July 29, 2022

海洋プラスチックゴミを取り巻く世界の現状

By ARINA TSUKADA

海に流出したプラスチックは、どのように移動し、どこに堆積するのかなどを調べるため、海水や海底の泥などを引き上げた海洋調査を行っている。

海へと大量に流入するプラスチックゴミが、いま世界的な問題となっている。現在、海中に存在するプラスチックは1億5千万トン、年間でも800万トン相当が流入しており、2050年以降には魚の重量を超えるという予測も出ている。

長崎県対馬の海流シミュレーションから、マイクロプラスチックの堆積量を比較。

海のゴミは1970年代頃から問題視されてきたが、2015年にドイツで開催されたG7エルマウ・サミットを皮切りに国際政治の場でも言及されはじめ、2019年のG20サミットでは、2030年までに海洋プラスチックの追加汚染をゼロにすることが目標に掲げられた。

果たして、海洋プラスチックゴミを取り巻く現状とはいかなるものか。東京大学と日本財団による共同研究「FSI海洋プラスチック研究」を進める、東京大学大気海洋研究所教授の道田豊氏、東京大学生産技術研究所の木下晴之氏に話を聞いた。

海洋ゴミについてのレクチャーやワークショップを一般市民向けにも随時行なっている。

「海洋プラスチックの実態把握調査において、日本国内の水産研究・教育機構で保管されていた過去70年分(1949〜2016年)の海水サンプルからプラスチック密度を調べたところ、10年で10倍単位の汚染が進行していることが判明しました。一方、最近の調査ではプラ粒子が小さくなるほど海底の泥の中に堆積するほか、海流による影響、生物に蓄積する時間や状態にもプラスチックの大きさや種類によって違いがあることがわかってきました。それは将来的に、環境負荷の少ないプラスチック開発への提言にもつながると思います」。

そう語る道田氏たちは、海洋生物や人体への影響も同時に調査を進めている。

「プラスチック汚染の進んだ海岸に生息するオカヤドカリの体内を調べたところ、マイクロプラスチックのほかに、プラスチック製造過程で添加された化学物質も蓄積していることがわかりました。これらの化学物質は代謝の過程で有害化することがあります。また人体についても、培養細胞を用いて実験した結果、数十〜数百ナノメートルほどの微細な粒子が血流やリンパに入り込むことがわかりました。結果、人間もマイクロプラスチックを吸収し、有害物質を溜め込んでしまう可能性は大いにあります」。

様々な問題が積み上がる海洋プラスチック問題だが、今後は市民への理解をどう広げ、ゴミの削減につなげていくかも課題となる。市民参加型の海洋データ調査プラットフォームOMNIを推進する木下氏は次のように語る。

「研究者たちの収集や調査だけでは到底追いつきませんので、市民の方たちとデータを収集する仕組みを構築しようとしています。最近では逗子市と連携し、地元の子どもたちと共にビーチの砂を採取し、マイクロプラスチック量を集計するプログラムなどを展開しています。こうした教育的側面もある活動は、元から環境意識の高い逗子市民の方々からとても喜ばれていますね。一方、長崎県の対馬などは外国から巨大な産業ゴミが流れ着くこともあり、生活ゴミが多い逗子市とはまた状況が異なります。そうした各地域固有の声やアイデアを市民の方々から集めていくことも重要だと考えています」

現在、プロジェクトは第2期を迎え、社会科学グループとも連携し、自治体との連携や市民参加による社会普及を目指していくという。海にプラスチックを流さないために、私たちにもできることはまだまだあるはずだ。

海面上におけるマイクロプラスチック量を調べる調査。 | PHOTOS: THE UNIVERSITY OF TOKYO FSI‐NIPPON FOUNDATION RESEARCH PROJECT ON MARINE PLASTICS

プラスチックゴミは表面に藻類や細菌が付着し、重くなって海底に沈むと言われている。 | PHOTOS: THE UNIVERSITY OF TOKYO FSI‐NIPPON FOUNDATION RESEARCH PROJECT ON MARINE PLASTICS

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