October 27, 2023

外国人醸造家が、佐渡で日本酒造りを学ぶ。

佐渡市真野新町にある<尾畑酒造>の酒蔵。尾畑酒造は明治25年創業の酒蔵だ。

新潟県の佐渡島で130年以上に渡り、日本酒造りを行う<尾畑酒造>。その二つ目の蔵<学校蔵>は、2010年に廃校になった小学校を、2014年に酒蔵として再生した施設だ。ここでは単に日本酒造りだけではなく、酒造りを学ぶための拠点となっている。そんな場所で、「学校蔵の酒造り体験プログラム」が、2023年の夏、7回開催された。

8月末に行われた最後の回は、上級者向けの「Advanced Sake Brewers Cerificate Program」として、2019年に北米の酒醸造家により設立された「北米酒造協会」(Sake Brewers Association of North America)との共催で行われた。この回には、アメリカ人醸造家3名、メキシコ人醸造家1名の計4名の外国人が参加。1週間にわたる日本酒造りのプログラムでは、洗米、浸漬、蒸米、製麹、仕込みといった酒造りのプロセスだけでなく、1世紀以上にわたって酒造りを支えてきた佐渡の自然や、佐渡での暮らしも体験した。

<学校蔵>での「仕込み」の様子。酒母(しゅぼ)に、麹、蒸米、水を加えて、発酵させる工程だ。
PHOTOS: TAKAO OHTA

今回は、アメリカ・メキシコでそれぞれ職業として酒造りを実践している参加者のため、一般の参加者向けに行われる通常のプログラムよりも講義の内容はより多彩に、深く掘り下げたものが用意された。酒造りの手順や材料、機械、環境などの観点から、日本での酒造りと異なる点なども講義の中で取り上げられた。

例えば、日本の水は基本的に軟水だが、アメリカでは水源の場所によって水の硬度に大きな差がある。このように、気候や温度、湿度など、考慮して作業せざるを得ない要素がいくつもあるが、いずれも酒の出来上がりを左右する重要なポイントだ。講義では、参加者それぞれが置かれている環境での最適解を見つける手助けとなるようなアドバイスがおくられた。

共催の「北米酒造協会」のメンバーであり、通訳も兼ねてプログラムに参加した<Sake Industry News>の主任研究員、榎本志麻は、「すでに酒の醸造家としての経験があるとはいえ、日本の酒蔵ではどういうやり方をしているかを学んで修正したい部分がたくさんあると思います」と話す。

<Sake Industry News>はジョン・ゴントナー氏が主宰する月2回発行のニュースレターで、日本の酒業界に関する情報を発信している。ジョン・ゴントナー氏は、「全国新酒鑑評会」の最終審査の審査員に選出された、初めてかつ唯一の外国人で、世界的に知られる日本酒の専門家だ。彼女はこう続けた。「例えば、種麹の撒き方ひとつで仕上がりの味が変わるわけです。だからこそ参加者からはたくさんの質問が出てきます。酒蔵にとって最も忙しい仕込みのシーズンに、あれこれ質問をぶつけるなどといったことは普通できないので、このようなプログラムは参加者にとって、とてもありがたいはずです」。

プログラムの最終日には卒業式が行われ、参加者らは修了証を受け取ると同時に、互いに感想を述べ合った。参加者の一人、自家醸造した日本酒を提供するミネアポリスの日本風居酒屋『moto-i』で醸造家をつとめるニック・ラウリーは、「この一週間で私たちが学んだことが、日本以外の国々、特にアメリカにおける日本酒にもたらす影響は非常に大きいと思います。わたしたちは皆、知識を渇望してここにやってきました。<学校蔵>のみなさんが、その乾きを満たしてくれました」と述べた。

日本食の流行と共に日本酒の人気も高まり、日本酒の輸出量は新型コロナウイルスの打撃が大きかった2020年を除いては右肩上がりだ。ところが日本酒の国内出荷量は減り続け、1973年のピーク時の1/4にまで落ち込んでいる。輸出量は過去5年で倍増しており、全出荷量の約8.2%を占める。昨年の輸出先は72カ国だが、その中でも対アメリカは出荷量では長年世界一となっている(農林水産省)。

放冷作業の様子。蒸し器から蒸しあがった米を取り出し、手で麻製の布の上に広げ、熱を冷ましていく。

アメリカでは、日本から輸入するだけでなく、アメリカ国内で独自の酒造文化が育ちつつある。自家醸造が禁じられ、厳格な免許制度で管理されている日本の酒業界は、各地域で何百年と続く老舗蔵がほとんどだ。そんな日本から見ると、アメリカでの酒造文化の発展の仕方はユニークだ。「現在アメリカには20軒以上の酒蔵があり、それらの多くが日本酒愛好家による自家醸造から始まりました」と榎本は言う。そのため、ワイン用の機械で代用している場合もあり、これはもちろん味にも影響するという。<学校蔵>の上級者向けプログラムでは、酒造に使われる機械のメーカーやエージェントを招いて機械の使い方やメンテナンスの仕方を学べる講義も用意されている。

このようなプログラムを通して海外の醸造家同志がつながりを深めることは、世界各国で作られる日本酒の質の向上につながる。多様で良質な酒ができることで、酒文化全体を底上げすることができ、世界における日本酒市場の活性化が期待される。

放冷作業の様子。手作業で、丁寧に蒸しあがった米を広げていく。

麹や水を加え、タンクの中で米を発酵させる。

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