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イタリア料理の範疇に収まらない、その土地に根差した料理。

June 24, 2022

By TAEKO TERAO

畑と住宅が入り混じるエリアに一軒家のレストラン、『ヴィラ アイーダ』はある。

「Destination Restaurants 2022」ベストオブザイヤーに輝いた『ヴィラ アイーダ』は、関西空港から車で30分、大阪からは電車を何本か乗り継いだ和歌山県内にある。そこは風光明媚な大自然の中ということでもなく、特別な名所が近くにあるというわけでもない。日本の都市によくある、幹線道路沿いに紳士服や飲食のチェーン店が並ぶ住宅地に店はあり、まさにこのレストランを目的としなければ、遠方からわざわざ足を運ぶ理由がないというような地域にあるのだ。周りにはラグジュアリーなホテルもない。そのため、ほとんどのゲストは食事を済ませると、すぐに空港や駅へ向かい、帰途につく。だが、予約の1時間ほど前に店に到着すれば、オーナーシェフ、小林寛司が自ら天塩にかけて育てている畑を見学できることもある。ズッキーニやコーンが実をつける場所。タイムやローズマリーといったハーブや色とりどりのエディブルフラワーなどが肩を寄せ合う温室。小林シェフはハサミを片手に収穫している。ここで摘まれたものが、どんな一品に仕上がるのか。そう、調理はすでに始まっているのだ。

サッと茹でて、自家製リモンチェッロなどで風味をつけたズッキーニに薄切りのイカを乗せた「ズッキーニ 烏賊 雑穀」。 
アニスの花や芽紫蘇、クリームチーズソースを添えた「フキ キャラメル ナスタチウム」。 | PHOTOS: KOUTAROU WASHIZAKI

期待に胸を膨らませ、一軒家のレストラン店内に入れば、まるでイタリアのヴィラのような空間が広がる。木の床に白い漆喰の壁。窓の外には木漏れ日が揺れる。山でも都会でもない場所にあって、そこだけが別世界。食通の聖域なのである。テーブルは6名がけの1卓のみ。都会からの1組、近隣からの1組、生産者でもある人たちの1組の計3組で食卓を囲み、いろいろな話をして、それぞれ刺激を持ち帰ってもらえたら、というのが小林シェフの思いだだ。

料理はランチ、ディナーともに19,800円のおまかせコースのみ。題して「和歌山風味」のコースである。店のオープン以来、イタリアン・レストランを標榜していたが、年々、そのような枠組み や“イノベーティブ”というジャンル分けがしっくりこない。あえていうなら“和歌山風味”。もっと言えば“僕の料理”だと小林シェフは語る。

アミューズに登場する、キヌヒカリのチップスにはポン酢で和えたお茶の新芽をトッピング。
噛むほどに味わいが深まる猪豚と、フムス状に仕上げた花ズッキーニの出会い。「フムス 猪豚 ズッキーニ」

おまかせコースは、8〜9品の料理にデザート2品、茶菓子がつく。サブテーマは5月なら「初芽豆々」。シェフの父が育てた米、キヌヒカリをチップスに仕立て、先ほど摘んだばかりのお茶の新芽を合わせたアミューズからスタート。冬につくっておいた自家製の柚子ポン酢で味付けしたお茶の新芽はほろ苦さ、青っぽい風味はあるものの、エグみは一切なし。噛むほどに、口の中が爽やかになっていく。続く、「フキ キャラメル ナスタチウム」は、山菜であるフキに甘いキャラメルソースをかけたひと皿。主役は日本らしい、和歌山らしい食材でありながら、その組み合わせや味わいは、これまでのどこにもない、ここでしか味わえないものばかりだ。

今、最高にみずみずしい新玉ねぎをピクルスにして、咲いたばかりのレモンの花のコンポートと合わせるのだが、この一品のもうひとつの主素材、さや大根はアイーダ以外ではなかなかお目にかかれないだろう。

大根をわざと収穫せずに残しておくと、春先に花が咲いて、その後、小さな“さや”が出る。それが、さや大根。だ。 シャキッとした食感と、色味通り、青く清々しい風味が加わることで、全体が引き締まる。さらに大きい粒をピュレにして添え、小さい粒をそのまま生でこんもり盛った「涙豆 サリエット」は、こんなにも小さな豆が、なぜこれほど甘く、ほとばしるほど水分多いのかと感動せずにはいられない。薄皮の繊細さ、風味の鮮烈さは採れたてだからこそ。産地から離れた都市部のレストランでは決してつくることができない料理である。

メインは近隣の周参見町で飼育している猪豚。肩に近いロースを真空調理を用いつつ、表面を香ばしく焼き、畑で採れた花ズッキーニのフムスを添える。デザートは和歌山名産の柑橘類を使って。最後の小菓子まで、一見、意表を突くような取り合わせであっても、それはすべてその日その瞬間、この土地にあったもの。必然性をもって出会ったもの。そんなフルコースを体験すれば、おいしさとは何か、あらためて感じるものがあるはずだ。

マダム、有巳氏のさりげない接客、そして、できる限りナチュラルなものを揃えたワインのラインナップも相まって、土地の魅力に現代的なセンスが加わる。土くささ、自然の恵みは洗練されて、はじめて世界を振り向かせることができる。小林シェフはそのことをもっともよく知る料理人のひとりなのだ。

Villa AiDA
料理がよりナチュラルに、よりテロワールを表現するようになるに従って、インテリアもそれに合うテイストに変えていった。
和歌山県岩出市川尻71−5
Tel: 0736-63-2227 http://villa-aida.jp/english.html

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