January 24, 2025
外交関係樹立130周年を迎える日本とブラジルと新たな関係づくり。
笠戸丸という小さな船で日本人781人がブラジルに最初の移民として渡ったのは1908年。現在は250万人以上の日系人が住み、日本国外としては世界最大の日系人コミュニティがあるブラジルは、世界各国の中でも日本との絆が特に強い国のひとつだ。
2025年は、日本・ブラジル外交関係樹立130周年を迎える節目の年。2024年に行われた、日本・ブラジル首脳会談では、ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ・ブラジル連邦共和国大統領と岸田文雄首相(当時)が2025年を『日・ブラジル友好交流年』と位置づけ、文化や観光、スポーツの交流や、交流の基盤になる日本語教育支援等の様々な分野で協力を促進することを確認した。
その実現に向けて日々多忙なスケジュールをこなすオクタヴィオ・エンヒッケ・コルテス駐日ブラジル連邦共和国特命全権大使の公邸は、代々木公園に近い閑静な高級住宅街にある。公邸の設計は日系ブラジル人の建築家ルイ・オオタケ(1938-2021)。ブラジルスタイルの現代建築に日本テイストをうまく取り入れた建物の1階は、レセプションルームをはじめとするパブリックスペースになっていて、センスよく配置された家具や、美しい竹林に囲まれた大きなテラスが印象的だ。
「2024年5月の岸田元首相のブラジル訪問、11月の石破総理大臣のG20リオデジャネイロ・サミット参加など、日本の首脳がブラジルを訪問される中、2025年度にはブラジルのルーラ大統領の訪日が計画されています。外交関係樹立130周年を迎えるにあたり、外交的にはこの大統領訪日が一番大きなイベントとなります」とコルテス大使。日本とブラジルは、2014年に『戦略的グローバル・パートナーシップ』を締結している。政策対話の強化、国際協力、グローバルガバナンス改革、安保・司法、治安、貿易、投資、防衛、インフラ、エネルギー、科学技術協力などあらゆる分野での協力関係性を積極的に深めていく重要な友好国として、緊密に連携しているのだ。
「さまざまな協力の中でも、政治対話と貿易、そして気候変動との戦いが、両国の課題として非常に重要性が高いと認識しています。ブラジルは、持続可能なエネルギーの生産と輸出にかけては世界でもリーダーです。1970年代のオイルショックをきっかけに、化石燃料の代替としてエタノールベースのバイオ燃料開発が盛んになりました。ブラジルは砂糖の生産量が世界1ですが、原料のサトウキビやトウモロコシから作るバイオエタノールの生産も今や世界最大規模です。ブラジルで生産される車のほとんどはフレックス燃料車になっていて、ガソリン100%でもエタノール100%でもその二つをどんな割合で混ぜても走ることができます。脱炭素に向けた持続可能なエネルギーとして、このブラジル産エタノールの日本への輸出を拡大し、持続可能な航空燃料(SAF)の開発に協力して、日本の脱酸素化目標達成に貢献したいと思っています」。
2025年11月には、『第30回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)』が、ブラジルを議長国として北部パラ州のベレンで開催される。ブラジルでは初開催、アマゾン地域での開催も初めてとなる。環境保護に熱心で積極的な環境政策を打ち出しているルーラ大統領が率いる、サステナブル大国で脱炭素社会先進国ブラジルの存在をアピールし、日本とも協力して実りある内容を練り上げていきたいとコルテス大使は語る。
コルテス大使の日本赴任は今回で2回目。2008年から2012年は次席公使として滞在していた。来日直後にブラジルと縁の深い日本の国会議員からプレゼントしてもらった群馬県のダルマが大変気に入り、コレクションのひとつになっているという。
「片目を塗らずに置いておき、願掛けして叶った時に目を入れるという伝統が大変印象深く、七転び八起きの話や美しい形も含め、すっかり気に入りました。ブラジルにも、バイーア州にあるノッソ・セニョール・ド・ボンフィンという教会の発祥で、リボンを手首に巻きそれが切れたら願いが叶うという風習がありますが、願掛けという意味でそれに近いものをすごく感じました。群馬県は日本国内でもブラジル人が多く住んでいるエリアで、その方たちからダルマをプレゼントされることもあります。自分でもダルマを買ってブラジルの親戚や友人にお土産として差し上げたりもしています」。
父親も外交官で会議のために来日したこともあるというコルテス大使。その時に父からお土産でもらった着物も大のお気に入りだ。現在は4枚所有し、部屋着として愛用しているという。日本の磁器も大好きで、特に高価なものではなくても、見て自分が美しいと思ったものを訪問先々で買っている。
「日本の文化は多様で奥深いので、全部を知り尽くすことはできませんが、知れば知るほどもっと知りたくなります。ブラジルに住む日系人のおかげで、ブラジルには日本文化が至る所に根付いています。和食も特別なものではなく、日常的に一般家庭の食卓に登場します。長年の人的交流のおかげで、日本の伝統文化がブラジル社会に溶け込んでいるんです。日本のスーパーに行くとBGMにブラジルの音楽であるボサノバが流れたりして驚きますが、そうした、政治的なつながりを越えた草の根の部分での人的な絆が、日本とブラジルの関係をより力強く緊密なものにしているのは間違いありません」。
オタヴィオ・エンヒッケ・ジアス・ガルシア・コルテス駐日ブラジル連邦共和国特命全権大使
1959年12月13日、リオデジャネイロ市生まれ。リオデジャネイロ連邦大学電気工学科卒業後、1986年、ブラジル外務省入省。ワシントン、アスンシオン、ラパス、東京、バグダード、アンマン、アディスアベバに勤務。駐ボリビア大使(2018-2022)、駐エチオピア大使(2015-2018)ならびに駐ジブチおよび駐南スーダン兼任大使を務める。アフリカ連合および国連アフリカ経済委員会(ECA)のブラジル常駐代表を務める。ブラジリアでは、外務省の様々な部署をはじめ、大統領府戦略問題担当局および連邦上院に勤務。2022年7月より駐日ブラジル大使を務める。