August 29, 2025

日本の伝統文化「相撲」のなかの外国出身の力士。

ライター:山下めぐみ

五月場所場所で大関・琴桜を土俵際まで追い込んだ安青錦。この一番は負けてしまったが、翌名古屋場所では鋭い技で大関琴桜に勝ち、場所ごとの成長が著しい。
PHOTO: MANAMI TAKAHASHI

戦前には日系アメリカ人の力士が2人いたが、外見が明らかに外国人という力士は、1964年にハワイからやってきた高見山に始まる。幕内優勝も果たし、フレンドリーなキャラクターで人気者だった。高見山のスカウトで同じくハワイからやってきた小錦は大関、曙と武蔵丸は横綱まで昇進した。この2人のハワイ出身の力士は1990年代初頭に日本人の兄弟力士、若乃花、貴乃花が国民的な人気を得た時代、敵役的な存在で大相撲を盛り上げ、ハワイ出身力士を日本人に印象付けたといえる。その間、トンガ、アルゼンチンやブラジルなどからも、強そうな若者がスカウトされやってきたが、日本にも相撲にも馴染めずに廃業する者もおり、傑出した力士は現れなかった。

そのようななか、1990年代からは民主化が進んだモンゴルから力士が次々とやってきた。国技のモンゴル相撲「ブフ」の連盟からの要請を受けて受け入れが始まり、一時は人数が増えすぎて集団脱走事件も発生。そこで一時的に外国人力士の受け入れ自粛が決定された。1998年からは「一部屋一人」を条件に受け入れが再開。その後、破天荒なキャラクターで話題となった朝青龍、歴代最多45回の幕内優勝を誇る白鵬、現役の豊昇龍に至るまで、モンゴル出身の横綱は6人にのぼる

ヨーロッパ勢では、エストニア出身の把瑠都、ブルガリア出身の琴欧洲や碧山、ジョージア出身の黒海、臥牙丸や栃ノ心など、レスリング経験のある大型力士は、幕内で活躍。ロシア出身の力士も数名おり、狼雅は現役の幕内力士だ。ウクライナ出身は安青錦のほかに現役で獅司がいる。

イスラム教徒の力士では、エジプト出身の大砂嵐がアフリカ勢初の関取となった。現役ではカザフスタン出身の金峰山がいる。部屋のちゃんこはハラール食材で作られているそうだ。

昭和の大横綱、大鵬の父はウクライナ出身だったように、日本国籍であってもさまざまなルーツを持つ力士が活躍してきた。現役力士では、フィリピン、タイ、ロシア、ナイジェリアなど、そのルーツも多彩だ。日本国籍でさえあれば、一部屋一人という外国人枠に縛られることはない。

一方、引退後に親方として相撲協会に残るには日本国籍が必要なため、現役中に帰化する力士も少なくない。白鵬もその一人で、引退後は宮城野部屋を運営したが、弟子の不祥事により部屋の閉鎖を余儀なくされた。部屋の再開の承認を待つなか、今年2025年6月には電撃的に相撲協会を退職。「外の立場から、相撲の発展に貢献する」とし、「世界相撲グランドスラム」の構想も掲げており、今後の動向と相撲協会との関係が注目されている。


豊昇龍 智勝

横綱
モンゴル
26歳
© NIHON SUMO KYOKAI

横綱・朝青龍の甥。幼少期から柔道やレスリングに親しみ、レスリング選手として日体大柏高校に留学。その後、国技館で初めて生で相撲を見て感動し、2018年に立浪部屋に入門。入門当初から「横綱の逸材」と評され、順調に昇進を重ね、2024年に横綱へ昇進。勝つだけでなく品格も求められる横綱の地位に馴染むまでには、もう少し時間が必要だろう。


霧島 鐵力

最高位:大関
モンゴル
29歳
© NIHON SUMO KYOKAI

羊を飼育する遊牧民の家に生まれ、乗馬などで自然と強い足腰が養われた。知人の紹介で相撲のテストを受けるため興味本位で来日し、「親孝行のため」と、そのまま入門した。最初は「霧馬山」の四股名だったが、大関昇進時に先代師匠の四股名を継いで「霧島」に改名。怪我で大関から陥落している。現師匠の音羽山親方は、モンゴル出身の元横綱鶴竜。


