March 29, 2024

東京から日本をリードする。小池百合子都知事インタビュー。

ライター:井上理/Renews

多忙な公務の合間を縫い、『Sustainable Japan Magazine』の単独インタビューに応じた東京都の小池百合子知事。都庁にある応接室で、サステナビリティへの取り組みを熱く語った。
PHOTOS: GION

東京を象徴する東京都庁の応接室に、分刻みの公務の合間を縫って日本を代表する女性政治家が登場した。2016年から東京都知事を務める小池百合子。コロナ禍を乗り切った彼女は今、小国の国家に匹敵する人口1400万人都市の環境負荷軽減や災害などへの強靭化、すなわち都市のサステナビリティ対応を強烈に推進している。そのモチベーションや牽引力は、彼女の経歴に由来する。

カイロ大学を卒業後、ニュースキャスターとして活躍した小池は、1992年から国会議員となった。2003年9月の内閣改造で環境大臣として初めて閣僚入りを果たすと、夏場にカジュアルな軽装で出勤する「クールビズ」を提唱し、国民の意識変革に寄与した。2006年の第一次安倍内閣では内閣総理大臣補佐官(国家安全保障担当)に任命され、翌2007年7月には女性初の防衛大臣に就任。外遊では、当時のチェイニー米副大統領やアーミテージ元国務副長官、ゲーツ国防長官、ライス国務長官らと会談し、外交力を発揮した。その後、彼女は東京都知事選に出馬し、都民から圧倒的な支持を得て都知事となった。

テーマカラーはグリーン。都知事になって最初に仕込んだ一つが、再生可能エネルギーの活用など環境改善に効果がある事業資金を調達する債券だった。都知事就任の翌2017年10月、東京都は日本の地方自治体で初となる「東京グリーンボンド」を発行。小池は当時をこう振り返る。

「環境大臣をしていた頃、例えばパリがグリーンボンドを出していて、日本の機関投資家がそこに投資をしている、パリの環境を日本のお金で良くしているということを聞き、一体これはどういうことなんだと思いました。また、その頃の日本企業は環境対策への興味がなく、私が環境大臣として『国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)』の国際会議をホストしたのですが、反応が悪くて、なにそれ?という感じだったんです。だから、身近な話題としてクールビズを提唱しました。ただ、いろんな壁があって、やりたいと思っていたことが宙ぶらりんのまま、退任したという苦い経験があります。霞が関(国の行政機関の中心地)や永田町(政治の中心地)にいると、課題は分かっていても、解決策が実行されないことが多い。だから都知事になってから、これまでやりたかったことをやろうと。少子化対策もそうですが、特に環境対策は集中的にやって効果を出そうと取り組みました」。

『SusHi Tech Tokyo』をPRする寿司型のキーホルダー。会食イベントで同席したヒラリー・クリントン元米国務長官にも手渡したという。

グリーンボンドしかり、小池都知事が打ち出す政策や戦略は、常に日本のほかの自治体や、あるいは国をリードして来た。

2019年5月、東京都は世界の大都市の責務として、平均気温の上昇を1.5℃に抑えることを追求し、2050年にCO2排出実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」を実現すると宣言した。日本政府が国家レベルで2050年のカーボンニュートラルを目指すとコミットメントしたのは、その1年半後のことである。その後も国内自治体で初めて住宅屋根の太陽光パネル設置の義務化に踏み切ったり、世界の都市に先んじてグリーン水素の取引所創設を打ち出したりした。自然由来で再生可能なグリーンエネルギーへの熱意は、とりわけ高い。最も期待している施策はなにかという問いに、小池都知事はこう答えた。

「やはり、クリーンでグリーンなエネルギーの安定的な確保です。そもそも、エネルギーをどう確保するのか、は国策そのもの。この国はなぜ戦争をしてしまったのか、というところに遡れば、それは資源を欲したからですよね。ウクライナの問題しかり、紅海での危機しかり、私はエネルギー戦略を考える上でも非常に危ういと思って見ています。北極圏の液化天然ガス(LNG)開発事業『アークティックLNG2』を巡る動きを見ても、各国が戦略を描き、しのぎを削りながら戦っているわけです。やはり国家としてのエネルギー戦略は、いくつもの柱の最上位に来てしかるべき。日本のように資源が何にもない国こそ、再エネ・省エネの領域で磨きをかけないでどうするんだと。原料や資材調達からサプライチェーンの構築もさることながら、ファイナンスや技術力も伸ばす。スピード感が問われています」。

