October 24, 2022
【AGC】長期的視点で新分野開拓に挑む、社会的・経済的価値の両立も
素材メーカー大手のAGCは、既存事業の深化と新規事業の探索の両輪で成長を目指す、いわゆる「両利きの経営」を実践する。宮地伸二副社長によると、それを支えるのは、難しい課題にあえて挑み、それにより革新を生み社会に貢献するという、1907年の創業からいまも受け継がれる企業文化だ。
AGCが重視する施策は大きく2つある。1つ目の柱は「事業ポートフォリオ変革」だ。2015年に事業転換に本格着手し、現在は祖業のガラス製造に加え、化学品、ディスプレイ、セラミックスといった収益基盤のコア事業と、モビリティ、エレクトロニクス、ライフサイエンスの戦略事業を成長エンジンとして展開する。戦略事業は順調に育っており、30年には連結営業利益に占める割合でコア事業を逆転すると見込む。
2つ目は「サステナビリティ経営の推進」だ。その一環で気候変動問題への対策では50年の「カーボンネットゼロ達成」を掲げ、製品や技術を通じた温暖化ガス(GHG)削減に注力する。ガラス製造時の二酸化炭素(CO2)排出量を削減するためのアンモニア燃焼技術の開発や天然ガスへの燃料転換、電気の補助的利用などの推進は、その例だ。「地球規模で俯瞰すれば、素材はできるだけ環境負荷が小さい方法で、しかも消費地に近いところで製造する必要がある。そのための省エネ生産技術の開発と導入は業界リーダーの責任だ」と語気を強める。将来は自社の省エネ技術を第3者にライセンスして普及させることを検討する可能性もある。
素材業はGHG排出量が多い産業だが、その製品は環境保全や健全・安全な社会の維持に役立てられている。例えば建築用断熱ガラスは冬場の暖房用エネルギーの削減に直結し、製造過程で出るCO2の10倍の排出量を抑える効果があるとされる。断熱性能の高い住宅は部屋ごとの温度差が小さく、ヒートショックによる死亡や、結露が原因の肺疾患など健康被害を防ぐことにもつながるという。AGCが東南アジアでシェアトップの塩化ビニール樹脂は、上下水道管などインフラ整備に欠かせない素材だ。
1933年に設立した公益財団法人の旭硝子財団は、国内有数の400億円規模の基金を運用し、環境問題解決に取り組む研究への助成を長年続けている。
素材業は1つの製品を仕上げるのに5~10年かかるのが一般的で、新分野開拓には10~15年後を見据えた長期的な取り組みが求められる。その意味でも事業ポートフォリオ変革は「未完成」だ。企業文化の熟成とともに「絶対やらなければいけないことだ」と、宮地氏は決意を語った。
Naonori Kimura
Industrial Growth Platform Inc. (IGPI) Partner
チャレンジと変化を積極果敢に推進する創業精神:AGCの創業の精神は、“易きになじまず難きにつく”である。この精神が企業活動の隅々にまで浸透し、2つの経営施策に愚直に取り組んでいる。一般論として、市場変化や競争優位性に鑑み事業ポートフォリオを入れ替えていくのはもはや企業としての責務ではあるが、AGCにおいては純粋に『新しいことにチャレンジすることが好き』という企業文化を根底に、革新的にポートフォリオを進化させ続けている。また、大企業にありがちな“現状肯定バイアス”に対しても、この創業精神に基づく『変えることは珍しくない』という価値観が上手く機能している。“難きにつく”の象徴として、“andスピリッツ”が挙げられる。中核をなすコア事業and将来に向けた戦略事業、経済的価値and社会的価値など、二律背反しがちなテーマに正面から向き合い不可能を可能にしていく、これこそAGCにとってのサステナブル経営と言えるであろう。