December 20, 2024

会場デザインプロデューサー・藤本壮介が語る、今、万博を開催する意義とは何か?

ライター:和泉俊史

会場デザインプロデューサーで「大屋根リング」の設計者である、建築家の藤本壮介。2025年「大阪・関西万博」のシンボルである「大屋根リング」の上部は、全周約2キロの遊歩道「スカイウォーク」になっている。

来たる2025年は、日本国内各地で大型イベントが行われ、芸術・文化のゴールデンイヤーと呼ばれている。3年に一度行われ、コロナ禍前は来場者数が120万人を超えた「瀬戸内国際芸術祭」(香川県)をはじめ、「国際芸術祭あいち2025」(愛知県)、「岡山芸術交流」(岡山県)、「ひろしま国際建築祭」(広島県)など芸術祭・建築祭が多く行われるからだ。しかし何より、一番のビッグイベントは大阪で開催される「大阪・関西万博」(正式名称:2025年日本国際博覧会)だろう。日程は2025年4月13日~10月13日の6か月間で、160を超える国や地域をはじめ、複数の国際機関も参加する見込みだ。

万博のテーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」。単に会場で展示をみるだけでなく、世界80億人がアイデアを交換し未来社会を「共創」(co-create)し、人類共通の課題解決に向け先端技術など世界の英知を集め新たなアイデアを創造・発信する場にするという「未来社会の実験場」をコンセプトに掲げている。

木造の巨大建造物「大屋根リング」に設けられたゲート。リングの外側部分の高さは最大12mある。
PHOTOS: KOUTAROU WASHIZAKI

日本では1970年にアジア初の国際博覧会として、「日本万国博覧会(通称:大阪万博)」が開催され世界からも注目を集めた。来場者数は延べ6400万人で、当時日本の人口約1億人の二人に一人を超える数字を記録した。21世紀に入り「2005年日本国際博覧会(通称:愛知万博)」(来場者数は約2,200万人)が行われ、日本での万博開催はこれで3度目となる。そして毎回注目されるのが展示もさることながら、パビリオンをはじめとした実験的な建築の数々だろう。それゆえ、万博の中心的な役割を建築家が担うことが多い。大阪万博では丹下健三が、愛知万博では菊竹清訓が総合プロデューサーを務めた。そして来年の「大阪・関西万博」では、会場デザインプロデューサーを建築家の藤本壮介が担う。開催まで4か月と迫った万博で、海外のパビリオン建設の遅れなどが報道され、また万博それ自体の開催意義を問う声も聞かれるなか、どのような意図で会場構成をしていくのか? 視察・打ち合わせに会場を訪れた藤本壮介にその考えを聞いた。

「まず会場デザインプロデューサーとして、僕自身が考える万博の意義についてお話します。今回の万博については、1970年の大阪万博の時とはすでに時代が違うのは事実です。それゆえ21世紀になってまだ万博などやっているのか、万博はすでに時代遅れだ、という指摘があります。確かに旧態依然とした万博の時代ではない。しかしそれゆえに、万博というものが、現代ならではの、とてつもなく素晴らしい意義を持ち始めています」。藤本は開催意義について熱く、しかし落ち着いた口調で語る。

「それは全世界の8割もの国と地域が、それぞれの伝統、文化、歴史、気候風土、生活、食、音楽など、つまり「その全て」を持ち寄って、この小さな大阪・夢洲の地に集まり、そこで半年もの間「共に過ごす」ことだと思います。このような大規模なイベントは、地球上に他にはなく、先進国首脳が集まるサミットや国連総会、オリンピックをも超える地球最大のイベントではないでしょうか」。

ライトアップされた「大屋根リング」を空から見る。会期中も夜間はライトアップされる。
©EXPO 2025

多様性の時代といわれながら分断が激しさを増すこの時代に、それでも世界はつながることができるのか? そんな大きな問いに万博は、「それでも多様な世界は繋がることができる」と世界に向け発信する場だと藤本は言う。世界中の出来事がインターネットで検索すれば全てがわかるという意見もあるなかで、パンデミックを経て実感したのはリアルに空間と状況を体感することの圧倒的な尊さだ。いくらインターネットが発達しても、実際の体験や交流は、より重要性が高まっているとも藤本は指摘する。

