February 27, 2023
青森県むつ市、シンガポールで見つけた未来へのパートナー
青森県むつ市は、日本で最も野心的で開かれた地方自治体のひとつだ。地理的条件や自然・歴史・文化的資産を活用する持続可能な地域活性化に取り組むだけでなく、国際的プレイヤーと協力して市の魅力をグローバルに発信する。
「日本の地方都市の多くは、過疎化や高齢化などの問題を抱えている。解決策は日本国内のコミュニティ同士のつながりの中だけでなく、成長を続ける諸外国とのネットワーク構築の中にも見つけることができる」。むつ市の宮下宗一郎市長は、ジャパンタイムズの取材にこう答える。
むつ市が親密な関係を築いている国のひとつがシンガポールだ。2018年、むつ市は県内のその他2つの自治体と地元の銀行や企業と協力し、青森県産品のプロモーションと販路拡大を目指すイベント「Umai!! Aomori Food Fair 2018」をシンガポールで開催した。日本にとってシンガポールは拡大する東南アジア市場への重要なゲートウェイだ。
2019年、第2回フードフェアのためにシンガポールを訪れた宮下市長とその他都市のトップは、シンガポール国立大学(NUS)語学教育研究センターのウォーカー泉所長と面会した。1905年創設のNUSは「2023年版QS世界大学ランキング(Quacquarelli Symonds World University Rankings 2023)」でアジア1位、世界11位に選出されたトップクラスの大学で、同センターは日本語を含む13言語のコースを提供する。
ウォーカー氏は会談で、日本語を学ぶ同センターの学生に、日本での生活を体験する機会をもっと与えたいとの思いを伝えた。宮下氏はその願いをかなえることが、むつ市にとっても新たなチャンスになると考えた。「NUSとの関係を強化すれば、むつ市をはじめ県内のほかの自治体がシンガポールとその近隣東南アジア諸国の発展や活力から学び、地域の稼ぐ力の育成に貢献できる」。
NUSの学生がむつ市などを訪問する2020年の企画は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)のため実施を見送ったが、翌2021年に「青森グローバルアドバンスプロジェクト2021」をオンラインで開催。NUSと日本の大学の学生にバーチャル交換プログラムを提供し、参加した学生が特産品のテストマーケティング、オンラインツアー、インスタグラムでのむつ市のPRなどに取り組んだ。
2022年には宮下氏が県内の大学生とともに9月17日から20日にかけてシンガポールを訪問し、語学教育研究センターとさらなる連携に向けた包括的パートナーシップ協定を締結した。学生たちは「青森グローバルアドバンスプロジェクト2022」としてシンガポールの日系スーパー「いろはマート(Iroha Mart)」で青森県産品のテストマーケティングやプロモーションを行うなどさまざまな活動に参加し、NUSの学生と交流した。
2023年度は学生同士の連携をさらに進める企画が準備されている。5月10日から30日までNUSの学生十数名を青森県で受け入れ、体験活動や地元の学生との交流を通じて地域の文化や価値への理解を深めてもらう。両国の学生が地元の生産者を訪問し、地場産品の競争力や知名度を高めて地場産業を盛り上げる方策について議論するほか、サケの餌付けや捕獲、牛の乳搾りなどを体験し、地元の食材を使った食品を広めるための戦略を立案する。
プロジェクトに参加したNUSの学生は、日本とシンガポールをつなぐことを掲げるシンガポールのメディア企業、Fifty One Mediaで6月にスタートする長期インターンシップに参加することもできる。青森県出身の飯田広助氏が代表を務める同社は、青森県とシンガポールのプロジェクトを2018年から支援してきた。
10月には学生たちが青森県訪問の成果を報告し、日本滞在中に議論した戦略をもとに青森県産品をPRするイベントの開催がシンガポールで予定されている。
宮下氏は、こうした取り組みはシンガポールや東南アジアでのむつ市や青森県の魅力発信に役立ち、地域の再評価につながると考える。「結果的に市民の誇りを高めることになる」という。NUSの学生にとっても、むつ市の価値観を深く理解することは良いことだと話す。「学生たちはこれからの東南アジアのビジネス界をリードする人材であり、我々の強力なパートナーになってくれると期待している。数年後、東南アジアでむつ市や青森県がどのように評価されているか、想像するだけで楽しみだ」。宮下氏はこう述べ、活動の成果を市民に還元し、青森グローバルアドバンスプロジェクトを地域の課題解決のモデルに育てていきたいと決意を新たにした。