November 29, 2021
【ロート製薬】社会課題に挑戦、個人と社会の「健康」と次世代に投資
創業122年のロート製薬は、一般向け目薬の国内シェアトップの地位に安住せず新規事業を開拓してきた。失敗をも糧に挑戦を続けるその社風は、「薬の商売で世の中の役に立つ」という創業者の志を引き継いだ。代表取締役会長の山田邦雄氏は、創業以来の社会貢献活動の幅を広げ、日本の将来を作る次世代への投資にも力を入れたいと話す。
ロート製薬といえば目薬と胃腸薬の印象が強いが、実際は売上高の6割以上をスキンケア商品、4割近くを海外売り上げが占める。75年にアメリカのメンソレータムブランドのライセンス販売を始めてスキンケア領域に進出し、88年に同社を買収、世界110カ国以上に広がる販売網を取得した。2001年には化粧品の販売を始め、「医薬品メーカーならではの効果のある化粧品」を掲げて機能性化粧品市場の創出に寄与。祖業の胃腸薬や目薬の技術を応用し、時代のニーズを読んで商品開発を進めた結果、「商品ラインナップが増えていた」(山田氏)。
現在は「健康寿命の延伸」をめざして再生医療に注力する一方、食にかかわる事業も手掛ける。再生医療には2013年に本格着手。17年にヒト脂肪由来の「間葉系幹細胞」の自動培養や保管ができる装置を日本で初めて開発し、20年からは新型コロナウイルスによる重症の肺炎症患者を対象に再生医療の臨床試験を進めている。
創業家4代目として99年に社長に就任し、スキンケア事業の拡大と新規事業へのシフトを率いた山田氏は、「世の中のためになりたいという創業者の大志や、人がやらないことをやるという独自の考え方が(社風に)しみ込んでいる」と話す。老舗企業でありながら新領域に果敢に挑戦し、一社で実現は難しいと判断すれば他社との提携やM&A(合併・買収)、スタートアップへの投資も模索する。
挑戦の数だけ失敗も多く、「成功例の3倍はある」と明かす。それも「(社員の)チャレンジ精神を意識して大事にしてきた」ことの表れだ。「成功を求めると(社員に)プレッシャーがかかるし足がすくむこともある」と気遣うと同時に、「失敗の経験は、その後に成功した商品に生きていることが多い。回り道ではあるが、失敗も完全な無駄でもない」と確かな手ごたえを感じている。
「正解」を常に求める企業文化や日本の教育には疑問を感じているとも。「うまくいっているように見えることが、実は(将来に)問題を残していたり、うまくいっていないことが、実はすごくいいことだったりする。早く白黒つけたがるような最近の風潮が少し心配だ」という。
その意味では50年代から70年代初めの高度経済成長も、日本人の暮らしを豊かにした反面、企業活動で生じた環境汚染という負の遺産を後世にもたらしたとみる。「当時の経済成長は成功でもあり失敗でもあった。物事は複眼的、長期的視点で考えることが大事だ」と自戒も込めて振り返る。
ロート製薬の歴史は、アイケアや文化、スポーツ、環境保全など、個人の心身や社会の「健康」を軸とする幅広い社会貢献活動の歩みでもある。創業者の山田安民氏が地元奈良県で初の盲学校設立を支援したことに始まり、薬の正しい使い方を教える「薬育」の普及活動、アジアの新興国を中心とした無料眼科検診など、アイケア分野だけでもその活動は枚挙にいとまがない。「ESG」という言葉が生まれる以前から続くこうした取り組みは、「企業活動が社会とつながり、社会に支えられてきたからこそ自然にできていた」。
事業の世界展開とともに社会貢献の場も広げたが、日本の地域活性化にも改めて目を向けている。2013年には沖縄県石垣島の農業生産法人と提携してアグリ事業に参入。畜産・農産や加工販売に携わりながら、約5年前からは再生可能な「海洋深層水」を利用し、エネルギーと水、食料を自給しながら産業振興と雇用創出を図る自立循環型社会の構築でも地元の久米島と連携している。
次世代の教育にも投資する。2011年の東日本大震災で親を失った子どもたちの進学を支援する奨学基金「公益財団法人みちのく未来基金」をカゴメ、カルビー、エバラ食品と共同で運営し、高校卒業以降の進学先への学費を返済不要で支援する。発足から10年が経ち、「すでに社会に出た子どもたちが、自分たちに続く子どもたちの面倒をみるという循環ができている。新しい人のつながりを作ることができた」と頬をゆるめる。
今年10月には「一般社団法人ロートこども未来財団」を設立した。現在の教育制度の下では十分に力を発揮しづらい「はみ出てしまった」子どもたちを支援し、「未来を切り開く力になってほしい」(山田氏)と期待する。
「上場企業として株主への利益還元を果たすことはもちろん大事だが、中長期では、私たち世代が次世代に残した(環境や地球温暖化問題など)宿題に対する責任を企業としてまっとうしたい」。