December 16, 2022

Made in Japanのものから感じる、時代を超越した職人の心。

ライター:ケリー・フルカワ

リチャーズ大使は公邸のインテリア・デコレーションを自ら行っている。家具は英国のジョージアンスタイル、そして、アフリカやカリブ海地域から集められた、フェミニンな雰囲気のアート作品の数々。また、鉢植えのシダを含め、部屋には多くの植物も飾られている。
PHOTOS: YOSHIAKI TSUTSUI

ショーナ=ケイ・M.リチャーズ大使

ウエストインディーズ大学を卒業後、1994 年にジャマイカ外務・貿易省に入省。 2002 年、ジョージ・ワシントン大学(アメリカ合衆国)にて国際政策の修士号を取得。1998年~2002年にワシントン D.C. にある米州機構のジャマイカ政府代表部代表代理、2003年~2004年に在アメリカ合衆国ジャマイカ大使館参事官、2009年~2021年に南アフリカ共和国プレトリアのジャマイカ高等弁務官事務所の公使参事官、2012年~2016年に国連ジャマイカ政府代表部副代表などを歴任。2022 年~、国連軍縮諮問委員会委員に選任。 2020年より駐日ジャマイカ特命全権大使を務める。

2005 年の夏、ひとりの若いジャマイカ人外交官が、長崎で国連が主催する軍縮フェローシッププログラムに参加していた。午後の休憩時間に彼女は街を散策し、真珠のネックレスに出会う。それから15年後の2020年、彼女はジャマイカの駐日大使となって再び来日を果たす――ショーナ=ケイ・リチャーズ大使が今も当時を思い出すのは、真珠を見つけたときに感じたドキドキした感覚だ。

ジャマイカ大使館は東京の麻布十番にあるが、今回の取材はJR目黒駅近くの閑静な住宅街にあるジャマイカ大使公邸で行われた。瀟洒な一軒家の玄関を入ると、国旗や明るい色使いのアート作品が美しく飾られている。居間へと進むと大きな窓からは、彼女が設えたというウッドデッキがあり、ヤシや鉢植えのポインセチア、シクラメンなどの花に彩られた庭が見える。リチャーズ大使は長崎で購入したネックレスを握りしめ、それが彼女にとっていかにお気に入りの日本製アイテムであるかということを語り始めた。彼女にとってそれは単なるジュエリーではなく、彼女の平和への誓いを表明したものだという。

「まさか先月長崎に戻って、『長崎大学核兵器廃絶研究センター』の10周年記念式典で基調講演者になるとは想像もしていませんでした。私は2005年に長崎と広島を離れる時、核廃絶に向けて努力することを心に誓いました。今回のスピーチの時、私は真珠のネックレスをしていましたが、それを外して言いました。『これは私が被爆者と交わした約束であり、私が守ってきた約束です。』。このネックレスは私にとって特別なものなのです」。

オフホワイトに輝くパールと小さな花の形をした留め金は、美しい日本生まれの真珠をアクセサリーへと昇華させた、優れた職人技に裏打ちされている。

リチャーズ大使の日本のお気に入りアイテムの数々。日本の伝統芸能である能の装束を元にデザインされた<クラシクス・ザ・スモールラグジュアリ>のハンカチ。長崎県知事からの贈り物、平戸・三河内焼の<平戸洸祥団右ヱ門窯>の磁器。鳥取県知事からの贈り物<因習中井窯>のマグカップ。お手玉、インテリア・デコレートの写真集「ジャパニーズ・インテリア」などが並ぶ。

リチャーズ大使は、彼女が自分で買ったり、贈り物として他人から受け取ったものについて丁寧に、かつ情熱的に語ってくれた。陶磁器、漆器、化粧品、箸、伝統的な職人がつくった前掛け・・・。それが象徴するのは、単なる物ではなく、何らかの物語を秘めているということだ。

「Made in Japanの製品からは、時代を超越した職人技、職人の細部へのこだわり、素晴らしい努力、心、などを感じ取ることができます。またクオリティが高く頑丈で、高品質の代名詞であるとも思います。すべての物事がハイスピードで進行し大量生産されるグローバル化された世界にあって、日本製品は大切な何かを私に思い起こさせてくれます」。

リチャーズ大使は、鳥取県から受け取った<因州・中井窯(いんしゅう・なかいがま)>の黒と緑のマグカップの鮮やかな釉薬や、中央に菊の彫刻が施された長崎・平戸の<三河内焼(みかわちやき)>の酒器の輝く白などの純粋な美しさに魅了されているという。また彼女は、能舞台の衣装からインスピレーションを得た複雑なパターンと鮮やかな色をハンカチも気に入っている。ちなみに、ハンカチの素材はジャマイカ産のシーアイランドコットンを使用していてそれ自体が希少なものだ。他にも、熊野筆で知られる<丹精堂>の山羊毛を用いたメイクブラシなどを挙げてくれた。

リチャーズ大使のギフト選びのポイントは3つ。「美しさ」「ユニークさ」、そして「実用性」だ。彼女は日本のものをジャマイカの人に贈ることは、日本の文化を伝える方法の 1 つだと考えている。

室内にはフォーマルな雰囲気のダイニングルームが設えられているが、同じくテラスにもダイニングテーブルやカウチが置かれている。

「2021年、ジャマイカのオリンピックチームがこの大使公邸に次々とやって来たとき、私は自分がたくさんの箸を彼らにプレゼントしていたことに気づきました。箸は文化を伝えるものであり、実際に使えるものだからです」。

ジャマイカはカリブ海に浮かぶ人口300万人の島。この国のモットーである「OUT OF MANY, ONE PEOPLE(多数から、一つの人民に)」は、ヨーロッパ人からの先住民族の支配・植民地化と、アフリカ人奴隷を連れてきた歴史を反映している。ジャマイカと日本はどちらも独特の地形を持った島国だが、贈り物は顕著な文化の違いを解消する役割を果たしているという。

日本とジャマイカは、2024年に外交関係樹立60周年を迎える。それは彼女の日本での任期の最後の年に当たるが、その年を日本の外務省は「日本・カリブ友好年」と名付けた。日本で多くのレゲエミュージシャンが演奏するのをはじめ、様々な文化交流も計画されている。彼女は、ぜひやり遂げたいプロジェクトだと熱く語る。

公邸のエントランスに置かれたビジターズブック。邸宅に招待された人がサインをするものだ。

公邸を入るとすぐのところに、ジャマイカの国旗と、総督と首相の写真が飾られている。

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