August 30, 2024
水産養殖に藻を活用し、未来の海に魚を繋ぐ。
気候変動、乱獲など様々な理由で、日本を含めた世界の海洋資源は、現在危機的な状況にある。農林水産省の『令和5年漁業・養殖業生産統計』によれば、令和5年の漁業・養殖業生産料は372万4300tで、前年に比べて19万2700t、4.9%減少した。また、水産庁が発表した平成28年度と令和5年度の『水産白書』によれば、“生物学的に持続可能なレベルで漁獲されている資源の割合は世界的に漸減傾向にあり、持続可能なレベルで漁獲されている水産資源の割合は令和元年までに65%まで低下している”とある。例えば、マイワシの漁獲高は、1980年代は250万トンを超えていたが、2022年には約56.1万トンにまで減少。もはや大衆魚とは言えないレベルにまで落ちているのが現状だ。マイワシなどの小魚の減少は、それを餌とする大型魚の減少にもつながり、ひいては水産資源全体にも大きな影響を与える。
乱獲を防ぎ、水産資源を持続可能にするためにも養殖は欠かせない。が、現状の日本の水産養殖には問題点も多い。かつて大手総合商社で養殖魚の餌の輸入に携わっていたAlgaleX代表取締役社長の高田大地は、日本の水産養殖が南米の天然魚に支えられていることに非常な危機感を持ったという。
【うま藻とは?】
泡盛粕で育てられるうま味が豊富な藻。それを乾燥させたものが<うま藻>。カラスミに似た味わいで、うま味が強いのが特徴だ。発酵槽に泡盛粕・グルコース・藻を投入、発酵すると藻が増殖・成長する。そこで生まれるエネルギーは、うま味だけでなく、脂質に変換されDHAとして藻の中に蓄積される。
https://umamo.jp/
「養殖魚の餌となる魚粉と魚油はほぼすべてペルーやチリを中心とした南米から輸入されていますが、これは青魚が原料です。つまり日本の養殖魚は南米の魚を食べているわけです。南米からの輸入は長距離輸送のためコストもかかり、二酸化炭素の排出量も非常に多く、まったくサステナブルではないんですね。加えて、自然災害や政変、輸入規制などの不安定な要素もあり、ある日突然供給が止まるかもしれないというリスクもあります」。
そんな南米産の魚に依存している現状を打破したいという強い思いから、高田は株式会社Algalexというスタートアップ企業を2021年に立ち上げる。その道の第一人者である研究者や開発者との幸運な出会いを経て、海の生態系の最下部に位置しながら、実は海の命を支えている“藻”に注目した。全国の河川に多く生息し、光合成はせず気水に流れる栄養素を吸収して育つ藻は、沖縄のマングローブの葉に多く生息することから、沖縄に研究所兼開発所を構えることにした。
「注目したのは1ミリの100分の1という、目には見えない極小の藻“オーランチオキトリウム”です。この藻は栄養素であるDHAの濃度が15%あり、マグロなどに含まれるDHA濃度が1%であることに比べると含有量がいかに多いかがわかります。これをサンゴやプランクトンが食べ、それを海老や小魚が食べ、それが大型魚の餌になるという食物連鎖を作り出すわけです。つまり、この極小の藻は、海の根本要素であるDHAを供給することで海全体の命を支えているんです。この藻を安く効率的に大量に作って水産養殖魚の餌にすることができれば、魚が魚を食べない、つまり海の資源を枯渇させない養殖が可能になるのではと考えました」。
高田とスタッフは2021年より藻作りに取り組み出す。しかし、生態系の原点である藻は非常に弱く、育てるのが難しい。大量に必要とされる水産養殖の餌の生産にいきなり対応するのは技術的にも困難だったため、最初のステップとしてまずは人が食べて美味しく、栄養素が高く健康に良い美味しい藻という新しいマーケット作りを模索することにした。
「ユーグレナやスピルリナ、クロレラなど藻の高い機能性を商品化したものはありますが、あくまでも健康サプリメントであって美味しさという概念はなく、食品領域に参入できていないのが現状です。そこでまずは“美味しい藻”というものを作ってみようということになり、捨てられている泡盛粕(沖縄地方で生産される米を原料にした蒸留酒「泡盛」を作る際に出る粕)を使って藻を発酵させ、今までにない“うま味”が豊富な美味しい藻<うま藻>を養殖することに成功しました。フードロス削減のためにも、未利用食品を活用することは現代の課題のひとつです。ただ、これを製品に活用しようと思うと成分値が安定しないので、これらを原料として活用することや、そのものの工業化が難しいという問題があります。私たちはこの問題を独自のAI技術を用いることで解決しました」。
泡盛粕という本来であれば廃棄されてしまう未利用食品を活用し、美味しさを追求した<うま藻>は、うま味と栄養成分が豊富な藻と言える。例えばうま味成分であるグルタミン酸は昆布の1.5倍、コハク酸はシジミの4倍ある。また栄養価としても、鯖の10倍を超えるDHA、トマトの10倍のGABA、ニンニクの3倍のアルギニンを含むなど、単一原料とは思えない深いうま味と栄養成分を含んだ新食材になっている。
海洋資源の原点であるDHAを作り水産養殖の諸問題を解決するのが目的で始めた藻の育成。その第一歩として <うま藻>を開発し、今までになかった美味しい藻というジャンルを確率させた。今後は、当初の目的であった水産養殖飼料の生産へとステップアップしていきたいと高田は語る。独自のAI技術を使って藻を育てることができれば、遠隔で管理しながら水産養殖場に隣接した場所で藻を原料とした飼料を作ることも可能になる。そうすれば輸送コストや時間、二酸化炭素の排出量もカットでき、水産養殖が抱える矛盾やリスクの解決につながるだろう。画期的でサステナブルな水産養殖が実現できる未来がそこにある。高田の取り組みに対する、水産資源枯渇問題解決への期待は大きい。
高田大地
株式会社AlgaleX代表取締役社長。1989年神奈川県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、大手総合商社にてM&A、事業再生、ベンチャー投資を担当。その後、水産養殖の課題解決を目指し、商社在職時に投資したスタートアップにCFOとして転職。2021年3月株式会社AlgaleXを設立。