July 26, 2021
【NTTコミュニケーションズ 栗山 浩樹】事業と環境負荷低減を両立、グローバルに新技術を推進
新型コロナウイルスの感染拡大は社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させ、働く場所や働き方を再考する契機になった。NTTグループは、情報通信技術(ICT)を通じて産業・経済や社会・生活の革新をサポートし、個人の多様な選択を尊重すると同時に事業活動と環境負荷低減を両立した持続可能社会の実現を支援する。NTT執行役員で NTTコミュニケーションズ副社長の栗山浩樹氏は「そのための技術とインフラが整ってきた」と期待する。
NTTコミュニケーションズグループは早期にリモートワークに舵を切り、いまも18,000名の社員、パートナー社員の内約8割が在宅やサテライトオフィス勤務を続ける。栗山氏によると、この1年のリモートワークで、生産性の改善、働き方の自由度の向上、自分のために使える可処分時間の増加など、ほぼすべての調査項目で社員の満足度が上がった。経営的にも通勤手当や出張費、オフィスで使う消耗品・事務用品の購入費、電気代などの効率的利用が進み、省資源や省エネなど環境保全面で歓迎される効果もあったという。特にリモートワークによるペーパーレス化の推進で、紙資源の年間削減量が前年の57%減(削減量は約1,600万枚、1900本分の木に相当)となったという。
栗山氏がリモートワーク推進にあたり重視したのが、通信インフラの強化など在宅で働く環境やツールの整備に留まらず、「ヒューマンマインドセットのトランスフォーメーション(HX)」、つまり個々の社員やパートナー社員の事情や感情に配慮したうえで、リモートワークに対する考え方の変化を促すことだった。社員の安全安心を優先し、通勤が必要な業務とそうでない業務を見極め、場合によっては運用面の調整も行う。上司が率先してリモートワークに移行することで、部下はそれに続きやすくなる。
コロナ収束後もこの新しい働き方を望む人は増えると予想される一方で、リモートワークにともない個々の家庭の経費の負担増に向き合うとともに、NTTは社会全体の省エネ・脱炭素社会の実現を課題と意識し、通信と情報システムという事業の柱に加えエネルギー分野にも力を入れてきた。
NTTは中期経営戦略の柱に据えた「ESG経営の推進」の取り組みとして、2020年5月に「環境エネルギービジョン」を策定した。「環境負荷ゼロ」を掲げ、30年度までにグループ全体の再生可能エネルギー利用率を30%以上に引き上げることなどを盛り込んだ「グリーン電力の推進」、「革新的な環境エネルギー技術の創出」などを宣言。再生可能エネルギー事業に進出し、「できるかぎり地産地消で、低廉で使い勝手の良い全体最適なエネルギー供給」(栗山氏)をサポートする。
直近では6月、首都圏のセブンイレブン40店舗に再生可能エネルギーを供給する契約をセブン&アイ・ホールディングスと締結したと発表した。NTTアノードエナジーが千葉県に設置した太陽光発電所から一般送電網を介して電力を提供する「オフサイトPPA(電力購入契約)」と呼ばれる仕組みを使う日本初の試みという。
省電力化の切り札は、長年の光ファイバー開発で培った光技術の情報処理への応用だ。ICTの進歩が支えるリモートワークや生活の便利さの裏でデータセンターの負荷は増大し、データの処理と伝送に大量の電力を使い大量の熱とCO2を排出している。これまで運用の効率化などで対処してきたが、課題解決に「一気に近づける可能性がある」(栗山氏)。
「フォトン(光子)は電子と違い、ほとんど熱を生じないという特性がある。半導体の情報処理回路を電子から光子に変えれば、熱の発生量が革命的に減る」と栗山氏。半導体の集積度を高めて情報量の爆発的増大に対応できるだけでなく「サーバー冷却用の空調設備の使用電力が減り、情報処理もデータ伝送サービスも圧倒的に省エネを実現した環境で提供できる。理論上、光技術によって熱(電力)消費量は(電子技術の場合の)100分の1になる」という。
NTTは光技術の適用でコンピュータや通信網の低省電力化を目指す「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network=アイオン)構想」を19年に発表。20年1月には次世代通信基盤の実現をグローバルに促進する国際フォーラム「IOWNグローバルフォーラム」をソニー、米インテルと設立し、2030年代に実用化が見込まれる次世代高速通信規格「6G」の技術開発ではインテル、米マイクロソフト、富士通、NECと個別に協力する。
三菱商事とは「産業DX推進」で提携。まず食品流通分野を対象にバリューチェーンを最適化し、食品ロスと廃棄プラスチックの最小化を目指す。トヨタ自動車とはロボットや人工知能(AI)を活用するスマートシティの実現に向けた提携関係にある。超高速・超低遅延の5Gの実用化は自動運転車の可能性を広げ、リアルタイム性を備えた6Gの登場がそれをさらに現実へと近づける。ほかにも長年の研究成果が形になりつつあり「技術と我々の希望、社会のスマート化に対する期待がシンクロし、実現の段階に入った」と手ごたえを感じている。