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建築家・隈研吾、「木」の可能性について語る。

July 26, 2021

インタビュアー: 白井良邦 ライター: 和泉俊史

1954年生。1990年、隈研吾建築都市設計事務所設立。慶應義塾大学教授、東京大学教授を経て、現在、東京大学特別教授・名誉教授。30を超える国々でプロジェクトが進行中。自然と技術と人間の新しい関係を切り開く建築を提案。主な著書に『点・線・面』(岩波書店)、『ひとの住処』(新潮新書)、『負ける建築』(岩波書店)、『自然な建築』、『小さな建築』(岩波新書)など。2016年「持続可能な建築」世界賞受賞。2021 年TIME誌の影響力のある100人に選ばれる。
写真:鷲崎浩太郎

ギャラリー空間と、橋、という2つの用途で構成される建築物。2010年完成。
PHOTO: TAKUMI OTA

世界を舞台に活躍する日本人建築家は多いが、その中でも、一番多くの建築プロジェクトを抱える建築家は隈研吾に間違いないだろう。

東京を拠点に、フランス・パリにも事務所を構え、国内外で200件以上のプロジェクトが同時進行している。2021年7月23日に開幕した東京オリンピック・パラリンピックのメインスタジアム<国立競技場>の設計に参画するなど、文字通り日本を代表する建築家だ。その隈研吾に、建築家としての立場から「今後の建築がどうあるべきか?」「現代建築と“木”の関係」について聞いてみた。

「そもそも日本の伝統的な建築は、木という素材で作られ、自然環境との調和を第一に考えられ設計されてきました。例えば、住宅の軒(のき)には深い庇(ひさし)が設けられ陽射しをコントロールし、障子を開ければ風が室内を通ると同時に、室内空間と、庭や外の景色がつながり一体となる、といった具合です。床は木の板や畳でできていて、共に植物由来の素材です。そのような日本の伝統的な住宅のスタイルに「書院造」があります。もし日本に来る機会があればこの書院造の建物を見て欲しいです。代表作に、国宝でもある滋賀県大津の三井寺の光浄院客殿があります」

「書院造」とは、今から600年前の室町時代頃に生まれた日本の住宅のスタイルで、地位の高い武士が暮らし、“書斎を兼ねた居間”(=それを“書院”と呼ぶ)が家の中心になっていた。床には畳が敷かれ、床の間が設けられ、いわゆる皆が日本の伝統的な住宅として、まず頭に思い浮かぶ建築スタイルだ。

隈建築の聖地ともいうべき高知県梼原に建つ図書館。2018年完成。
PHOTO: Kawasumi ・ Kobayashi Kenji Photograph Office

「書院造に代表されるように、環境に配慮しサスティナブルだった日本の建築が、特に第二次大戦後の高度成長期以降、日本の伝統建築が持つ良い部分が失われていきました。コンクリートや鉄という素材でできた四角い建物がたくさん作られ、木という素材が使われなくなり、屋根も庇もなくなりました。私は日本の伝統建築のもつ知恵を、現代建築に活かしたいと考えています」

隈研吾のつくる建築には、木が多く用いられているものが多い。それはなぜだろうか。

「木を使用することには、いわゆる地球温暖化を防ぐためのサスティナビリティという意味もありますが、それと同時に、その空間を使う人にとって“精神的なサスティナビリィティ”を生む効果があると考えています。つまり、木という素材には、高密度な都市の中で人間が感じるストレスを、やわらげるという効果があるということです。木を空間の中に置くだけで、その空間の質が全く違うものに変わってしまう。木を建築の内部空間などに使用すると、学者などが数値を使用して示すサスティナビリティ以上の“何か”が建築に現れる、ということを知ってしまったのです」。

隈研吾に木という素材を意識させたもの、木を使うことで空間の質がまったく違うものになる、ということを知らしめたものは一体何だったのだろうか。

長岡市中心部に建つ、市役所を含む複合施設。ガラス屋根で覆われた半屋外空間が特徴。2012年完成。
PHOTO: FUJITSUKA Mitsumasa

「私にとって転機となったのは、林業が盛んな、高知県の梼原(ゆすはら)という町に関わったことです。最初にそこを訪れたのは1992年で、ちょうどバブル経済がはじけて時間に余裕があった時期のことです。そこで木造の芝居小屋の保存運動に関わることになりました。それまでは東京でしか建築をつくっていなかったので、木という素材と向き合ってこなかったのです。しかし、この町で木を使った建築、役場、ホテル、ミュージアムなど6つの建築を作ってみて、木という素材に、建築的な表現や、利用する人の心理的効果、環境問題に配慮する点など、様々な可能性があることを知りました」。

隈研吾の建築には、伝統的な日本建築のエッセンスを持つ作品がある。新潟県長岡市にある、市役所を含む複合施設「アオーレ長岡」だ。

「“ナカドマ”と呼んでいる半屋外空間が、市役所と議場の間に設けられています。そこは市民が集う憩いの場であり、心地よい風が抜けていく場所でもあります。つまり、内部を空調して過ごす閉じられた空間をつくるのではなく、伝統的な日本建築に見られる、内でもあり、外でもあるという“土間”や“縁側”のような空間をつくり自然に空調するという、サスティナブル思想に沿って建築を作ったのです」。

現在、東京国立近代美術館では隈研吾の建築展が行われている(*編集部注:現在は終了)。その中の展示のひとつ、「都市の未来はネコに学べ/Kuma Looks to Cats to Show Us the City’s Future」は実に興味深い。かつて日本の高度成長期、1960年に建築家・丹下健三が提案した都市計画とは真逆に、人間に比べ地面から近い、猫の視点から都市を考えるという提案だ。様々な場面で、サスティナビリィティを考えなくてはならない今の時代にあって、視点を変えて物事を見てみる・考えてみる、ということに、答えを探すヒントがあるかもしれない。

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