October 25, 2024

【株式会社ベネッセホールディングス】教育事業だからこそ貢献できること

By OSAMU INOUE / Renews

ILLUSTRATION: AYUMI TAKAHASHI

Benesse’s strong points

1.1995年、企業理念「よく生きる」を表すラテン語の造語「Benesse」へ社名変更

2.国内教育事業者で初めて「TCFD」に賛同。CDP 2023年版の「気候変動」でAリスト

3.主力の通信教育ではデジタル化を進め、紙やプラスチック、輸送などの削減に寄与

4.多岐に渡る「環境教育」を通じて、次世代のSDGsを担う子どもの啓蒙も推進


生命が宿った瞬間から、最期を迎える時まで。人のライフステージに寄り添うベネッセホールディングスの業種を一言で現すのは難しい。

前身は1955年創業の福武書店。中学向けの図書、生徒手帳発行から始まり、模擬試験の実施などへ業容を拡大。小中高生向け通信教育の「進研ゼミ」で急成長を果たしたが、今では妊娠・出産を支えるメディア事業や、高齢者向け介護事業なども主力とする。

通信教育では221万人の国内会員と88万人の海外会員を抱え、介護事業では1万7000人の入居者を抱える大手。近年では、世界最大級のオンライン動画学習プラットフォーム「Udemy」と包括的業務提携を結び、国内150万人以上のユーザー獲得にも寄与している(直近の開示データより)。

共通するのは、ベネッセグループの企業理念であり、社名の由来でもある「よく生きる」。SDGsが目指す「ウェルビーイング」とほぼ同義だ。その意味では、教育事業者ではなく、“ウェルビーイング企業”と表現すべきなのかもしれない。

だからこそ、ベネッセがサステナビリティへの取り組みに比重を置くのは「必然だった」とサステナビリティ推進担当役員を務める豊泉桂子執行役員は語る(囲み記事参照)。

2018年、持続可能な社会に向けた取り組みをグループ全体で強化するため「サステナビリティ推進委員会」を設置すると、翌19年には日本の教育事業者として初めて「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に賛同を表明した。

国際非営利団体「CDP」もこうした積極的な姿勢を評価。2018年から3年連続で「気候変動」の最高評価「Aリスト」に選定された。その後、「A−」評価となったが、2024年2月に公表された2023年版では再びAリスト入りを果たしている。

2024年4月には、事業会社であるベネッセコーポレーションが「エコ・ファースト企業」として環境省から認定。環境分野で「先進的、独自的でかつ業界をリードする事業活動を行う」企業として認められた。GHGのうち、スコープ1・2を2041年3月期で100%減(2018年度比)に、スコープ3を2050年3月期で39.4%減にするなどの目標へ向かい、環境負荷低減に取り組んでいる最中だ。

中でもベネッセらしい取り組みが、「商品・サービスのDX化戦略」だろう。


教材とDMをデジタル化

主力事業の通信教育は長年、膨大な量の教材やダイレクトメール(DM)を発送することで成り立ってきた。教材とDMをあわせた発送数は国内企業として2位の規模。莫大な「輸送」と「廃棄」は避けられず、スコープ3のCO2排出量を押し上げる要因にもなっていた。

この最も解決困難な課題に、ベネッセはビジネスモデルの変革で立ち向かっている。

2014年、小中高生向けの通信教育「進研ゼミ」で「デジタル講座」を開始。郵送していた教材を専用タブレット端末で“受信”できるようにし、「赤ペン先生」と呼ばれる添削サービスも端末上で完結できるようにした。添削結果を受け取るまでの期間が大幅に短縮できるうえ、輸送や廃棄にともなうCO2排出量の削減も期待できる。

数十年に渡ってアナログ文化で成り立っていたサービスを変革するのは、ユーザー側の理解も必要となるため難しい挑戦だった。だが、ベネッセは地道にメリットを伝え続けた。結果、2018年度に約34%だった小中学生向け講座のデジタル教材普及率は、2023年度には紙の使用量を2014年度から半減させることにも成功した。

