July 26, 2021

森林を牛が暮らす牧場に乳製品づくりで森を守る「森林ノ牧場」

ライター: 塚田有那

飼育される牛はすべて、イギリス原産のジャージー種。
写真提供/森林ノ牧場

日本の森林面積は約2400万ヘクタール、国土の2/3が森林であり、2020年の時点でOECD加盟国において世界第3位の森林保有率を誇る(出典:世界森林資源評価 2020メインレポート)。しかし、安価な輸入材に頼ってきたことで国産の木材は軒並み価格が下がり、放置されたままの森林が日本全国に存在する。戦後の経済復興を目指して大量に植樹された人工林は、間伐されないまま密集し続け、光が差し込まないために生物は育たず土壌は悪化し、結果として土砂崩れなどの被害も頻発している。これから豊かな森林資源を守るためには、人がコストをかけて管理しなければならなくなっているのが現状だ。

季節で変化する味を楽しめる、低温殺菌のジャージー牛乳。
写真提供/森林ノ牧場

そうした中、森林活用の新たな一手として「酪農」に着目した会社がある。2009年、栃木県那須市に誕生した「森林ノ牧場」は、山間部の森林で牛を放牧し、ミルクや乳製品の加工、販売を行う企業だ。代表の山川将弘氏は、幼い頃から抱いていた酪農への憧れを、森林再生事業の一環としてスタートさせた。

「これまで山は木材以外に資源を活用する方法がほとんどありませんでしたが、酪農であれば可能だと考えたんです。平坦な場所がなく、農業などを行いにくい山間部でも、牛であれば歩き回ることができる。結果として牛の運動量が増え、ミルクの生産量が上がることがわかりました。現在の畜産業は家畜のエサのために大量の穀物を輸入していますが、うちの牛たちは放牧地で自然に生える草を食べています。すると四季によって牛乳の風味も移り変わり、酪農ブランドとしての個性を出せるようにもなりました」。

もちろん、牛を放牧することで土地の生態系に影響を与える恐れもある。だが山川によれば、「田んぼや畑も元々は人がつくりかえた人工物」だと言う。「田んぼなど長い月日をかけて人が管理した土地には、新しい豊かな生態系が生まれています。酪農も同じように森林を管理し、同時においしい牛乳やバターをつくれば、人と自然が共存しながらビジネスを続けられる。また現在、牧場内ではビオトープづくりを実践中で、牛の糞などから生まれる新たな生態系の調査も行っています」。

こうした「森林ノ牧場」の酪農事業は日に日に成長を遂げ、現在は新たな牧場のオープンに向けて準備を進めているという。「現在は消費者の好みも多様化しています。最近ではSNSなどを通じてブランドの意義を伝えやすくなったこともあり、牛乳や乳製品を買うことが森林再生につながるという側面から商品を支持してくれる人も増えてきました。ただ何よりも、まずは商品をおいしいと思ってもらえることが一番ですね」。

森の中をのびのびと歩く牛の姿は、牧場を訪れる家族連れにも人気が高いという。適度な生産量で、その土地でしか味わえないオリジナルの乳製品を展開する。森林でおいしい食品をつくる酪農ビジネスは、新たなサーキュラー・エコノミーのモデルとなっていくかもしれない。

森にビオトープをつくるプロジェジェクトをスタート。一般の人も参加できるイベントを定期的に開催している。
写真提供/森林ノ牧場

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