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小林シェフの料理観が、日本のレストランを変える。

June 24, 2022

By TAEKO TERAO

畑での小林シェフ。畑で作業をするうちに、野菜が育っていく過程そのものに愛着が湧くようになった。

小林寛司

和歌山県岩出市で兼業農家の長男として生まれる。1994年に渡伊。地元の食材と真摯に向き合う姿勢を学ぶ。1998年、実家の畑を潰して『リストランテ アイーダ』オープン。2007年、この店のマダムを務める妻・有巳との結婚を機に宿泊施設を併設し『ヴィラ アイーダ』に改名。2019年からは農園レストランの可能性を提案しつつ、様々な土地を訪ね、人に接し、その経験を料理に反映させている。

自家畑で収穫したばかりのハーブや野菜の花など。 | PHOTOS: KOUTAROU WASHIZAKI

「Destination Restaurants 2022」のベストオブイヤーには『ヴィラ アイーダ』が全会一致で選ばれた。その料理観は今後、日本の料理人や生産者の価値観を変えるパワーを秘めている。

その『ヴィラ アイーダ』のオーナーシェフ、小林寛司が扱う食材の8割は野菜だ。そのほとんどをレストランの1歩外から広がる露地畑と徒歩数分圏内にある3棟のハウス畑、計0.7ヘクタールで小林シェフと妻の有巳で育てている。

「オープンから3年ほどはイタリアの輸入食材を使って、修業先であるイタリアの星つきレストランのコピー料理を出していました。当時は地元の方に来ていただきたくて、肩肘張った料理をつくっていたのですが、次第に客足が遠のき、このままではいけないと、考え方を変えました。思い返せば、イタリアでの修業先はナポリ郊外の『ドン アルフォンソ』をはじめ、どこも都市部から車や電車で1〜2時間かかるところでしたが、世界中からお客さんが来ていました。そこで僕も和歌山という地元の食材を使って、都会の人をターゲットにしようと決心したんです。そこで地元食材に目を向け、また、仕入代を浮かせるためにも自分で畑仕事をするようになったことから、ハーブを含め、野菜を多く使うようになりました」

それらは世界でも類を見ないほど、糖度が高く、姿形が整った日本で一般的に流通している野菜とは様相を異にする。

市場に出回るサイズの豆は粉っぽさがあるが、小さなサイズの豆は甘く、みずみずしい。

「都市部のレストランでは野菜の大きさ、ときには糖度なども指定して、生産者から購入している店も多いと思います。それは生産者にとっても商売になりますし、そういう考え方もあるので否定はしません。でも、20年ほど野菜作りに取り組んでみると、完全に育ちきってない未熟なもの、逆にトウが立ったもの、ときには芽や花の状態など、さまざまな段階での風味、おいしさがあることに気づいたのです。それを使わない手はありませんよね。現在、品種としてはハーブも含めて150種ほど育てていますが、それぞれの成長段階ごとに使うことを考えれば、その種類は何百にもなります」

工程はシンプルながらも、彼がつくる料理の芳醇な味わいは、いわば自然の賜物というわけだ。だが、いいことばかりではない。台風が来れば作物が全滅するなど、畑作業は困難も多い。

「得られるものが大きいので続けていけるとも言えますね。今、畑にあるものをどう組み合わせて、どう調理するか。すべて畑が教えてくれますから。それがオリジナルになるだけ。僕が頑張って考える必要がないんです。和歌山という土地があって、食材や文化があって、そこにテクニックというより、イタリアを含めた自分の経験を合わせています」

花、実、茎などの部位別に料理に使う。

一時は100%の自給自足を目指して鴨やミツバチを飼った時期もあったというが、自分たちだけで世界が完結すると、周りとの関わりがなくなることに気付いたという。以降、地元との共生を目指す。

「私もブルーベリーやイチジクは育てていますが、柑橘類や桃などの果物、また、私たちが栽培を不得意とする根菜などもほかの農家さんのものを使っています。あとは魚、鹿や猪などのジビエ、飼育の猪豚、熊野牛なども地元の生産者にお願いしています」

最近では自らのレストランが注目されるにつれ、都会のシェフたちとの交流も増えてきた。

「東京や関西のシェフたちをこの地域の生産者に紹介する際、地元の若いシェフも呼んで交流を図っています。地方で頑張りたいけれど“どうしたらいいか、わからない”という彼らが、自ら“こうしたい”と思えるきっかけをつくれたらいいですね。また、今後は海外も含め、各地を回って、その土地のレストランとコラボレーションをして料理をつくりたいと思っています」

土地と共に生きる小林シェフの料理観は今後、海を超えて広がっていくに違いない。

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