それでも2023年度のベネッセの紙使用量は3万4088トン。日本国内の印刷・情報用紙生産量の約0.6%に相当し、まだまだ多い。

「100%デジタル化を目指せるのですが、紙のほうが学習しやすいという方も根強くいらっしゃる。そこは、我々もデジタル教材を利用した個々に応じた学びをより進化させ、紙ではできなかった価値をさらに訴求していきたいと思います」と豊泉執行役員は言う。

2023年度の紙使用量は前年度比10.9%減の3万4088トンまで減っており、その努力は着実に結果を生んでいる。デジタル化は教材にとどまらない。豊泉執行役員はこう続ける。

「DMもだいぶ発送数や紙の消費量を減らしています。かつては全学年で年間で15~20本送付していたこともありましたが、今はスマートフォンなどで『QRコード』を読み取っていただき、動画を再生してもらう方法に切り替えています」

QR化による効果や実績は「企業秘密」とするが、DVD配布は「劇的に減った」。DM自体はまだ存在するものの、その頻度は減り、同梱冊子もQR化によって薄くなっている。また、2022年11月からは、外装のフィルム封筒を全面的にバイオ素材のものに切り替えた。コストは増したが、小林仁 代表取締役社長CEOの強い意思で決まったという。

A set of Kodomo Challenge correspondence course educational materials with a tablet. The photo on the left shows a logo indicating that the wrapping material is biomass.
©BENESSE, PHOTO: HIROMICHI MATONO


リユース・リサイクルも推進

紙の消費量を減らし続けているベネッセは同時に、循環経済社会の実現に向け、教材のリユースやリサイクルにも注力する。

2023年から、デジタル教材向けタブレット端末のリユースを開始。すでに約7万台を回収し、整備したうえで約2万6千台をリユースした(2024年8月31日時点)。

タブレット端末のリユースで、プラスチックの原料となる石油や基盤に使われている希少金属などの資源使用量を抑制し、製造で発生するCO2の発生も減らすことができる。同社は、1台のリユースで年間約42.5~46.5kgのCO2排出の回避効果があると試算する。これは、杉の木5本強が1年間に吸収するCO2排出に相当するという。

一方、幼児向け通信教育「こどもちゃれんじ」では2010年から、教材として配布しているプラスチック・木・布製の知育玩具のリサイクル「くるくるリサイクル」にも取り組む。

まだ読み書きができない幼児向けは、毎月発送する知育玩具が主な教材となる。象などが描かれたカードを装置に入れると、鳴き声や英語発音が出る玩具など、工夫を凝らしたオリジナル教材の人気は高い。ただ、成長につれて必要のないものになってしまう課題があった。

そこで、こどもちゃれんじの会員向けに実施しているコンサートなどのイベント時に、回収ボックスを設置。活動開始からの累計回収量は2023年度までに約17.1トンに達した。改修後は、油に再処理してエネルギーとして再利用するなどしている。

「お子さんが大事に使った、でももう使わなくなったそのおもちゃを、ありがとう、さようならって言って、生まれ変わるためにその箱に返すことによって、ただ捨てるのとは違うイベントになる。それが教育上、すごく良いって親御さんから言っていただけています」

くるくるリサイクルの取り組みは、子どもの意識改革や行動変容を促す効果もあるとする豊泉執行役員。今はコストが見合わず、常時回収に踏み込めていないが、「社外のパートナー企業との協業によって、いつでもどこでも回収できる仕組みが作れるのではないか」と検討に前向きだ。

リサイクルはある種の「環境教育」の側面も持ち合わせるが、これも、いかにもベネッセらしいアプローチとして根付いている。


環境教育「おやこみらいプロジェクト」

2008年、「こどもちゃれんじ」では講座開講20周年を機に「おやこみらいプロジェクト」を開始。「環境」「命」の大切さを親子で考えてもらおうというもので、教材やイベントなどを通じて環境教育に関するさまざまなコンテンツや取り組みを展開してきた。

