September 29, 2023

茶道具を拝見する。

ライター:寺尾妙子

茶会は、茶道の世界観の中で行われる社交の場である。同時に、かつて、美術館がなかった時代には茶道具という美術品を間近に鑑賞し、美意識を養う場でもあった。現代においてもそれは変わらず、希少な品々を直に手に取って、味わうことができる特別な機会となっている。

そんな茶会において、客が道具を見ることを「拝見」と呼ぶ。「拝見」とは「見る」の謙譲語。亭主が決めたテーマに沿って選んだ道具を尊重して鑑賞するのだ。客は“演者”たる道具が語る言葉に熱心に耳を傾ける。寄付の飾り、本席の床間、菓子の銘から盛られた器、茶碗や茶杓など、あらゆる道具を通じて、亭主の真意を汲み取る努力をする。そして、会が進行するなか、すべての客を代表して質問をするメインゲスト、正客と亭主による答え合わせが行われる。まるで謎解き、ジャズのセッションやアート作品のインスタレーションを作家自身と語り合うのような過程を経て、亭主と客の心がひとつになる。読者諸君も茶会に招かれたつもりで、紙面で道具を拝見して欲しい。


蓋置

銀 アトラス <ティファニー>製

釜の蓋や柄杓を置くために使われる蓋置も、立派な茶道具として扱われる。シンプルに竹を切っただけのものでも茶道の家元の在判(サイン)があるものや、中国明時代の焼物など、さまざまな時代や素材のものが用いられ、鑑賞の対象になる。このスターリングシルバーの蓋置は実はブレスレット。1853年にNY五番街の<ティファニー>本店に掲げられたアトラス クロックから着想を得た、「x」を連ねた力強いデザインが特徴だ。

PHOTOS:KOUTAROU WASHIZAKI

掛物

真鍋淑郎博士筆 “simplicity & Balance”

掛物は書かれている内容もさることながら、誰が書いたものであるかが重要視される。客は掛物に対して、最も丁寧な「真」の格のお辞儀で手をつき、頭を下げるが、それは掛物そのものに対してではなく、それを書いた尊い人物に向けられている。こちらは2021年ノーベル物理学賞受賞の真鍋淑郎博士が、自らの座右の銘を筆で書き上げた書を、床の間に合うよう軸装したもの。その言葉からは禅の世界観にも通ずるマインドが感じられる。

花入

ベネチアングラス ルイス コンフォート <ティファニー>製

季節を感じさせ、移ろう時を象徴する花は、人間以外で茶室中、唯一の命ある存在。それを生ける花入とともに、茶人は特別に心を砕く。千利休の教えに従い、「野にあるように」花が生けられた花入はティファニー創設者の息子でアーティスティック・ディレクターとして1902年、父の会社に入社したルイス・コンフォート・ティファニーがデザインし、造形作家であるアルキメデ・セグソが手吹で作ったベネチアングラス製。


茶杓

銘 “旅古路茂(たびごろも)” 松永耳庵作

茶碗

半使

抹茶をすくう茶杓(ちゃしゃく)は「茶人の刀」とも呼ばれる。歴史的茶人には戦国武将や大名が名を連ねるが、彼らは魂を込めて竹を削り茶杓を作った。20世紀には財界人が茶人として名を馳せた。この茶杓は戦後の電力業界の一角を担った松永耳庵作。姿や色味から、通訳を意味する「半使(はんす)」というジャンルに区分された茶碗は17世紀朝鮮製。戦国時代の大名茶人、小堀遠州を祖とする遠州流12世家元、小堀宗慶による銘が付いている。


数茶碗

霞三島 十字架 浅見宣恒作

1席で数十人以上の客が集まる大寄せの茶会では、正客(しょうきゃく)と呼ばれるメインゲストに出す「主茶碗(おもじゃわん)」一碗に加え、一点ものの「替茶碗(かえじゃわん)」が数碗、同じものをたくさん揃えた「数茶碗(かずじゃわん)」を用いる。この数茶碗は亭主、北澤による特注品。茶会が行われた瑞峯院がキリシタン大名、大友宗麟の菩提寺であることにちなみ、茶碗の底に十字架のデザインが施されている。京都で代々、作陶する家に生まれた作家、浅見宣恒の作品は伝統を踏まえつつ、モダンだ。


