September 22, 2022
【立川 裕大】日本の伝統技術を空間に生かし、新たなインテリアを生み出す。
創業100年を超える企業は世界に約8万社あると言われているが、そのうちの日本の企業が占める割合は全体の41.3%に当たる33,000社となっている。創業200年を超える企業数に至っては世界全体に占める割合は65・0%(1,340社)にもなり、日本が世界で断トツの第1位だ。(日経BPコンサルティング調べ/2020年)。そう、日本は世界で一番、長寿企業が集中する国なのだ。それは裏を返せば、伝統や歴史を重んじる精神性の表れと、とらえることができるかもしれない。というのも、実際に創業100年を超える企業を売上規模でみてみると、1億円未満の企業がその大半、全体の41.7%を占めているのだ。この数字からは、儲かる、儲からないという金銭的な基準よりむしろ、代々続く家業を含めた会社の事業をいかに継承していくかを第一に企業活動を行っている、日本企業の姿が見えてくる。
日本の伝統工芸も、お金を儲けることよりも、伝統をいかに次世代へ継承するか、職人魂を重んじて活動してきた業界である。日本の伝統的工芸品の生産が最盛期を迎えたのは、今から約40年前の1984年で、生産額が約5,000億円あった。しかし、そこからは年々減少を続け、2015年にはピーク時の1/5の約1,020億円まで生産額は減ってしまった(一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会)。減少の原因はいろいろあるが、日本人のライフスタイルが大きく変化したことがその理由だろう。日本の伝統的な服である和服を着なければ、それに付随する帯や小物も必要が無く、着物をしまうタンスも不要だ。仏壇を置く家も少なくなった。仏壇は仏具を含め数百万円~1千万円を超える高価なものも多く、金属加工、木工、漆塗など、日本の伝統工芸の集大成とも言えるものだが、需要は激減している。
そんな日本の伝統工芸の現状を憂い、その技術を“空間”に取り入れることで復活を果たそうと取り組む人物がいる。<ubushina>(うぶしな=産品)というブランド名で事業を展開する、t.c.k.w.代表取締役の立川裕大だ。彼は、器や漆器、竹細工といった工芸品そのものを売るのではなく、工芸品を生み出す職人たちが受け継いできた「技術」に着目し、「技術力を売る」をコンセプトに、空間を生み出す建築家やデザイナーへその技を紹介している。
「きっかけは、2003年に携わった『Hotel CLASKA』の改修プロジェクトでした。このプロジェクトで、行き場を失った“伝統的な工芸を担う技術”に、何か新しい道筋をつけることはできないかを考え、インテリアデザイナーと職人を結び付けることにしたのです。手仕事の技をインテリア空間の随所に織り込みました。例えば、ロビーや客室の照明器具を鋳物や錫で制作したり、漆塗りのレセプション・カウンターをつくったりといった感じです。現在ではホテル以外にも、ハイエンドなレストランや商業施設、個人宅など、様々な空間づくりに、日本の伝統的な技を用いるコーディネートをしています。なかでも私たちが生み出した「絹布紙」という、極薄の絹織物に、越前和紙を裏打ちした壁紙は、美しい光沢のなかに手作業でつくるぬくもりや味が感じられ、建築家や美術作家などから好まれ空間づくりに用いられています」
立川のオフィスには様々な技術サンプルがところ狭しと置かれ、それを見に、著名な建築家やインテリアデザイナー、アーティストなどがひっきりなしに訪れる。また立川のもとには、世界的なラグジュアリーブランドからの空間づくりの相談もあるという。伝統的な工芸品の需要は減ったが、伝統技術や素材、職人に関する知見を生かし、新たな需要を生み出しているのだ。