まずは、こどもちゃれんじの人気キャラクター「しまじろう」と「しまじろうカー」が全国47都道府県をまわり、子どもたちが環境や命の大切さについて体験できる自然体験イベントを実施。1年をかけて全国1万7970kmを走り、3641人の親子と触れ合った。

全国の保育施設には、「もったいない」という概念や環境を守る大切さをわかりやすく伝える「かんきょう紙芝居」や家庭用の復習教材を配布。2008年度は幼稚園を対象としたところ、全国の25%に当たる約3300園で採用されるほど好評だった。2009年度は対象を保育園にも拡大し、あわせて全国約7000園に紙芝居や教材が行き渡った。

2009年には、「しまじろうの植樹プロジェクト」にも取り組んだ。しまじろうが、子どもたちから募集した苗木の名前やイラストが描かれた「未来の『だいじ』の旗」を持ち、日本国内の森林に「植樹」を行うというものだ。

一方で、こどもちゃれんじの既存会員向けにも環境教育を実施。絵本のような通常教材に環境のテーマを取り入れ、「もったいないよ、大事にしようね」「お水はどこからきてどこにいくんだろう」といった学習を自然と親子でできるよう工夫した。さらに、「環境」と「食育」をテーマにした会員向け冊子を発行したり、繰り返し使えるエコの象徴でもある「おやこみらミニふろしき」を100万個以上作って配布したりするなど、全方位でプロジェクトを盛り上げた。

子どもとの接点という強みを活かし、SDGsへの貢献人材の育成に積極的に取り組むきっかけとなったこのプロジェクト。当時、こどもちゃれんじの幹部の一人だった豊泉執行役員はこのプロジェクトの主要メンバーだった。


夏休みの小学生の研究で環境教育

「おやこみらいプロジェクトを始める時、『なんで幼児に環境?』『理解できるの?』といったご指摘もありました。ただ、若い世代の保護者には、未来への環境意識が高い方も多い。私たちの思いが伝わるといいなと思い、続けてきました」

豊泉執行役員らの思いは、多くの保護者や子どもに受け入れられた。環境教育は、今ではベネッセを代表する柱にもなりつつある。あらゆるメディアを通じて幼児向けコンテンツを充実させてきた。

1993年から全国ネットの地上波で続けてきた幼児向けテレビ番組は2012年、「しまじろうのわお!」に改題してリニューアル。生物多様性やその環境を守る大切さを伝えてきた。アジア最大規模の「アジアテレビ賞」でプレスクール部門の最優秀賞を2度、受賞するなど、国際的な評価も高い。

また、「もったいない」を伝えるしまじろうの動画は、YouTube上で数十万から数百万回再生される人気コンテンツへと育っている。

環境教育への取り組みを挙げれば枚挙にいとまがないが、最後に「夏のチャレンジ 全国小学生『未来』をつくるコンクール」という一大イベントも紹介しておく。

2004年から毎年、夏休みに小学生から自由研究や絵画などの「作品」を募集し、表彰するイベントを続けている。2008年には、おやこみらいプロジェクトに合わせるかたちで、このコンクールに「環境部門」も追加。作文・自由研究・絵画などの作品は、累計で100万点以上に及ぶ。

20周年を迎えた昨夏は大賞21作品を含む約210作品を選定した。環境部門4年生の大賞作品は、ダンボールを使って野菜くずをたい肥にすることに挑戦した「ダンボールコンポスト」の研究。たい肥作づくりには、米ぬかと腐葉土の両方が必要ということを確かめ、その最適な割合についても調べるという本格的なもので、文部科学大臣賞にも輝いている。

The Kurukuru Recycling program, launched in 2010, places collection boxes at event venues for Kodomo Challenge subscribers.
©BENESSE

