色合いを切り取った写真家・大橋弘氏による写真について「何かを生み出そうとする時に発揮する人間の力というものを改めて認識させられる作品だ」と高く評価した。

専門技術者賞には、富山県利賀村に位置するオーベルジュ・「Cuisine régionale L’évo」のオーナーシェフ、谷口英司氏が受賞。近年、ガストロノミーレストランが都市から地方へと移動する傾向が世界的に広がっている中、谷口氏は利賀村の山深い自然の中に分け入り、その自然環境を学ぶことで自身の料理表現を大きく開花させた。彼は山の中で食材を収穫し、それに技術と感性を加えて、料理を芸術的に仕上げていく。

谷口氏の活躍は、土地と技術力が掛け合わされることによって、料理がその土地に新たな価値を生み出すガストロノミーレストランの先駆者的事例だと高く評価され受賞の対象となった。谷口氏は、「地元の方々からたくさんのことを教えていただき、それを自分の培ってきた料理に落とし込むということがとても楽しく、また勉強になった。日本の食の魅力を地方から発信できるように、これからも精進し、若い人にも伝えていきたいと思う」と受賞のコメントを述べた。

辻氏は谷口氏の受賞について、「食に関わる社会や環境の変化が加速する中、自らの体や感覚を働かせて、人や自然と交わり、時間をかけて紡ぎ出していくというものの価値というものを強く感じさせてくれた」と称賛した。

辻静雄食文化賞とは、創立者である辻静雄の志を受け継ぎ2010年に創設された。日本の食文化の分野で目覚ましい活動を通じて新しい世界を築き上げた作品や個人、および団体に贈られる賞である。2012年から専門技術賞も新設され、食文化の発展を支える技術者を評価してきた。このような取り組みによって、豊かな食文化とその背後にある技術と知識が、次世代に引き継がれ発展していくことが期待される。

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