欧勝馬 出気

最高位:小結
モンゴル
28歳
© NIHON SUMO KYOKAI

朝青龍の紹介で、豊昇龍とともに日体大柏高校へレスリング留学。相撲を始めたのは、日体大に進学してからになる。4年時の2020年には学生横綱のタイトルを獲得し、幕下付け出し入門の資格を得る。2021年に鳴戸部屋へ入門。師匠はブルガリア出身の琴欧洲で、そのためにモンゴル人ながら、四股名に「欧」が使われている。


安青錦 新大

最高位:前頭筆頭
ウクライナ
21歳
© NIHON SUMO KYOKAI

7歳から相撲を始め、15歳で相撲ジュニア選手権のウクライナ代表に。17歳でレスリング110kg級のウクライナ国内優勝。ロシア侵攻を機に来日し、関西大学で稽古に励み、18歳で安治川部屋に入門する。レスリングを思わせる低い攻めで勝ち星を重ね、急速に昇進。敢闘賞などの賞金は、ドイツで避難生活する両親に送金している。


阿武剋 一弘

最高位:前頭三枚目
モンゴル
25歳
© NIHON SUMO KYOKAI

モンゴル時代はサッカーをしていたが、15歳で来日、新名学園旭丘高校で相撲を始める。日体大進学後も相撲を続け、4年時の2022年に学生横綱を獲得。幕下付け出し入門の資格を得て、2023年に阿武松部屋へ入門し、わずか5場所で新入幕を果たした。来日前に数学オリンピックのオブス県大会で優勝するなど、文武両道である。


金峰山 晴樹

最高位:前頭三枚目
カザフスタン
28歳
© NIHON SUMO KYOKAI

身長195cmで幕内最長身。柔道経験があり、朝青龍の紹介で18歳で来日。目黒日本大学高校で相撲を始め、日本大学に進学し相撲を続ける。全国学生相撲選手権大会で団体優勝や個人準優勝を果たし、三段目付け出しの資格で2021年に木瀬部屋に入門。初土俵から9場所で幕内昇進。風冨山に続くカザフスタン出身2人目の力士。


玉鷲 一朗

関脇
モンゴル
40歳
© NIHON SUMO KYOKAI

40歳で幕内現役を続ける通称「鉄人」。大学時代に「大きな体を生かして相撲をしてみたい」と、東大大学院に留学中の姉を頼りに2004年に来日。相撲経験も日本語力もないまま片男波部屋に入門し、4年で幕内昇進。幕内優勝を2回しながら現役を続行中。手芸やケーキ作りを趣味とする異色の力士である。日本国籍を取得済み。


千代翔馬 富士雄

最高位:前頭二枚目
モンゴル
34歳
© NIHON SUMO KYOKAI

父はモンゴル相撲の大関で、朝青龍の知人でもあったため、小さい頃から大相撲への興味を持つ。元千代の富士の九重親方にスカウトされ、明徳義塾高校に留学。2年で中退し、2009年九重部屋入門した。稽古や研究熱心な努力家だが、新入幕まで7年かかった。怪我により低迷し、来場所は十両陥落の見込み。日本国籍取得済み。


狼雅 外喜義

最高位:前頭八枚目
ロシア
26歳
© NIHON SUMO KYOKAI

ロシア連邦トゥヴァ共和国出身。父はモンゴル人、母はロシア人で、モンゴル移住後国籍変更しているが「ロシア出身」を名乗る。レスリングをしていたが、横綱白鵬主催の「白鵬杯」に出場。好成績を収め、鳥取城北高校に相撲留学。現横綱・豊昇龍を破り高校横綱のタイトルも獲得した。双子山部屋に入門し、2023年新入幕。


獅司 大

最高位:前頭十一枚目
ウクライナ
28歳
© NIHON SUMO KYOKAI

6歳からレスリングを始め、15歳で相撲に転向。欧州選手権3位の実績を持ち、大相撲の門戸を叩く。2020年入間川部屋(現雷部屋)に入門し、安青錦に先駆けウクライナ初の力士となった。2024年に新入幕。名古屋場所では星が伸びず、来場所は幕内に残るか微妙な星数だが、ウクライナ国旗と同じ青い締め込みで土俵に上がる。

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