December 16, 2021
【石川 康晴】現代美術作家×建築家が組んでつくった宿で唯一無二の街を目指す。
「A&Aリアムフジ」と「A&Aジョナサンハセガワ」。これは岡山市にある宿泊施設の名前だが、2019年現代美術アーティストと建築家がタッグを組んで生まれた、アート体験ができる宿なのである。コラボレーションしたクリエイターは、リアム・ギリック×マウントフジアーキテクツスタジオ、そしてジョナサン・モンク×長谷川豪。前者は、岡山県産の木材を用いたCLT(直行集成板/繊維方向が直交するよう板を積み重ねて接着したパネル)を田の字型に組んだ箱を3つ作り、それらをずらしながら積み重ねることで、内部に立体的かつ複雑な空間を作り出している。一方、後者のコンセプトは「岡山のまちに泊まる」。天井が低く落ち着いた雰囲気の寝室、庭と一体化した縁側のようなエントランス、日本三大庭園のひとつ「後楽園」を眺められる展望台のような浴室という3つの空間から成る建物で、それらを行き来する度、目に映る景色や聞こえてくる賑わいから、岡山という街を感じられる仕掛けになっている。
「『A&Aリアムフジ』の外壁に描かれているのは、先日、ノーベル物理学賞を受賞した眞鍋淑郎が気候変動の研究の際に用いた方程式です。地球温暖化研究の第一人者である眞鍋教授に対するリアムのオマージュから生まれました。ノーベル賞受賞後は、そこへ毎日のように地元の人たちがやって来ては写真を撮っている。眞鍋教授含む3人のクリエイターによる化学反応が形になった作品と言えるでしょうね」
こう話すのは、2つのホテルを運営する公益財団法人石川文化振興財団の理事長である石川康晴だ。2010年、故郷・岡山の次代を担う若手経営者、若手起業家、若手研究者等を懸賞する「オカヤマアワード」を設立したことを機に、地域を活性化させる活動をスタートさせた。そんな石川が町興しの媒介にアートを取り入れたのは2014年のこと。雑誌『モノクル』編集長のタイラー・ブリュレに、世界には岡山と同規模の都市が800以上ある。ここに世界から人を呼ぶためには、それらライバルとはまったく異なる、唯一無二のものを作らないといけない、」と言われたことがきっかけとなった。そこで、アートコレクション「石川コレクション」を岡山の街中に展示する「Imagineering OKAYAMA ART PROJECT」を開催。アートを中心とした活動を始めていく。そんななか考えたのが、宿泊自体がアート体験となるホテルをつくる「A&A(Artist&Architect)」プロジェクト。ギャラリストの那須太郎がディレクターを、建築家の青木淳がアドバイザーを、そして石川がプロデューサーを務める。
「A&Aは20年ほどかけて岡山の街に20棟のホテルをつくっていく計画です。1棟貸しのアートホテル、それも世界的に著名な現代美術家と建築家がコラボレーションしたホテルが20棟も点在する街は世界に類がありませんからね」
「オカヤマアワード」の活動から始まった、石川の岡山への取り組みだが、2016年には「岡山芸術交流」をスタートさせた。これは岡山市の市街地を舞台に、3年に一度開かれる国際現代美術展で、招聘される作家や展示する作品のレベルの高さから世界的にも評価が高い。2022年秋にはその3回目が開催される予定だ。
また2021年には、明治期と昭和初期に建てられた歴史的な「旧福岡醤油建物」を文化施設へとコンバージョン。その建物の地下はアートギャラリーに、2階部分は地域の課題を解決する塾「SDGs塾」の場とし、現在、発達障害児とその親を対象とした支援活動を行っている。
「子供たちの未来や可能性を見いだすことが、まちづくり、人づくりの重要な課題だと思っています。発達障害は障害ではなく、その子の個性ですからね。また、来年3回目を迎える国際現代美術展『岡山芸術交流2022』には岡山県下の子供たちにたくさん来てもらいたい。僕らの活動を通して、未来を担う人材が育てられたら、そのうちの何人かは世界で活躍するレベルになったら、地域活性化に貢献できたことになる。それを信じてやり続けています」