その人と人や、国と国とがつながることを視覚的に、あるいは空間で表現したものが、藤本が設計を手掛け会場のシンボル「大屋根リング」だ。高さは最大20m、内径615mの世界最大級の木造建築で、リングの屋根の下は雨風や日差しなど遮る快適な滞留空間として利用され、リングの屋根からは会場全体を見渡すことも、歩いて一周することもできる。海外パビリオンはすべてこのリング内につくられ、“世界はひとつ”ということを視覚的に体感できるのだ。

「どのような文化圏のどのような世代の人がリングの上から会場を見ても、ひと目で「いま世界がそこに集まっている」「多様な世界は繋がることができる」という万博の意義とメッセージを直感できるように会場をデザインしました。この難しい時代にあって、それでも世界が一つの円の中に共に集まり、つながり、一緒に未来を作ろうとしていること。それを世界中の人々に実感してもらい、そのメッセージが今後数十年間にわたって人々の記憶の中に刻まれていく このリングは「多様な世界がつながりあう」時代の象徴だと考えています」。

実際に会場計画は、壮大なメッセージを伝えると同時に、機能的かつ精緻にデザインされている。藤本の「大屋根リング」の設計意図を整理すれば次の5つのポイントが挙げられるだろう。

「大屋根リング」外観。日本の伝統的な木造建築のような、木組の美しさがよくわかる。

1. 円形の回遊路は大通り的な直線軸や中央広場型に比べて来場者を分散させながらスムーズに回遊させることができる。混雑が予想される万博の会場計画において最も有効な動線計画といえる。

2. 回遊路を大きな屋根で覆い、雨や日差しから来場者を守り、どんな天候でも安心して万博体験ができる。

3. 会場である大阪・夢洲は埋め立て地のため護岸が立ち上がっていて地上に立つと海が見えない。「大屋根リング」の上を歩けるようにすることで、会場を見下ろす視点を獲得し、空や海、街並みなどを見渡す展望スペースとなる。

4. 円という形は、どこが上座であるというようなヒエラルキー(格差)がないニュートラルな形である。唯一の特権的な場所は円の中心だが、そこにはパビリオンは置かずに「森」としている。それは自然と共生するこれからの社会の象徴ともなる。

5. 東西のエントランスからアプローチするときに、この木造のリングは大きなゲートとして人々を迎え入れる。万博という特別な体験のための高揚感を生み出す。

「大屋根リング」下に設けられた通路「グラウンドウォーク」。悪天候時は雨風をしのぎ、夏場は日除けの場となる。

またこの「大屋根リング」の素材である木材はその持続可能性ゆえに世界規模で「未来の素材」とも言われている。その最先端の工法と1000年以上の伝統を誇る日本の木造建築の技術を融合し世界へ発信することの意義は大きい。「大屋根リング」に実際上がり工事中の会場を見渡してみて、21世紀の万博のその秘めた可能性を感じることができた。

「大屋根リング」は109個の木架構ユニットを円形につないだ、幅約30m、高さ最大約20m、内径約615m、周長約2kmの世界最大級の木造建築だ。

藤本壮介

建築家。「2025年日本国際博覧会」会場デザインプロデューサー。1971年、北海道生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後、2000年、藤本壮介建築設計事務所設立。現在、東京とパリ、2都市に事務所を構え活動する。

主な作品に「House of Music」(2021年/ハンガリー・ブタペスト)、「マルホンまきあーとテラス石巻市複合文化施設」(2021年/宮城県)、「白井屋ホテル」(2020年/群馬県)、「L’Arbre Blanc」(2019年/フランス・モンペリエ)、「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン(2013年/イギリス・ロンドン)「武蔵野美術大学 美術館・図書館」(2010年/東京都)など。

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