広島、歴史と文化の三都巡り。尾道/サイクリストと映画好きの聖地へ。

“坂の街”あるいは“サイクリストと映画好きの聖地“として知られる尾道は、広島県の南東部に位置する港町だ。街は、穏やかな瀬戸内海に面した海側と、見晴らし台のある千光寺山公園がある山側という２つの顔を持ち、どちらも甲乙つけ難い風情と魅力がある。平和記念公園がある広島市内からは尾道は意外に遠く、在来線で1時間30分ほどかかる。

瀬戸内海を本州から四国まで縦断する　「しなまみ海道」はご存じだろうか？　広島県尾道市から愛媛県今治市までの60kmを、６つの島（向島、因島、生口島、大三島、伯方島、大島）をまたぎ、橋でつながる自動車専用道路だ。実はこの道路は、自転車でも渡ることができる。そのため海の上を自転車で走りたいというサイクリストたちが「しまなみ海道」を目指し、その玄関口である尾道を訪れるのだ。

港近くにはサイクリスト専用ホテル＜HOTEL CYCLE＞を含む複合施設＜Onomichi U2＞もある。ここは元々1943年に建てられた広島県所有の海運倉庫だったが、そこを広島出身の建築家・谷尻誠と吉田愛（サポーズデザインオフィス）が、ホテル、レストラン、カフェ、サイクルショップなどを擁する施設として改修した。この建物は歴史的建造物に指定されているため躯体自体に手を加えることは許されなかった。そこで鉄骨2階建ての建物を、倉庫に中にビルトインするような形で客室がつくられている。特筆すべきは客室の外に十分な自転車メンテナンスの共有スペースが設けられていることと、室内にも自転車を持ち込める点だ。ここは愛車と共に眠りにつくことができる至福のホテルなのだ。

尾道はサイクリング以外にも、数々の名作映画のロケ地やアニメの舞台として知られている。街の中には長い階段が続く美しい丘があり、その丘の周辺には古くからある寺院が数多く点在する。そのような美しい風景の中で映画やアニメが展開されるのだが、なかでも有名な作品が、小津安二郎監督の『東京物語』1953年）だろう。この映画は、尾道に住む老夫婦が東京に暮らす息子家族の元を訪ねるが冷たく扱われることで話が展開していく内容だ。この映画の中には70年前の尾道の姿が映し出されている。そのロケ地のなかでも特に訪れたいいのが＜浄土寺＞だろう。浄土寺は616年に創建されたと言われる古刹で、「本堂」（1327年建立）「多宝塔」（1328年建立）は共に、国宝に指定されているほか、境内にある多くの建築物が国指定の重要文化財となっている。寺が建つ丘からは美しい瀬戸内海が見渡すことができ、その手前にある線路には映画と同じく今も時折、電車が通る。映画のシーンに登場するのはこの寺のどの部分なのか、作品をじっくり鑑賞した後、実際に尾道を訪ねて、この目で確かめてみるのも良いだろう。

2014年開業　設計：サポーズデザインオフィス（谷尻誠＋吉田愛）　1943年、尾道水道沿いにつくられた2000㎡の海運倉庫を、レストランやベーカリー、カフェなどに改修した複合施設。客室数28の＜HOTEL　CYCLE＞はサイクリストフレンドリーなホテルだが、サイクリストでなくても、もちろん泊まることができる。
●広島県尾道市西御所町5-11
https://onomichi-u2.com/

1999年5月1日開通。広島県尾道市（本州）と愛媛県今治市（四国）を結ぶ全長60㎞の自動車専用道路。高速道路でありながら、自転車が通ることができる専用車線が設けられているのが特徴。全長70㎞あるサイクリングロードは瀬戸内海に浮かぶ６つの島を経由し、島と島を結ぶ橋を渡る際、海の上の道を走ることになる。

616年創建と伝えられる真言宗の寺。鎌倉時代に建てられた「本堂」（1327年建立）「多宝塔」（1328年建立）は国宝に指定されているほか、山門や数々の寺所蔵品が国の重要文化財に指定されている。小津安二郎監督の映画「東京物語」にも登場することで知られている。観光客も比較的少ない穴場の観光スポット。
●広島県尾道市東久保町20-28

2018年開業　設計：スタジオ・ムンバイ　1963年に、尾道の丘（千光寺山）の中腹に建てられた集合住宅をわずか6室だけのホテルに改修。改修を手掛けたのは、インドを拠点に活躍するビジョイ・ジェイン主宰の＜スタジオ・ムンバイ＞だ。ホテル内のカフェは宿泊客でなくても利用できるので、尾道散策の合間に立ち寄るのも良いだろう。
●広島県尾道市東土堂町11-12　カフェの営業時間は11：00am-5:00pm。不定休。
https://l-og.jp/