August 30, 2024
“海の畑”に着目する取り組み。
美術、工芸、建築を軸に文化活動を展開するNPO法人<TOMORROW>をご存じだろうか? 代表を務める徳田佳世は元々、アートの聖地と呼ばれる瀬戸内海に浮かぶ直島で長年アートキュレーションの仕事をしてきたが、2016年に独立、設立したのがこの団体だ。理事には、建築家でプリツカー建築賞も受賞している西沢立衛が、アドバイザリーコミッティにはアートで直島を一変させた福武財団名誉理事長の福武聰一郎も名を連ねる。当初は京都市内を拠点に活動してきたが、2020年に京丹後市の間人(たいざ)にも拠点を設け活動の幅を広げた。間人は京都府内ではあるものの、京都市中心部からは電車で2時間以上かかるアクセスしづらい日本海に面した小さな港町だ。この町にできた拠点は「間人スタジオ」と呼ばれ、築100年あまりの2階建て木造家屋を、木工・陶磁器・ガラス・唐紙・左官職人たちと4年をかけて修繕した実験的な空間である。
徳田がここ間人で行っているのが「あしたの畑」と呼んでいるプロジェクトだ。芸術を通して希望に満ちた社会を築くためには、今どう行動すべきか? を考えた際、生きるために一番大切な「食べる」ことと芸術との融合を図る取り組みを行うことにしたという。
「あしたの畑」は、“食”を起点に、料理、器、住まい、交流の場などをつくる活動です。その実践としてここ間人で「芸術」と「会食」をセットにしたイベントやツアーを実施しています。間人がある丹後半島は「へしこ」など魚を発酵させた伝統的な食品や、海藻、間人カニをはじめとする魚介類が豊富で、健康長寿との関わりが注目されている地域です。また、米、古代米、有機野菜の栽培や酪農も盛んに行われています。この地域の風土に根差した食べ物や暮らし方、美しい風景を、今味わいつつ次世代へも継承したいと思い、芸術家や建築家、料理人、職人たちと話し合い活動しています」。
徳田はアートキュレーションの仕事に関わってきた中で“食”が一番重要だと認識するにいたったと語る。
「日本の食料自給率はカロリーベースで現在38%です。輸入なしでは立ち行かない状況にあり、もし何か有事が起こって食べ物が手に入らなかったらどうするか?と漠然と考えた時、“海藻”であればタンパク質を補充できるし、ポテンシャルがあるのではという考えに至りました。そこで注目したのが海に面した間人という土地であり、そこで採れるわかめです。海藻を日常的に食べている国は韓国と日本くらいでしょうか。特に韓国では、わかめスープの種類が10以上あり、産後すぐの母親が体力回復のためにわかめスープを毎日飲むなど、栄養食としてもポピュラーな存在です。海藻類を食材として使う国は多くありませんが栄養価は高く健康にも良い。これを活かせないかと考えました」
その手始めが京都市内で9月末に開催予定の食のイベントだ。間人で採れたわかめを使った料理をシェフがつくり皆でそれを食べ、同時に海藻の栄養価についても講師を招き学ぶという。畑は何も陸地だけにあるのではない。海の中の畑にも着目するのもありだろう。
徳田佳世
1971年岡山県生まれ。2001年~2010年までベネッセホールディングス及び福武財団でアートキュレーションの仕事に携わる。2016年、NPO法人<TOMORROW>設立、代表理事を務める。
https://tomorrow-jp.org/