February 24, 2023

先端技術施設×高いデザイン性。「播磨科学公園都市」を訪ねる。

ライター:中和田ミナミ

建築家・磯崎新が建物を、造園家ピーター・ウォーカーがランドスケープをデザインした<兵庫県立先端科学技術支援センター>。この写真に写っているのは宿泊棟だ。 | PHOTO: KIYOSHI NISHIOKA

Harima Science Garden City

兵庫県により1986年から建設が始まり、1997年に街開きした学術都市。兵庫県南西部の播磨地方、吉備高原東端の丘陵地帯を造成してつくられた。日本の科学技術を支える大型放射光施設<SPring-8>やX線自由電子レーザー<SACLA>の他、兵庫県立大学理学部、兵庫県立大学西はりま天文台、兵庫県立粒子線医療センターなどが置かれている。

PHOTO: MINAMI NAKAWADA

PHOTO: KIYOSHI NISHIOKA

もしも岩手県にILCが作られれば、そこに世界中から多くの研究者や技術者、そしてその家族などが集う、研究都市がこの東北に生まれるだろう。実際、国家プロジェクトとして1963年に建設が決まり、1980年には形が整えられた茨城県の「筑波研究学園都市」のような研究都市が東北の地に生まれるかもしれない。

「筑波研究学園都市」は、過密化する東京から試験研究機関を計画的に移転させると共に、高水準の研究と教育を行うための拠点を形成することを目的に建設された街だ。現在はJAXAの筑波宇宙センターや筑波大学など29の研究・教育機関が立地し、東京23区の半分ほどを占めるエリアに、約23万人が暮らす都市を形成している。

アメリカ人のランドスケープアーキテクト、ピーター・ウォーカーがデザインした宿泊棟の中庭。
PHOTO: KIYOSHI NISHIOKA

しかし「筑波研究学園都市」が東京から60kmという利便性の高い距離にあることを考えるとこの東北の新科学都市の参考にはならないだろう。そこで日本全国を探してみると、似たような取り組みによりできた科学都市があることがわかった。それが兵庫県にある「播磨科学公園都市」である。この街には、世界最大級の放射光施設<SPring-8>があり、日本国内のみならず、海外からも研究者が訪れる場所になっている。

「播磨科学公園都市」は、世界文化遺産にも登録されている姫路城のある姫路市から約40㎞の距離に位置する。 “時間とともに成長する森の中の都市”をコンセプトに、世界的に著名な建築家・磯崎新をマスター・アーキテクトに迎え、人里離れた丘陵地帯を造成してつくられた。磯崎新が<兵庫県立先端科学技術センター>や地区センター、集合住宅などを設計しているほか、安藤忠雄が、小中学校の校舎やヘリポート(現在は閉鎖)を、アメリカ人ランドスケープアーキテクト、ピーター・ウォーカーが街の中心部の公園を手掛けるなど、街の随所に高いデザイン性が見て取れることでも知られている。

建物の正面(ファサード)がガラス張りになった<兵庫県立大学>理学部の研究棟。
PHOTOS: KIYOSHI NISHIOKA

会議棟にある多目的ホール。
PHOTOS: KIYOSHI NISHIOKA

会議棟にある視聴覚ホール。コンクリート製のアーチが屋根を支える。いずれも建築家・磯崎新の設計だ。
PHOTOS: KIYOSHI NISHIOKA

この街の開発のきっかけは1983年に国が定めた「テクノポリス法」に始まる。これはシリコンバレーのような高度技術を集積した街をつくるべく制定された法律で(現在は廃止)、「播磨科学公園都市」がある兵庫県の西播磨地区を含め日本全国26の地域が国からテクノポリスの承認を受けた。この西播磨では1986年に起工式が行われ街の開発がスタート。89年に大型放射光施設の建設が正式に決まり、<SPring-8>の運用が始まる1997年に街開きが行われた。街の目玉は<SPring-8>だが、この大型放射光施設との連携した研究を念頭に、兵庫県により大学が新設された(現・兵庫県立大学)。また研究者や誘致した企業の家族が定住できるよう小中学校もつくられ、住宅地・公園・公共施設も整備された。

街開きが行われて25年が経った2022年12月、この街を訪ねてみた。新幹線が停まるJR相生駅でレンタカーを借り山側へと向かう。車で40分ほど走ったところでトンネルが現れた。そのトンネルを抜けると突如、視界が開け、「播磨科学公園都市」が現れた。街路樹は整備され、美しい建物が林の中にポツンポツンと間隔を置き建っている。兵庫県立大学付属の中・高等学校などの学校や、兵庫県立の粒子医療センターや西播磨総合リハビリテーションセンターなどの医療機関もある。

<兵庫県立先端科学技術支援センター>宿泊棟内にある客室。床に置かれた照明など随所に磯崎新のオリジナル・デザインが光る。部屋はシングル~特別室まで様々なタイプがあり、現在は研究者でなくとも宿泊することが可能だ。
PHOTO: KIYOSHI NISHIOKA

宿泊は磯崎新が設計した<兵庫県立先端科学技術センター>のゲストハウスを予約していた。ここは元々、街に集う研究者のための宿泊施設だったが、現在は一般の人でも宿泊可能となっていた。実際、<SPring-8>の敷地内にも研究者用の宿泊施設があるのでこれだけで十分ということもある。近年では、ヘリポートを閉鎖した後につくられたサッカーグラウンド利用者がここに宿泊することもあるという。

当初の計画人口は25,000人だったが、25年後の現在のこの街の夜間人口は1,500人ほどだという。地区センター内にある唯一のスーパーマーケットも撤退が検討されていた(その代わり、コンビニエンスストアが新しくできていた)。日常の買い物など、生活をするのには少し不便なところもあるが、自然に囲まれ、デザイン性の高い街で過ごすのは気分がいい。そして何より、研究・開発に没頭するのには良い環境かもしれない。そう感じた。

Center for Advanced Science and Technology Hyogo

1993年完成。設計:磯崎新
「播磨科学公園都市」に集う研究者や技術者が交流するための施設。会議棟と宿泊棟、そして兵庫県立大学理学部の研究棟と、3つの建物で構成されている。3つの棟の中心にある広場や、宿泊棟中庭などのランドスケープ・デザインは、アメリカ人造園家ピーター・ウォーカーが手掛けている。
●兵庫県赤穂郡上郡町光都3-1-1 Tel:0791-58-1100
https://cast.jp/english/index.html

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