2024年2月、シドニーがあるニューサウスウェールズ(NSW)州議会でスピーチしたオーストラリアを訪問中の小池都知事。東京都は海外の自治体として初めて、水素のサプライチェーンや技術開発などで協力する合意書をNSW州政府と締結。小池都知事はNSW州のクリス・ミンズ首相とも会談し、水素分野での連携強化を確認した。
© NEW SOUTH WALES GOVERNMENT

小池都知事は太陽光発電の画期的な技術開発や、グリーン水素の取引所創設など、日本どころか世界に先んじた戦略を描き、具体的な一手を打っている。総合的で多面的な戦略は、ベンチャーやスタートアップ企業の誘致・育成にまで及ぶ。「これまで、7〜8年近く、いろんな仕込みをして来ましたが、その間に世界も大きく変わりました。例えば2005年当時、日本のCO2排出量は世界全体の約5%でしたが、それが今は3%ほど。だから、私は今、日本の中の東京という世界からすれば少ないシェアで必死になって削減していくことと同時に、日本の技術で世界に貢献するマクロでの戦略も必要だと考えています。技術と意識、いろんな座標軸をかけ合わせて、東京から良い事例、良い戦略を世界に広めていく。その象徴が『SusHi Tech Tokyo』というわけです」。

『SusHi Tech Tokyo』とは、「Sustainable High City Tech Tokyo」の略で、持続可能な都市を高い技術力で実現する取り組みの総称。2023年2月には、持続可能な社会の実現に向けた最先端の”CityTech”を披露する世界的なピッチコンテストを開催。ファイナルに残った国内外20社の中から、核融合発電によってエネルギーの安定供給を常態化させることを目的とした京都大学発の京都フュージョニアリング(Kyoto Fusioneering Ltd.)が最優秀賞に選ばれ、1000万円の賞金のほか、著名投資家などからの投資機会も得た。

スタートアップイベントは米国の『CES』や仏パリの『Viva Technology(VivaTech)』始め、世界各都市で毎年開かれており、都市間競争は激しさを増している。当初、「シティーテック東京(City-Tech.Tokyo)」というネーミングだったが、そうした都市間競争のなかで存在感を示すためにはインパクトに欠けていた。ある閃きが、ユニークなプロジェクト名へとつながったと小池都知事は明かす。

東京都を象徴する都庁第一本庁舎。世界的な建築家・丹下健三の設計で1990年12月に完成。地上48階、高さ243mのビル上部はパリのノートルダム大聖堂を彷彿とさせる双塔になっている。

「どこでもありそうなネーミングで、何かないかなと思っていた頃、お風呂に入ってる時に閃いたのがSusHi Tech。海外の方にはSushiは知られていますが、これには別の意味があるんですよと。サステイナブルで、そしてハイテクなんです。一緒にしたらこうなるんですよとご説明すると、みんな膝を叩くんです。このあいだも、会食イベントで隣になったヒラリーさんに、趣旨をご説明して、寿司のキーホールダーをあげたら、もう大受けで「最高!」と言っていただいて。訴求力が非常に高い。この春にアジア最大級のイベントを控えていますが、参加者が非常に多く、アジアでも今、シンガポールと競い合うクラスになって来ています」。

今年4月から5月、東京ベイエリアにおいて『SusHi Tech Tokyo 2024』の開催が控えている。世界400社以上のスタートアップによる出展と、50万人以上の来場者を見込み、環境関連や未来のモビリティなど最新技術の展示も予定されている。

ハイテクノロジーでサステナブルな都市の実現を目指す新しい東京。その姿を見せる絶好の機会。小池都知事も期間中、足繁く通い、世界にアピールしていくと熱く語る。与えられた時間が迫っていたが、それでも話は止まらない。「スタートアップ、インベスター、アクセラレーターが一堂に会する一大ミーティングポイントになるはず。ただ集まって楽しかったね、じゃなくて、ちゃんとチャンスが生まれて、事業が前に進むイベントにしていきたい。みんな、結果が欲しい人たちですから」。

小池百合子

東京都知事。1952年、兵庫県芦屋市生まれ。関西学院大学を中退し、カイロ大学に留学。1976年、同大文学部社会学科卒業。帰国後、ニュース番組で日本初の女性経済キャスターを務めるなどテレビで活躍。1992年、40歳のときに参院選に出馬し、初当選。翌93年、衆議院に挑戦し当選。環境大臣や内閣総理大臣補佐官(国家安全保障担当)、女性初の防衛大臣などを歴任する。2016年、東京都知事選挙に立候補し当選。「東京大改革」を掲げ、2020年の都知事選も圧倒的大差で勝利し2期目を務める。

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