茶碗

替 ブルーダイユール <エルメス>製

エルメス「ブルーダイユール」は磁器のテーブルウェアとして長年愛されてきたシリーズ。古くから茶人に好まれた中国・広西省景徳鎮市とその周辺で焼かれた染付の器の色を彷彿とさせるような、深い青色と日本の伝統的な吉祥文様、亀の甲羅を表す六角形の亀甲文がオリエンタルな雰囲気を醸し出している。2022年に生産終了が発表され、現在では世界的な品薄状態になっているボウルは茶碗としてもうってつけの姿と大きさである。


干菓子器

ブロンズ <ティファニー>スタジオ製

銘「ストライプ」と名付けられた主菓子に続いて供された、水分の少ない乾燥した干菓子の銘は「星」。併せて星条旗となる趣向である。目にも楽しい黄色と白の星は寒天を使ったゼリーのような食感の琥珀糖。1900年台初頭にルイス・コンフォート・ティファニーによって<ティファニー>のスタジオで創られた素朴なトレイが茶道の美的感覚と調和している


菓子器

ベネチアングラス エレサ・ペレッティ <ティファニー>製

白小豆と砂糖を炊き上げた餡を成形し、色をつけ、茶会のテーマに沿った銘をつけた和菓子、主菓子(おもがし)を盛り付ける器は、オープンハートの生みの親として有名なエレサ・ペレッティによるサムプリント デザイン。造形作家、アルキメデ・セグゾ作のベネチアングラス製で、24金の金箔をガラスの中に散りばめる手法で、ひとつずつ手作りされている。星条旗のストライプをイメージした主菓子、そして畳の部屋と違和感なく調和する。


銘々皿

銀 <ティファニー>製

菓子は大皿に数個、盛り付けたものを、客がそれぞれ取り分ける場合と、1名分ずつ、銘々皿に盛って出す場合がある。この銘々皿は<ティファニー>がハイジュエリー新作発売の記念に製作した非売品。夏にふさわしく、南国で育つヤシやモンステラの葉が浮かび上がるデザイン。併せて、1870〜1880年代にかけて、アメリカで初めて<ティファニー>が様々なモチーフをジャパネスク・スタイルとして取り入れ、発表した商品の一つ、鯉をデザインした銘々皿も使われた。


香合

エナメル銀貝 昌道和尚箱 <ティファニー>製
帛紗 猶有斎襲名茶事記念品 清流間断無 友湖製

本席に連なる次の間の飾り。釜を据え、炭を置いて火を起こす風炉では香木を薫く。大寄せ茶会では、その一連の作法を省略する合図として、香木を入れる香合を床の間などに飾る。外側がエナメル、内側がスターリング・シルバーのピルケースを香合(こうごう)に見立てたものに、瑞峯院の前田昌道和尚が揮毫(きごう)した箱が添う。2018年に茶道表千家流15代家元を襲名した猶有斎(ゆうゆうさい)が揮毫した禅語「清流間断無(せいりゅう・かんだんなし」を配し、土田友湖が作った帛紗を合わせた。


水指

アルクール金彩 <バカラ> アイスバケツ

湯の温度が高くなり煮え過ぎた湯を生き返らせるため、また次の点前のため使った水を継ぎ足すため、新鮮な水を足せるよう釜の隣に鎮座するのが、たっぷりと水を湛えた水指(みずさし)だ。一般的には陶磁器で作られたものが多いが、夏場は見た目にも涼しげなガラス製も好まれる。<バカラ>のアイコンとして知られる「アルクール」は、1841年にフランス国王ルイ・フィリップが注文したグラスを原型として作られた。これに寸法を合わせて特注した漆の塗蓋をつければ、立派な茶道具となる。


寄付

書鎮 漆バングル エレサ・ペレッティ <ティファニー>製

茶会では菓子や茶が振る舞われる本席に入る前に、寄付(よりつき)というウェイティングルームに通される。客はここで身支度をし、心を整える。この部屋でも亭主は客をもてなすために掛物や装飾品などを飾っておく。今回は掛物の下に、茶会で使われる道具一式を記した会記が置かれた。この会記のペーパーウェイトとして、エレサ・ペレッティによるデザインで、日本の漆芸職人が仕上げたティファニーのドーナツ・バングルブレスレットが見立てられた。

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