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芸術祭の継続が、地域を育てる

May 27, 2022

ライター:塚田有那

黒人の歴史、社会課題、地域や土地開発などに焦点を当てた作品で知られるアメリカ人アーティスト、シスター・ゲイツはあいち2022でも注目されている。シアスター・ゲイツ 展示風景:「A Clay Sermon」ホワイト・チャペルギャラリー (2021-2022、ロンドン、英国)
© Theaster Gates
Photo: Theo Christelis
Image courtesy of Whitechapel Gallery

大林剛郎

株式会社大林組代表取締役会長。公益財団法人大林財団理事長。1954年東京都生まれ。現代アートのコレクターとしても知られ、森美術館理事、原美術館評議員の他、テート美術館やニューヨーク近代美術館など、海外著名美術館のインターナショナル・カウンシル・メンバーも務める。2020年、国際芸術祭「あいち」組織委員会会長に就任。

国際的な都市型の芸術祭から、自然あふれた地域をめぐるツーリズム型の芸術祭まで、毎年新たな芸術祭が日本全国で開催されている。なかでも今年夏から愛知県を舞台に開催される、日本最大規模の芸術祭のひとつ国際芸術祭「あいち2022」(以下、「あいち2022」)は注目を集めている。その組織委員会の会長を務める大林剛郎に、アートを切り口にした無理のない経済発展や文化の継承といった地域活性化は可能か、話を聞いた。

AHA![Archive for Human Activities/人類の営みのためのアーカイ ブ] 8ミリフィルムの提供者宅で実施する『出張上映会』のひとコマ | ©️ Aichi Triennale 2022

「各地で行われる芸術祭の意義は、第二次大戦後に均質化してしまった地域固有の文化を取り戻すことにあると思っています。地域にはそれぞれ歴史があり、独自の景観や文化を持っていました。しかし、高度成長期を迎えた日本は、どこも似たような商業施設や宿泊施設が乱立し、地域の独自性は失われていきました。一方、芸術祭を開催するからには、他の地域とは異なる特色を打ち出さねばならない。そして地域の歴史や文化を組み込むとともに、地域の人々すらも見たことがないような新しいものを取り入れていく必要があります。観光客の嗜好も多様化するなかで、地域内をゆっくりと滞在しながら巡るなど、新たな旅の選択肢を提示していくことが芸術祭の役割にもなっていると思います」。

コロナ禍によって観光客が激減し、海外からアーティストを招聘するのもままならない2年間が続いたが、「あいち2022」では世界各国から9名のキュレトリアル・アドバイザーを招き、参加作家100組のうち半数以上が海外からの参加になるという。海外作家の招聘にはまだリスクも伴うなか、なぜこうした挑戦に踏み切ったのだろうか。

「この芸術祭が目指すのは、世界中のアートシーンに向けて、国際的にメッセージを発信していくことです。ヴェネチア・ビエンナーレ(イタリア)やドクメンタ(ドイツ)などの芸術祭は開催の度に世界中から人が集まり、世界的な評価を受けています。「あいち2022」の前身である『あいちトリエンナーレ』(2010年〜2019年)のスタートから10年以上が経ったいま、今後はさらにその方針を強化していきたいと考えています。今年のテーマは『STILL ALIVE』、これは愛知県出身のアーティスト河原温の作品タイトル《I Am Still Alive》シリーズから取ったものですが、コロナ禍を経験したいまの私たちのことであり、そうした社会混乱の最中にあっても、芸術は生き続けるというメッセージを込めています」。

また、「あいち2022」の特色は、パフォーミングアーツの充実とラーニングプログラムにある。会場となる愛知芸術文化センターは愛知県芸術劇場などの大型シアターを有することから、国内外から集めた先鋭的な演劇やダンス、音楽の公演を積極的に取り入れている。またラーニングプログラムでは、芸術祭を一部のアート愛好家だけのものに留めず、幅広い層の人々に向けたレクチャーやガイドツアーを行うほか、ガイドボランティアによる「対話型鑑賞」など多数のプログラムを展開する予定だという。

「ラーニングプログラムは、次世代の育成という側面もあります。小さい頃に芸術祭に触れた子どもたちは、自分の暮らす地域を見つめる視点も大きく変わることでしょう。文化を起点に地域を見つめることは、新たな地場産業の発展にもつながると思います」。

トヨタ自動車のお膝元という印象の強い愛知県だが、ものづくり産業以外にも伝統工芸や食文化など豊富な文化資源を有している。そうした地場産業の歴史を紹介するとともに、新たな文化資源を生かす活路を見出すのも芸術祭の役割のひとつだと大林は語る。

大林組のオフィスには、大林自ら選んだ様々な現代美術作品が点在する。
Daniel Buren.Daniel Buren “From Floor to Ceiling and Vice Versa” | Photo: KOUTAROU WASHIZAKI

「たとえば今回会場エリアとなった名古屋市内の有松地区は、17世紀から続く絞り染めの技術『有松・鳴海絞』が有名です。こうした伝統産業がどのように生まれていったのか、その背景を知る人はあまり多くありませんが、芸術祭をきっかけに新たな情報発信が可能になると思っています。また同じく会場エリアである常滑市は、昔から陶磁器の産地として知られていますね。そうした独自の伝統を持つ地域にアーティストが関わることで、ただ観光するだけでは得られないような発見を、アートを通じて促すことができるはずです」。

あいち2022ではパフォーミングアーツにも力を入れている。オーストラリア拠点のバック・トゥ・バック・シアターもフィルム作品を上映予定。
バック・トゥ・バック・シアター 『ODDLANDS』2017 | Photo: Jeff Busby

そうした地域振興は伝統産業に限らない。名古屋市内の繊維問屋が集まるエリアでは、古い空きビルなどが過去に芸術祭の会場となったことをきっかけに、周辺にアートギャラリーやカフェが誕生し、アートを通じた地域コミュニティが育まれている。

「芸術祭がほかの産業を誘発していく事例は各国で見られますが、愛知県にも似た現象が起きてきています。とはいえ、「あいち2022」は愛知県が主体となって実施する事業ですので、税金を投入するにあたって、厳しい目が向けられることもあります。それでも、もしここで止めてしまえば、日本全体の文化への姿勢が問われるという声があり、文化の火を灯し続けるべきだという強い意思が愛知県側にありました。愛知県は産業の街だけではなく、文化の街であるというイメージを発信し続けることが重要なのだと。芸術祭に最も求められるのは、その継続性にあると思います。さらに国際的な評価が高まれば、文化と産業のより良いサイクルが自然と生まれていくことでしょう」。

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