環境教育の事業化も視野に

本業の変革で環境負荷の低減に挑戦すると同時に、本業で接点が多い子どもたちへの環境教育にも積極的に取り組むベネッセ。環境教育は、ベネッセが排出するGHGの削減などに直結することではないかもしれないが、日本や地球の未来にとっては大きな意味がある。

幼児から始まった環境教育の取り組みは、小中高生向けの教材やイベントへも広がりを見せている。加えて、東京都多摩市における生物多様性に関する教育にも協力するなど、社会全体の環境教育を支えつつある。

興味を持ってくれないかもしれない子どもに、地球環境や社会を守るためのサステナビリティをどうわかりやすく伝え、啓発していくか――。その知見やノウハウは、環境教育を取り入れたいあらゆる組織や企業向けにも生かせるはずだ。

そうした環境教育支援の事業化について豊泉執行役員に問うと、意欲を見せた。「たしかに、我々だからこそやれることがある。サステナビリティの担当役員になって、ますます勉強ができるようになる教育だけでは社会は成り立たない、という思いを強くしています」。

人が“よく生きる”ため、人に伴走するベネッセは、環境教育を起点に社会全体を大きく変革していく可能性も秘める。“ウェルビーイング企業”への期待は大きい。

PHOTO: HIROMICHI MATONO

サステナビリティは「よく生きる」ための必然

豊泉桂子
株式会社ベネッセホールディングス
執行役員
コーポレート・コミュニケーション本部 副本部長

なぜベネッセグループは、そんなに地球環境やサステナビリティへの取り組みに熱心なのか。そう、聞かれることもあります。私たちとしてはベネッセの哲学からして、そして、教育事業を手がける会社として、ごく自然なことだと考えています。

ベネッセとは、ラテン語の「bene(良い、正しい)」と「esse(生きる)」を一緒にした造語です。1990年に「よく生きる」という企業理念を掲げ、1995年にはベネッセコーポレーションへと社名も変えました。

「よく生きる」とは「ウェルビーイング(well-being)」とほぼ同義であり、そこには、人々の向上意欲と課題解決を生涯にわたって支援する、といった決意も込められています。

その言葉を社名に掲げてから約30年間、小さいお子さんからご老人まで、お客様にとっての「よく生きる」とは何なのか、人々がよりよく生きることができる未来を創るにはどうしたらいいのか、ということを、社員一人ひとりが考え続け、追求してきました。

それは、効率や収益を考えれば非効率なことに見えるかもしれません。しかし私たちは、そうではないはずと信じてこだわってきたのです。

当然ですが、持続可能な社会や地球環境がなければ、人は「よく生きる」ことはできません。世界がサステナビリティを実現させる方向へ動き出した中、私たちとしてもサステナビリティというのは自然とたどり着くテーマでした。

そもそも、主力事業である通信教育の対象は子どもたち。私たちは子どもたちのことを「未来からの留学生」と呼んでいますが、その未来が大変なことになるとわかっていながら、行動しないわけにはいきません。子どもたちの未来がよくなるために、地球環境のことも考え、よくしていく努力をするのは、必然だと思っています。

私個人としても、1997年にベネッセに入社して以降、子どものための仕事をすればするほど、次の世代に負を残さないようにしなければならないという思いが強くなりました。

環境破壊や資源問題といった課題は、我々の世代が引き起こしたことです。それを、我々の世代でしっかりと戻した状態で、次の世代へ地球を渡していかなければならない。そして、次の世代が、またその次の世代のことを考え、よく生きられるような世界を作っていくというサイクルを作り、残さなければいけません。

その意味で、子どもたちに勉強だけを教えるのではなく、環境教育も同時にやっていくというのは当然の流れだと感じています。

「よく生きる」を掲げるベネッセだからこその責務があり、子どもたちのためにできることがある。そう思い、これからも未来のために努力を続けていきます。

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